【アンナさんのイタリア通信 ♯6】フィレンツェの宮殿との“共同制作”を実現したオラファー・エリアソン 「あなたの時代に」展

日本では2020年、東京都現代美術館で開催された大規模個展が記憶に新しいオラファー・エリアソン。昨年秋から年明けにかけて、イタリアの歴史的建造物を会場にユニークな展覧会を開きました。アンナさんのレポートです。
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イタリアではこれまでで最大規模となるオラファー・エリアソンの個展、”NEL TUO TEMPO”(あなたの時代に)が、フィレンツェのルネサンス建築を代表するストロッツィ宮殿で開催されました(1月22日に閉幕)。
世界的人気を誇るアーティスト、エリアソン。彼は今回、この歴史的建造物を舞台とする展覧会で、「空間を体験し、その中を移動し、時間の感覚を利用する」(『The weather project』より)ことを来場者に呼びかけました。エリアソンの狙いは、時間の流れを感じさせ(それが展覧会のタイトルにもなっている)、さらに、ストロッツィ宮殿の価値が数世紀にわたってどのように変化してきたかを浮き彫りにすることだったのです。
エリアソンは、水、光、闇、色、影、鏡を通して、ルネサンスを象徴する建物であるストロッツィ宮殿の会場と作品を対話させ、新しい視覚と空間認識を明らかにしました。歴史的な建築物は実際、単なるアート作品の展示スペースの役割を捨て去り、展覧会の「共同プロデューサー」となったのです。
彼の作品が、お客さまを取り巻く空間との関係における知覚や動きについて考えるよう、誘ってくれます。ストロッツィ宮殿の中庭に設置されたサイトスペシフィックな作品「Under the weather(天気の下)」はその一例です。

©photoElaBialkowskaOKNOstudio
Courtesy Studio Olafur Eliasson; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles
8メートルの高さに吊るされた11メートルの楕円形の構造物で、作家はモアレ効果を利用しています。(モアレ効果というのは、点や線が幾何的に規則正しく分布されたものを重ね合わせるとき生じる干渉模様)。
宮殿のピアノ・ノービレ(高貴な階)に展示された最初の3つの作品は、建物の建築的要素との相互作用を意図したものです。エリアソンはストロッツィ宮殿の空間に介入することで、その外観を変え、形を変え、すべて窓のプロジェクションによって新しい空間を作り出したのです。
「Triple seeing survey(トリプルビジョンサーベイ)」では、ストロッツィ宮殿の中庭に設置された3つのスポットライトから投射された光が、大きな窓を透過して壁に二重窓を作り、素材の凹凸も再現しています。部屋がギャラリーや屋根のあるロッジア(一方の側が外に開かれた廊下)のように変身し、環境の外観が大きく変化したのです。

「Tomorrow (トゥモロー)」では、原理は似ていますが、外から入ってきた光を特殊なフィルターを通して色付けし、朝日や夕日のようなイメージを来場者に提供していました。

一方、残りの展示室では、エリアソンの歴史的な作品と最近の作品である「How do we live together?(どうやって一緒に暮らすか?)」や、「Solar compression」(ソーラーコンプレッション)、「Red window semicircle (赤い半円形の窓)、「Your Timekeeping Window」、「Triple window(トリプルウィンドウ)」などの光のインスタレーションが展示されました。





「Beauty(ビューティー)」は、暗い部屋の中央にポンプで人工的な霧を発生させ、そこに虹を映し出し、部屋の中を移動する観客の知覚によって変化させるというもので、彼の初期、そして最も独創的な作品の一つです。

©photoElaBialkowskaOKNOstudio
Courtesy Studio Olafur Eliasson; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles
最後に、万華鏡のインスタレーションの「Firefly double-polyhedron sphere experiment (蛍 二つの多面体による試み)」と「Colour spectrum kaleidoscope (カラースペクトル万華鏡)」の次に、「Room for one colour(単色の部屋)」がありました。


©photoElaBialkowskaOKNOstudio
Private collection; Courtesy Studio Olafur Eliasson; Galería Elvira González, Madrid, and neugerriemschneifder, Berlin

©photoElaBialkowskaOKNOstudio
Angsuvarnsiri Collection; Courtesy Studio Olafur Eliasson
宮殿の地下にあるストロッツィーナ部屋では、バーチャルリアリティのインスタレーションが展示されていましたが、これは本展示の弱い部分となってしまいました。
個人的には、オラファー・エリアソンの展覧会を鑑賞するのは初めてでした。最初は少し戸惑いましたが、展覧会を読み解く従来の規範を放棄し、雰囲気と照明に身を任せることにしました。時間を忘れてしまいました。あるときは、作品を見ているうちに自分の考えや思い出に浸り、あるときは、幼稚園児の集団が作品に接する様子を楽しんでいました。
展覧会名: ”NEL TUO TEMPO”(あなたの時代に)
会場:フィレンツェ、ストロッツィ宮殿 www.palazzostrozzi.org
会期:2022年9月22日〜2023年1月22日
来場者数 16万3千人
アンナラウラ ヴァリトゥッティ(Annalaura VALITUTTI)さん
1975年、イタリアのサレルノ生まれ。ナポリ東洋大学で日本語日本文学を専攻し、「遠野物語」及び「オシラサマ」を専門とする。仕事で数年間日本に滞在し、2011年には東京の慶應義塾大学に留学する。日本芸術や民俗学について特別な関心を持ち、ローマで読売新聞の美術展のコーディネーターやアートアドバイサーとして活躍している。
(美術展ナビ編集班)