【開幕】「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 ダムタイプ|2022: remap」 世界の知覚、コミュニケーションへの思考を促す アーティゾン美術館で5月14日まで

日本のアート・コレクティブの先駆け的存在であるダムタイプ。第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で、日本館に展示した新作《2022》を、あらためて東京で“再配置”した帰国展です。非常に暗く、かつ静寂な空間で、流れる文字を注視し、ひそやかなサウンドに耳を傾けます。世界をどう感じる取るのか、どのようにコミュニケーションを取るべきなのか。自分なりに考える貴重な時間になりそうです。開幕前日に行われた内覧会で取材しました。

高谷史郎さん(右から2番目)らダムタイプのメンバー。「コロナ禍でヴェネチアで作品を見られる人は限られていました。日本で発表するいい機会をもらえて感謝しています」と高谷さん。
第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展
ダムタイプ|2022: remap
会場:アーティゾン美術館(東京都中央区京橋1-7-2
会期:2023年2月25日(土)~5月14日(日)
休館日:月曜日
開館時間:10:00~18:00(5月5日を除く金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
チケット情報ほか、詳細は公式サイトへ。

ヴェネチアで発表された《2022》は、客観的真実より、主観的あるいは叙情的な意見が影響力を持ちやすくなった現代の「ポスト・トゥルース」の時代を意識した作品です。コミュニケーションの方法や世界を知覚する方法について、思考を促す試みといえます。ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展は2年に一度開催される現代美術の国際展。1895年から120年以上の歴史を重ね、アート界に大きな影響力を持っています。

今展ではヴェネチアでのインスタレーションを単純に再現するのではなく、アーティゾン美術館6階の展示室に合わせて、改めて再配置しました。もともと、ヴェネチアという場所に各国のナショナル・パヴィリオンが立ち並ぶ中で、サイト・スペシフィックに構成された展示。今度は東京という場所に基準に、投影システムやスピーカーなどの装置を厳密に配置しています。

壁に覆われた展示室中央のスペース。1秒間に122,800回明滅する5本のレーザー光線は、6,144個の点となってテキストをかたち作ります。スピーカーからは聴こえるか聴こえないのギリギリの音量で、1850年代の地理の教科書から取られた「地球とは何ですか」「世界で一番大きな共和国はどれですか」などのシンプルな問いを発しています。

新たなダムタイプメンバー、坂本龍一さんは本作のための1時間のサウンドを制作。さらにニューヨークやメキシコシティー、北京、メルボルンなど世界各地でフィールドレコーディングされた音が、東京からの方位に従って配置されたターンテーブルを通して空間に広がっていきます。

内覧会で、ダムタイプメンバーの高谷史郎さんは「見てもらい、感じ取ってもらったものが、その人にとってのこの作品です」と語り、「コロナ禍やウクライナの戦争に直面する中で、お互いに繋がり合い、共存する社会を想像しなくてはいけない時代になっています。地球をもう一度考え直す機会になれば」と話していました。

ダムタイプ
ビジュアル・アート、映像、コンピューター・プログラム、音楽、ダンス、デザインなど、様々な分野の複数のアーティストによって構成されるグループ。1984 年の活動開始以来、集団による共同制作の可能性を探る独自の活動を続けてきました。特定のディレクターをおかず、プロジェクト毎に参加メンバーが変化するなど、ヒエラルキーの無いフラットでゆるやかなコラボレーションによる制作活動は、既成のジャンルにとらわれない、あらゆる表現の形態を横断するマルチメディア・アートとして内外で紹介されています。
これまでに発表した作品は、メルボルン国際芸術フェスティバル、香港藝術節、バービカン・センター(ロンドン)、新国立劇場(東京)、国際モダンダンス・フェスティバル(ソウル)、リヨン現代美術館、アテネ・コンサートホール、シンガポール芸術祭、シカゴ現代美術館、アムステルダム市立劇場など、世界中のフェスティバルや美術館で数多く上演/展示されています。
2018 年には、個展「DUMB TYPE | ACTIONS + REFLECTIONS」が、ポンピドゥー・センター・メッス(フランス)で、その後 2019 年から 2020 年にかけて東京都現代美術館で開催されました。2020 年 3 月には、新作パフォーマンス《2020》をロームシアター京都で制作。2022 年 5 月 6 日から 9 月 11 日までハウス・デア・クンスト(ミュンヘン)で個展が開催されました。

プロジェクトメンバー
高谷史郎、坂本龍一、古舘健、濱哲史、白木良、南琢也、原摩利彦、泊博雅、空里香、高谷桜子

声:
David Sylvian、竹内真里亜、カヒミ・カリィ、ニキ

(美術展ナビ編集班 岡部匡志)