【探訪】「こけしの世界」展 その多彩な意匠に驚き、そして夢中 小説家・永井紗耶子さん 横浜人形の家で3月12日まで

あったよね、戸棚の中に。誰からのお土産だったっけ…ほら、おばあちゃんちにも…

そんな存在、こけし。

その「こけしの世界展」が、横浜人形の家にて開催されています。

古くて新しいこけし

今、私たちがふと頭の中に思い描く「こけし」が誕生したのは、意外と新しく、江戸時代の後期の文化文政年間(18041830)頃、遠刈田か作並ではないか…とのこと。

ただ、そのルーツとなっているのは、古くから子どもの厄除けの為に使われた、這子(ほうこ)ではないかと考えられているそうです。なるほど確かに、何となく姿形が似ているかもしれません。

それがこうして、東北地方で広がっていったのは、宮城の領主であった伊達家に抱えられた木地挽、新国掃部によって、木地師(きじし)らがその地に根差していったことが、一つの理由であるとか。木地師とは、木を使った器や道具などを作る職人のこと。轆轤(ろくろ)師ともいい、轆轤鉋と呼ばれる道具で曲線を彫り上げていきます。

こけしはそのユーモラスな雰囲気と可愛らしい顔立ちで、郷土玩具とされていますが、その形はシンプルでありながら、実はすごい。頭は美しい球体をしており、滑らかな体は直線的なものもあれば、曲線や、くびれがあるものもあります。表面はなめらかで、手に取るとしっかりと馴染む。

今回、展示されているこけしの中には、岩手の「南部系」と言われるものがあります。他の地域のこけしとは異なり、顔が描かれていない、無地の系統なのですが、これは赤ちゃんのおしゃぶりなどとしても使われていたとのこと。赤ちゃんが手に取って、握って、しゃぶっても心地よい仕上がりになっているのも、やはり熟練の木地師たちのお仕事の賜物なのでしょう。

 

こんなに種類があったなんて!

こけしは地域によって顔や形、体の模様などにも系統があるということ。実は今回、私も初めて知りました。

種類は主に十一系統。最も古い系統とされるのが遠刈田、それから作並、土湯、鳴子、作並、山形、肘折、蔵王高湯、木地山、津軽そして南部…。

私にとって馴染み深いと感じたのは、「鳴子系」でした。子どもの頃、誰かのお土産でいただいて以来、ずっと家にあったので、見慣れていたのだと思います。そして、大人になってから訪れた鳴子温泉では、巨大なこけしを見て、

「ああ、これがこけしの故郷か…」

と、思ったものです。

鳴子系のこけし

しかし、それだけじゃない。先ほどの顔のない「南部系」もなかなかなインパクトですが、こちらは、いつ頃からあるのか、分かっていないようです。

意外と親しみを感じたのは、眉毛が太い「津軽系」。これは、大正に入ってから誕生したとのことで、そのせいか、少し写実的なのかもしれません。「あ、〇〇に似ている」と言いたくなるような雰囲気がありました。

そして、色鮮やかでベレー帽のような頭頂部を持つ「弥治郎系」。これは、安政元年(1854)頃に、遠刈田の木地師が移り住んで、弥治郎の木地師に技術を伝えたことで生まれたとのこと。安政五年といえば、いよいよ幕末という頃。その時代に、こんなに可愛らしい郷土玩具が生まれていたんだ…と、時代背景と共に眺めていました。

弥治郎系のこけし

 「推しこけし」を探せ

今回のこの企画展は、写真も自由に撮影でき、「お気に入りの顔(推しメン)を探そう!」ということで、#こけしの世界 #横浜人形の家 のハッシュタグをつけSNSアップが可能。

「そう言われるとやってみたい…」

と、しみじみとこけしの顔を見ていると、本当にそれぞれに違う。

目の描き方や体の模様は、地域ごとに系統はあるのですが、思わず「お!」と、思ってしまう独特のものもあります。

また、古くから伝わるものだけではなく、若手作家による作品もあり、いざ「推し」を見つけようと思うと迷うほどでした。

佐々木一澄氏による『こけし図譜』原画 「遠刈田系こけし工人」

 今回のこの企画展は、イラストレーターである佐々木一澄氏の書籍「こけし図譜」の原画も展示。そのモチーフとなったこけしたちもいます。また、ミュージアムショップではこけしグッズも紹介しているほか、2/18には、こけしマーケットも開催されるとのこと。

また、3/5には、佐々木一澄氏と、「アウトオブ民藝」の筆者、軸原ヨウスケ氏のこけし愛溢れるトークイベントも開催されるとのこと。

 

こんなに「こけし」に向き合うことなんて、人生でなかなかないかもしれません。

でも、長らく愛されてきた郷土玩具であり、素朴ながらもポップなこけしは、これからもまだまだ進化していくのかもしれない。

知っているはずで知らなかった「こけしの世界」を堪能できる展覧会でした。

ぜひ、お運びください。

佐々木一澄『こけし図譜』と横浜人形の家コレクション
こけしの世界
会場:横浜人形の家2階 多目的室(横浜市中区山下町18)
会期:2022年12月17日(土)~3月12日(日)
開館時間:9:30~17:00(最終受付16:30)
休館日:毎週月曜日
観覧料:大人(高校生以上)600円/小中学生300円
※入館料(大人400円/小中学生200円)含む・未就学児は入館および観覧料無料
※同時開催中の企画展観覧には追加料金が必要
アクセス:みなとみらい線「元町・中華街」駅4番出口より徒歩3分
JR根岸線「石川町」駅元町口より徒歩13分
詳しくはhttps://www.doll-museum.jp/10277
永井紗耶子さん:小説家 慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経てフリライターとなり、新聞、雑誌などで執筆。日本画も手掛ける。2010年、「絡繰り心中」で第11回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。著書に『商う狼』『大奥づとめ』(新潮社)、『横濱王』(小学館)など。第40回新田次郎文学賞、第十回本屋が選ぶ時代小説大賞、第3回細谷正充賞を受賞。『女人入眼』(中央公論新社)が第167回直木賞候補に。新刊『木挽町のあだ討ち』(新潮社)。