【レビュー】思わず本能で鑑賞した「タグコレ展」!宇宙のような漆黒に浮かぶアート作品たちは惑星のよう

展示風景

「天空の城がドカ~ンと所沢に着地した」。
そんなイメージを持っているのが、角川武蔵野ミュージアム(埼玉)です。現実にはあり得ないような不思議な多角体をしたこの岩の城郭は、中に入っても期待を裏切らない異世界がひしめいているクリエイティブの殿堂です。

角川武蔵野ミュージアム 外観

ここで、タグチアートコレクション、および、ミスミコレクションを紹介する展覧会「タグコレ 現代アートはわからんね」が5月7日(日)まで開催中です。果たして、普通の美術館のように整然と展示されているのでしょうか?

「タグコレ」とは?

タグチアートコレクション(以下、タグコレ)は、世界最先端の現代アートを現在進行形で増やし続けている本格的なアートコレクション。もともとは、現代アートとまったく縁がなかった昭和のビジネスマン、田口弘さんが1991年に形成したコレクションから始まっています。今や娘の田口美和さんにバトンタッチされ、時代とともに変化しながら発展しています。そしてタグコレには、「みんなに見てもらいたい」という強い願いも込められています。

このタグコレと、角川武蔵野ミュージアムがタッグを組んだのであれば、何かやらかしてくれるのではないかな? そんな期待を高めつつ、いざ潜入してみました。

暗闇のなか惑星のように輝くアート

階段で地下1階へ降り、「タグコレ現代アートはわからんね」と書かれたエントランスから入ってみました。いきなり、隣の人の顔もはっきり見えないほど暗い廊下に足を踏み入れることになり、ちょっとびっくり。しかも、この廊下、意外と長いのです。1分ほど歩き、そろそろ明るい展示会場に出るのかなと思ったところ、ぱっと開けた空間も同じくらい暗い!

展示風景より、中央はアンディ・ウォーホル《キャンベルスープの缶》(「キャンベルスープⅡ」より)1969年

宇宙空間に放り出された飛行士のような感覚に一瞬戸惑うのですが、あちらこちらに散らばって惑星のように輝いているのは、アート作品ではありませんか! アンディ・ウォーホルのキャンベルスープ缶やキース・ヘリングのストリートアートなど見慣れた作品もあれば、初めて見るアーティストの巨大な絵画や、謎めいたオブジェなどいろいろ。普段、真っ白い壁に囲まれた明るい展示空間で見るときとは全く異なり、作品が異世界の存在となって手招きしているように感じます。

色や形で強烈に訴えかけてくる作品のもとへ吸い寄せられるように近づいては、「あっ、あちらも面白そう!」と、次の作品へ飛び移る。気づけば、本能にまかせて花から花へ飛び移る「ちょうちょ」になったような感覚で作品を楽しんでいました。こんなに自由にアートを鑑賞できるなんて! この展覧会すごい。

作品解説や収集経緯も

実は、作品の他にも暗闇に浮かんで輝いているものがあります。

展示風景より

それは言葉。

さまざまな大きさで、くねくねとしていたり斜めになっていたりと、動きのある文字が伝えてくれる言葉は、宙に放たれた作品たちの記憶のように感じられます。

展示風景より、中央は加藤泉《無題》2010年

こちらの不思議な人面動物の前に立つと、この作品の作家である加藤泉さんについての説明と、彼の作品を購入した田口弘さんの感想が、吹き出しのように視界に入ってきました。

展示風景より

これらのキャプションによると、弘さんは、加藤さんの作品を「よくわからないけど、面白い」と思い、最初は彼の絵画から買い始めたけど後に彫刻の作品も購入するようになったとのこと。そのきっかけは、アートアドバイザーの塩原将志さんから「タグコレのコレクション展をするときには、立体作品もあったほうがいい」と勧められたからだそうです。

このように、輝いて浮かび上がるキャプションには、コレクターがどのように考えて購入したかや、入手困難な作品をどのようにして収集したかがつまびらかに書かれていて、興味をそそられます。

