【BOOKS】「ハプスブルク事典」(丸善出版) 欧州の文化と歴史を随一の名門から振り返る 美術ファンも注目 『エリザベート』などにもスポット

欧州史を語る上で欠かせない「ハプスブルク家」に焦点を当てた事典が出版されました。ハプスブルク家と言えば、改めていうまでもなくヨーロッパの歴史において中世以来、第一世界大戦後までの600年余にわたり、常にその中心にあり、政治・経済・文化とあらゆる領域に影響を与えた名門。その歩みは神聖ローマ帝国、世界帝国スペイン、荒れ狂う諸国間の戦争の時代、啓蒙の時代、多民族帝国と現代の国民国家の行方に至る欧州史のあらゆるターニングポイントに、またスペインからバルカン半島に至る全土にかかわっています。日本ではスペインとオーストリアに分けて語られがちなハプスブルク家ですが、あえて一体のものとして捉えることで、むしろ欧州の文化と歴史が分かりやすく見えてきます。そうした狙いを持って編纂された注目の一冊。美術ファンにもおすすめの内容です。

【書籍詳細】
『ハプスブルク事典』
川成 洋 編者代表 菊池良生・佐竹謙一 編
2023年2月2日発売 丸善出版発行
定価24,200円(本体22,000円+税10%)
A5判・826頁 ISBN:978-4-621-30681-9
丸善出版ウェブページ https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b304334.html
(※目次詳細は上記ページにてご確認ください)
美術や音楽、建築などアートに関わる記述もそれぞれの専門家が執筆。充実しています。「エル・グレコ」「ルーベンス」「ベラスケス」「ムリーリョ」などの重要な画家はそれぞれ項目が設けられ、ハプスブルク家や当時の政治状況などを交えて解説。いかに彼らの活動が王室と深くかかわっていたかがよく分かります。作品鑑賞の楽しさも一層、深まりそう。「エゴン・シーレ」も登場します。



クラシックファンにも嬉しい内容。音楽の都、ウィーンの文化を語る上で欠かせない「ヨハン・シュトラウス」「オペレッタ」「ばらの騎士」などが解説されています。ブルックナー、ウィーン楽友協会などのコラムも。
ハプスブルク家といえば、「エリザベートですよね!」という方にももちろん応えています。『ウィーン・ミュージカル』としておなじみの「モーツァルト!」「マリー・アントワネット」などとともに紹介。「皇妃エリーザベト」「皇太子ルドルフ」も詳述されています。



名作揃いの「ウィーン・ミュージカル」の紹介は読みごたえがあります。
フェリペ2世頃(16~17世紀)当時、「陽の沈むことなき大帝国」と言われていたころの歴史地図。いかに強大な存在だったかが一目瞭然です。
お値段は少々張りますが、歴史やアートがお好きならどのページを開いても思わず読みふけってしまうこと間違いなしです。旅のお供にも最高でしょう。図書館や学校に購入をお願いするのもよいかもしれません。ぜひ一読ください。(美術展ナビ編集班 岡部匡志)