【レビュー】北欧の織物「リュイユ」とは?「リュイユ―フィンランドのテキスタイル」京都国立近代美術館で4月16日まで

「リュイユ―フィンランドのテキスタイル:トゥオマス・ソパネン・コレクション」
会場:京都国立近代美術館 4Fコレクション・ギャラリー(京都市左京区岡崎円勝寺町)
会期:2023年1月28日(土)~ 4月16日(日)
開館時間:10時~18時(閉館の30分前までの入館) ※4月14日を除く金曜日は午後8時まで開館
休館日:月曜日
入館料:一般430円、 大学生130円
詳しくは、美術館の公式サイト(https://www.momak.go.jp/

北欧ブームで関心が高まっているのがフィンランドデザイン。しかし、「リュイユ(Ryijy)」という言葉は、あまり聞き慣れない方も多いのでは?

フィンランドの伝統的なテキスタイル「リュイユ」は、スカンジナビアの言語で「厚い布」を意味する「Rya」に由来した毛足の長いウールの織物です。フィンランドのアイデンティティがあらわれた織物とも言われています。128日から、京都国立近代美術館で企画展「リュイユ―フィンランドのテキスタイル:トゥオマス・ソパネン・コレクション」が開かれています。

本展は、まとまった形でリュイユを紹介する日本初の展覧会であり、フィンランド国立博物館に次ぐ世界第2位のリュイユコレクション「トゥオマス・ソパネン・コレクション」を日本で初めて観ることができる貴重な機会として注目を集めています。担当の宮川智美研究員に見どころや写真画像からは伝わりにくいリュイユが持つ魅力について聞きました。

日本人がリュイユを知ろうとしても情報がほとんど無かった

会場風景

「まず、日本人がリュイユについて知ろうと思っても情報がほぼありません」と宮川さん。

英語でも、トゥオマス・ソパネン氏の著書やフィンランドのデザイン・ミュージアムでの展覧会カタログなどの情報くらいしか無いそうで、「本展の図録が、コンパクトながら、リュイユの基本情報を日本語で知ることができる、初めての文献だと思います」と説明します。

 リュイユは、15世紀頃にはフィンランドの文献に登場し、寝具(ベッドカバーや毛布)として防寒具の役割を担い、のちに壁掛け(タペストリー)など室内装飾品や敷物(ラグ)へと変遷していきました。初期の主流は無地でしたが、次第に模様が複雑化し、幾何学的な文様や祈りなどの象徴的なモチーフが現れるようになります。

本展では、1950年代以降の作品を中心に、現代作家による1点ものの作品を含む47点を展示。近現代におけるリュイユの色彩表現の魅力を知ることができる内容です。

転換点となったパリ万博に出展されたガッレン=カッレラの「炎」

アクセリ・ガッレン=カッレラ《炎》 1899年(デザイン)/1983年(再制作) トゥオマス・ソパネン・コレクション

 リュイユの大きな転換点となったのが、1900年のパリ万博に出展されたフィンランドの国民的画家アクセリ・ガッレン=カッレラの「炎」です。ロシアからの独立直前に制作されたこの作品は、民族のアイデンティティーを示す一翼を担いました。当時ロシアの自治領でしたが、フィンランド館として単独でパビリオンを出し、そのなかでフィンランドの手工芸を紹介するモデルルーム形式の「イリス・ルーム」のベンチ用ラグとして制作されたデザインです。

 画家のデザインを基にして実際の制作をおこなったのは、フィンランド手工芸友の会(1879年設立)でした。

「フィンランドを代表する画家・ガッレン=カッレラの作品以降、デザイナーや画家が、その時代に合ったリュイユの新たなデザインを制作するようになりました。それを実現するプロの織り手との協力関係により、新しい表現が花開いたのです」(宮川さん)

 水彩画のような美しいグラデーション「ヴァローリ・リュイユ」

1930年代の終わりにかけて、色彩・色調表現に特化した「ヴァローリ・リュイユ」が生まれました。特徴は、非対称の構図とぼやけた輪郭線、色彩豊かなグラデーションです。

ウフラ=ベアタ・シンベリ=アールストロム 「採れたての作物」 1972年 トゥオマス・ソパネン・コレクション

こちらは、本展のメインヴィジュアルを飾るウフラ=ベアタ・シンベリ=アールストロム 「採れたての作物」。

ウフラ=ベアタ・シンベリ=アールストロム 「採れたての作物」の部分。複雑な色糸のグラデーションが美しい

同じ緑や赤でも色は単調では無く、明暗など微細に使い分けた色糸の組み合わせで制作されています。この作品の美しさについて、宮川さんは、「微妙に異なる緑色の糸を使い分けることで、まるで光が当たっているかのように見え、かつ毛足が長いので、平面にはない奥ゆきがあって、実際に目で見る時にはとても複雑な色に見えます」と説明します。

 遠くから観て 近づいて観て

向かって左から、レーナ・ハルメ「冬の色」(2013年)、「青い夜」(2006年)、「カネルヴァ」(2010年)、「春の日差し」(2003年)レーナ・ハルメは、80~90年代には輸出用に当時流行していたサイケデリックなデザインをしていたが、引退後、全く異なる作風になった

「色彩表現としては点描画のようですが、絵画の点描表現とは異なり、糸の奥ゆきをもつ織物だからこそ見られる立体感もご覧いただけたら」(宮川さん)

宮川さんが大好きな作品のひとつというレーナ・ハルメの4作品は、淡い色味の魅力が凝縮しています。レーナ・ハルメ自身が織り上げた作品。

レーナ・ハルメ「冬の色」(部分) 間近で見ると素材や色の違いがはっきり分かる

 間近で観ると、いかに複雑な色の組み合わせによって生み出された作品かが良く分かります。

 異素材の組み合わせの魅力

左から2番目、マイヤ・ラヴォネンの「小さなリュイユ」(2015年)と「青いリュイユ」(2016年)
マイヤ・ラヴォネンの「小さなリュイユ」の近影。毛足の長さが異なる異素材の糸やアクリルロットが生み出す、一様ではない白

 向かって左から2番目の作品は、マイヤ・ラヴォネンの「小さなリュイユ」(白)と「青いリュイユ」。同じ白や青でも麻とウールの異素材を使用することで見え方が異なり、さらにアクリルロットが織り込まれることでキラキラと輝いて見えます。

テキスタイルアートとして

右はメリッサ・サンマルヴァーラ「氷瀑」(2021年) 毛足の長さ、色の微細なグラデーションで氷瀑の勢いが伝わってくる

リュイユの技法は、テキスタイルアートとして、アート表現技法のひとつになりました。「リュイユの歴史的な変化を縦軸とすると、横軸にはその時々の時代背景があります。今回は特に現代作家の個人の表現である、テキスタイル・アートとしてのリュイユもご覧いただけたら」と宮川さん。

受け継がれてきたリュイユ技法を使って、作家たちが多様なアート表現を展開していることを、ぜひとも「実物」から感じ取っていただきたいと思う展覧会でした。
(ライター いずみゆか)