【レビュー】滋賀県立美術館 企画展「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」 自分と地球とのつながりを感じる写真展

展覧会場で笑顔を見せる川内倫子さん(滋賀県立美術館で)

印象的な光の撮り方と、なにげない日常を切りとりながらも被写体の存在感を感じさせる作品で人気の写真家、川内倫子。本展は昨年秋に東京オペラシティアートギャラリーで開かれた「川内倫子:ME 球体の上 無限の連なり」の関西への巡回展です。会場デザインは東京展と同じく中山英之建築設計事務所が手がけました。川内倫子が4歳まで過ごした故郷である滋賀で大規模個展が開催されるのはこれが初めてとなります。

また、企画展に合わせて常設展「特別展示 川内倫子と滋賀」も同時開催中です。こちらは、滋賀県立美術館がリニューアルする際に川内が撮り下ろした作品をはじめ、特に滋賀と繋がりのある作品群が展示されています。

 両展ともに「私たちが住む世界はこんなに光に溢れていたのか」とハッとさせられる作品の数々。川内が見つめる日常と非日常、ミクロとマクロ、死と生が、作品を観る人にも共有される展示となっています。

何かに包まれているような感覚 「ME

川内倫子《無題》(シリーズ〈光と影〉より) 2011

<光と影>は東日本大震災直後の石巻、女川、気仙沼、陸前高田を訪れた川内が被災地を撮った作品。ガラス窓の向こうに展示されたスライドショーは、観る者と作品の間に距離感が感じられます。それは被災地で感じたリアルな現実が、日常に帰ってきたとたん非現実なもののように感じられた距離感なのだと川内は語ります。本展は川内の視点や経験を観る人が追体験できるよう構成にも工夫が凝らされています。

会場風景 シリーズ〈あめつち〉より

熊本県阿蘇で古くから行われてきた野焼きを撮影したシリーズ<あめつち>。作品のひとつが窓の外に展示されています。もともとあった桜の木の枝が作品の前に迫り出しています。最初は「切ろうか」という意見も出たそうですが、川内は「これも自然の一部」と残すことに決めたといいます。確かに周りの自然とも馴染んで、一つの世界を構成しているように見えます。

会場風景 シリーズ〈M/E〉より

ME>は2019年より取り組んできた新作のシリーズです。アイスランドの火山のなかに入った経験から着想してつくりあげられた空間に身をおくと、胎児だった頃の記憶を辿っているかのよう。包まれている感じを出すために、170メートルもの白い布を折って中をくりぬいてあるのだそうです。

会場風景 シリーズ〈M/E〉より

そのなかに展示されている写真は冬の北海道を撮ったものが多くあります。川内が「厳しい寒さのなかでしか見えないものがある」というように、雄大さ力強さを感じる一方でどこかに脆さや儚さを孕んでいるような作品に目がとまります。

 

写真家の原風景に出会う 常設展「川内倫子と滋賀」

〈無題〉滋賀県美リニューアルオープンイメージ

滋賀県長浜市醒井(さめがい)で有名な清流に咲く花、梅花藻です。これは、滋賀県立美術館のリニューアルオープンのポスターに使われた写真です。水面に浮かぶ白い花はきどったところがなく、ありのままの可憐さ。写真から素のままの滋賀が伝わってきます。

会場風景 シリーズ〈やまなみ〉より

滋賀県甲賀市にある障害者福祉事業所「やまなみ工房」に3年間通い続け完成させたシリーズ<やまなみ>の作品が、「やまなみ工房」の作家の作品とともに並びます。映像作品から流れてくる声や音も合わせてひとつの世界を構成しています。

会場風景 シリーズ〈やまなみ〉より

展示室のなかに小さな部屋があり、そこに入ってみるとスライドショーの作品が投影されていました。これは、川内が祖父の死と甥の誕生という生と死の循環をきっかけに13年にわたって家族を撮り続けたシリーズ<Cui Cui>です。寄り添うおじいさんとおばあさん、土のついた大根、トイレのタンクなど、家族の日常にあるものが次から次へと目のなかに飛び込んできます。いずれもどこかで見たことがあるような、ありふれた光景のように見えるのに、目が離せない不思議な感覚を味わいます。これこそ川内作品の真骨頂でしょう。

会場風景 シリーズ〈やまなみ〉より

作品から伝わるのは「すべてのことはこの地球の上で起きていること」というメッセージ。無限の連なりは、生と死の連なり、私とあなたの連なり、地球と人間との連なりであるように感じられます。また、常設展と合わせてみることで写真家川内倫子を育んだ原風景にも出会うことにもなるでしょう。その時間は自分がこの地球上で生かされていることを改めて知る時間になるかもしれません。

(ライター・若林佐恵里)

企画展 川内倫子 M/E  球体の上 無限の連なり
会場:滋賀県立美術館 展示室3
会期:2023121日(土)~326日(日)
休館日:毎週月曜日
開催時間:9:30~17:00 ※入場は16:30まで
観覧料:一般1300円 大・高生900円 小・中生700円
※同館ホームページ(https://www.shigamuseum.jp/)。
常設展 特集展示「川内倫子と滋賀」
会場:滋賀県立美術館 展示室2
会期:2023111日(水)~57日(木)
休館日:毎週月曜日
開催時間:9:30~17:00 ※入場は16:30まで
観覧料:一般540円、高校・大学生320円、中学生以下無料
※同館ホームページ(https://www.shigamuseum.jp/)。