【レビュー】「三井家のおひなさま」三井記念美術館で4月2日まで 日本橋の春を告げる!3年ぶりの開催

三井家のおひなさま |
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会場:三井記念美術館(東京都中央区日本橋室町2-1-1三井本館7階) |
会期:2023年2月11日(土)〜 4月2日(日) |
休館日:月曜日、2月26日(日) |
入館料:一般1,000円/大学・高校生500円/中学生以下無料 |
詳しくは美術館公式サイト(https://www.mitsui-museum.jp)へ。 |
日本橋に春を告げる展覧会が3年振りに
春の恒例「三井家のおひなさま」が3年振りに開催されています。三井家の夫人や娘が大切にしてきたひな人形やお道具の数々を公開。春の訪れを感じるこの展覧会を心待ちにしていた方もいることでしょう。
本展では、総領家にあたる北三井家10代・高棟夫人の苞子(1869~1946年)、11代・高公夫人の鋹子(1901~1976年)、高公の一人娘・浅野久子氏(1933年生まれ)、そして伊皿子三井家9代・高長夫人の興子(1900~1980年)の4人の旧蔵品・寄贈品を中心に、三井記念美術館が所蔵する逸品が展示されています。とくに京都の名店、丸平大木人形店(丸平)の五世大木平藏が特別に製作した、横幅3メートルにおよぶ浅野久子氏のひな段飾りの豪華さには目を見張ります。お道具の数々も素晴らしいものが並びます。
三井家のひな人形の並べかた
3月3日の桃の節句・ひな祭りは、もともと3月最初の巳の日を上巳といい、五節句(七草、上巳、端午、七夕、重陽)のうちのひとつで、平安時代から宮中では曲水の宴が行われていたことに由来し、邪悪なものを祓うための節目の日でした。江戸時代のころから、こうした祓いの行事と子供の人形遊びとが結びついて、ひな人形を飾って女児の成長を祝う行事となりました。
男びなと女びなの並べ方は時代や地域によって異なりますが、三井家では、大正時代に撮影された北三井家のひな飾りの写真にもとづき、男びなを向かって左、女びなを右に並べています。
また、古くから公家や武家などでは持ち物を区別するため、所有者固有の符牒である「お印」を用いていました。三井家でもそれぞれのひな人形などを収める外箱には「お印」がつけられています。本展では「お印」(苞子=「巴印」、鋹子=「小蝶印」、浅野久子氏=「永印」、興子=「珠印」)ごとに作品が並べられています。
旧富山藩主の家から嫁いだ夫人のひな人形
まずは北三井家10代・高棟夫人である苞子旧蔵のひな人形です。実家の旧富山藩主の前田家から持参したもの、結婚後に新たに作られたもの、以前から三井家に伝来したものなどが並びます。
ひな人形は衣裳や小物もさまざま、そしてなにより顔立ちがそれぞれ趣深いです。人形は顔が命と言われますのでじっくり見比べるのも楽しいです。

享保雛は江戸時代中期の享保年間を中心に流行し、明治時代まで制作されました。ふっくらとした顔立ちで袿にもそれぞれ綿がふんだんに入っています。金襴や錦など上等な織物を衣裳に使い丁寧なつくりが特徴です。

有職雛は有職故実にもとづき公家の装束を再現した、由緒正しいひな人形です。派手さはありませんが、衣裳は化学染料を使用せず、すべて草木染で味わい深いです。(筆者は着物好きなことから調べたことがありますが)化学染料の誕生は案外新しく、日本で使われ始めたのは明治初期のことになります。女びなも男びなも衣裳の織りが大変細やかで、衣を重ねた色目も上品です。

こちらの内裏雛は苞子が三井家に嫁いだ2年半後に新調されたものです。京都の人形師・丸平(三世大木平藏)の製作です。丸平のひな人形は皇族や良家の子女に大変人気で、丸平でひな人形を作ることは大変なステイタスでした。谷崎潤一郎の『細雪』にも次女・幸子の娘のひな人形は初節句の時に京都の丸平で作らせたものとして登場しています。衣裳は金の刺繍が豪華で、瞳には仏像などに使われる玉眼(ガラス)が使われ大変贅沢なものです。

次郎左衛門雛は、川柳に「きめのいい団子に目鼻、次郎左衛門」と詠まれたとおり、白玉団子のような顔にあっさりした目鼻がかわいらしいです。素朴で親しみやすい表情で、体もふっくらしています。次郎左衛門は幕府御用も勤め、江戸時代後期に江戸で流行し長く人気がありました。

こちらの豪華な蒔絵の女乗物のミニチュアには2種類の紋が入っています。梅鉢紋は旧富山藩主前田家、違鷹羽は旧広島藩主浅野家の家紋です。苞子の祖母は浅野家から前田家に嫁いでおり、それを譲りうけて三井家に持参したものとされています。

こちらの銀製のひな道具は、公家や鍋島家などの大名家などしか持っていなかった大変貴重なものです。飾台(高さ16.5センチ、幅33センチ、奥行26センチ)に三棚や三曲(箏・三味線・胡弓)、文具や食器など、とても小さなひな道具がびっしりと並んでいます。それぞれ細工が細やかで驚嘆します。
三井家のおひなさま勢ぞろい
続いて北三井家11代・高公夫人の鋹子の旧蔵品(小蝶印)、高公・鋹子の長女の浅野久子氏の寄贈品(永印)、10代高棟の娘で伊皿子三井家に嫁いだ興子の旧蔵品(珠印)と、3人の三井家の女性たちのひな人形が並びます。




特に正面の浅野久子氏のひな人形の豪華さに圧倒されます。浅野久子氏は北三井家11代・高公の一人娘として昭和8年(1933年)に誕生しました。初節句に京都の丸平大木人形店・五世大木平藏に注文してあつらえたひな人形・ひな道具は当時家が1軒買えるほどの大変贅沢なものです。
さらに今回展示されているお道具はその一部だそうです。女びなの衣裳はきちんと着脱ができるように仕立てられ、何枚も重ね着しています。そのため袖や衿の重なりが非常に美しく見事です。顔も肌が大変なめらかで美しく気品があります。ぜひ会場でお近くからご覧ください。
春の訪れを一足早く

ひな人形のほかに、三井家の男の子のために作られた五世大木平藏製の御所人形なども並びます。また、「近年の寄贈品」として寄贈品の絵画や工芸品も複数お披露目されています。まだ寒い日が続きますが、3年振りとなる本展で、一足早く春の訪れを感じてみてはいかがでしょうか。
【ライター・akemi】
きものでミュージアムめぐりがライフワークのきもの好きライター。
きもの文化検定1級。Instagramできものコーディネートや展覧会情報を発信中。コラム『きものでミュージアム』連載中(Webマガジン「きものと」)。
展覧会に合わせたコーディネート。桃の節句に合わせて桃色の御召に小花の帯。根付けはつるし雛です。