価格交渉の末に収集した最先端のアート

印象に残った作品をもう一点挙げるなら、ラキブ・ショウの《ポピーの花の聖セバスティアヌス》。弘さんの娘の美和さんが初めて海外のアートフェアで購入した作品です。会場では、世界中のコレクターや美術館から引くてあまたの作品を手に入れた経緯も解説されていました。

展示風景より

美和さんが、緻密な装飾と骨太なテーマに惚れ込んで購入を希望したのですが、大変な人気作家で、最初から予算オーバー。またしても、ここで活躍するのがアートアドバイザーの塩原さんです。高額になる前のプライマリーマーケットでの価格や、現在のセカンダリーマーケットでの価格をリサーチしつつ、世界のアートディーラーネットワークで情報を集めながら、ギャラリーには「明日まで考えさせてほしい」と、作品を予約。下準備を万全にしたうえで、翌日に交渉したところ、値引きしてもらえて、購入に至ったとのことです。グローバルな視点で価値あるコレクションを作る背景には、このようなプロセスがあるのですね。

知らない作家の作品でしたが、「そこまでして手に入れたんだ!」と思うと、まじまじと見てしまいます。真っ青な空を背景に赤いポピーが咲き乱れ、黄金の猿の天使たちが飛び交う様子は、甘美ですらあります。しかし、よく見ると、ポピーで縛られた黒い獣のような聖セバスティアヌスに無数の矢が突き刺さっています。

※作品はこちらからご覧ください。

角川武蔵野ミュージアムのアート部門ディレクター・神野真吾さんは、「タイトルにある『聖セバスティアヌス』とは3世紀に殉教したキリスト教の聖人です。キリスト教が禁止されていたローマ帝国で、セバスティアヌスは処刑されますが、何度矢に射抜かれても死ななかったという伝説が残っており、ルネサンス以降多くの画家たちがその姿を描いています。ショウは、このような古典的画題に現代的な解釈で取り組んでいます」と解説しています。確かに骨太なコンセプトですね。

日本にいると、なかなか出会えない世界最先端の現代アートを、身銭を切って集めて私たちに見せてくれるタグコレに感謝感激。

実は、本展のメイン会場である1階グランドギャラリー以外の各エリアにも、様々なタグコレ作品が展示されています。例えば4階のエディットタウンでは、田名網敬一、さわひらき、潘逸舟らの作品が本に紛れて飾られ、本の文脈の中に作品を配架するという新たな展示方法が実施されています。

展示風景より、潘 逸舟《リクライニング・スタチューズ》2015年

入場無料のスペースでも、西野達による巨大なインスタレーション《やめられない習慣の本当の理由とその対処法》などを展示して、来館者それぞれが自分に合った方法でタグコレの現代アートを体験できるよう工夫されています。

展示風景より、西野達《やめられない習慣の本当の理由とその対処法》2020年 © Tatzu Nishi Courtesy of ANOMALY

本展を機に、フィジカルにも、メンタルにも、ポジティブな刺激をいっぱい浴びられる「タグコレ」を鑑賞してみるのは、グッドアイデアではないでしょうか。

(ライター・菊池麻衣子)

タグコレ 現代アートはわからんね
会期:2023年2月4日(土)~5月7日(日)
会場:角川武蔵野ミュージアム(埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3 ところざわサクラタウン内)
開館時間:日〜木曜 10:00~18:00(最終入館 17:30)金・土曜 10:00~21:00(最終入館 20:30)
観覧料:【オンライン購入価格】一般1,800円/中高生1,300円
【当日窓口購入】一般2,000円/中高生1,500円
※ともに小学生・未就学児は無料。保護者1名につき小学生2名まで無料で入場可。
休館日:毎月第1・第3・第5火曜日(祝日の場合は開館・翌日閉館)
アクセス:JR武蔵野線「東所沢」駅から徒歩約10分
詳しくは同館の展覧会HPへ。