【開幕】「部屋のみる夢 ボナールからティルマンス、現代の作家まで」箱根・ポーラ美術館で、7月2日(日)まで

アンリ・マティス《リュート》1943年、ポーラ美術館

「部屋のみる夢 ボナールからティルマンス、現代の作家まで」
会場:ポーラ美術館(神奈川県箱根町仙石原小塚山1285)
会期:2023年1月28日(土)~7月2日(日)
休館日:期間中なし
開館時間:9:00–17:00(入館は16:30まで)
入館料:一般 1,800円、シニア割引(65歳以上) 1,600円、大学・高校生 1,300円、中学生以下無料
詳しくは、同館HP

新型コロナウイルの流行以来、私たちは移動が制限され、多くの時間を「部屋」という空間で過ごしました。室内の生活は安心をもたらしましたが、外の世界との交流が絶たれることは閉塞感とも隣り合わせでした。

神奈川・箱根のポーラ美術館で1月28日から始まる「部屋のみる夢 ボナールからティルマンス、現代の作家まで」では、19世紀からコロナ禍を経た現在に至るまで、「部屋」の表現に特徴やこだわりを持つ作家を取り上げ、この小さな世界のなかで織りなされるかけがえのない記憶などを見つめ直します。開幕前日に行われたプレス内覧会を取材しました。

9組の作家の作品を、それぞれ部屋のような空間ごとに展示しています

本展では9組の作家の作品を、それぞれ部屋のような空間ごとに展示しています。作家ごとに鑑賞することで、それぞれが持つ多様性を感じてもらうのが狙いです。順路は特になく、自由に行きつ戻りつもできます。

アンリ・マティス《室内:二人の音楽家》1923年、ポーラ美術館

ピンクの部屋に飾られていたのは、アンリ・マティス(1869‐1954)。言わずと知れたフォーヴィスム(野獣派)を主導したフランス20世紀の巨匠です。1921年以降、明るい日差しに惹かれて南仏ニースを拠点としましたが、部屋の中を描いた作品が多く残っています。壁掛けや調度品、モデルの衣装にまでこだわり、これらの要素を自在に作りこむような作風は、室内空間に適していました。色彩や空間表現を思う存分発揮できたのが、室内という環境だったのです。

エドゥアール・ヴュイヤール《書斎にて》1927‐28年、ヤマザキマザック美術館

エドゥアール・ヴュイヤール(1868‐1940)はナビ派の芸術家としてパリで活動し、象徴主義演劇の舞台美術なども手がけました。人物だけではなく、家具やオブジェなども重要な存在として、様々な物語を思い起こさせるような場面を描きました。

ピエール・ボナール《浴槽、ブルーのハーモニー》1917年頃、ポーラ美術館

ヴュイヤールと同じくナビ派として活躍したピエール・ボナール(1867‐1947)は、家族の姿や自宅の室内など身近な対象を生涯にわたりテーマとしました。1893年に出会い伴侶となったマルトは、日に何度も入浴する習慣があり、極めてプライベートな思い出として様々な場面を描き留めました。

一方、室内を彩る装飾パネルや屏風なども手がけました。こちらは、都会の部屋に失われた自然を取り戻すような明るい作品です。

ヴィルヘルム・ハマスホイ《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》1910年、国立西洋美術館

ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864‐1916)はデンマークの画家で、生涯約370点の作品を残しましたが、その3分の1を占めるのが室内画でした。多く描いた古い建物からは静謐なイメージが伝わります。ドアのノブを描かないなど、省略することで洗練度が増しています。

髙田安規子・政子《Open/Closed》2023年、作家蔵

《Open/Closed》は、一卵性双生児のアーティストユニット、髙田安規子・政子(1978‐)によるインスタレーションです。デザインや大きさの異なった鍵を挿したままの大小の扉は、「何を開くべきか」「何を閉じるべきか」という、コロナ禍で顕わになった各自で異なる価値観や判断基準を暗示します。

ヴォルフガング・ティルマンス《あふれる光(b)》2011年、ポーラ美術館

ヴォルフガング・ティルマンス(1968‐)はドイツ出身の写真家。ドイツ各地やニューヨークの住居やアトリエで、《あふれる光(b)》のように窓越しに差し込む外光を繰り返し写しています。今回、ティルマンスの新収蔵品10点が初公開されています。

草間彌生《ベッド、水玉強迫》2002年、ポーラ美術館

草間彌生(1929‐)の《ベッド、水玉強迫》も新収蔵品で初公開です。これまでにベッドを題材にした2点のうちのひとつだそうです。代名詞とも言える大小、間隔の異なる水玉模様の反復がベッドや布団などに刻まれています。幼少期の幻覚などによる「強迫」が、抑え込まれた無意識を夢として解放する眠る場所で堰を切ったように展開されています。

館外は雪に

昼頃から降り始めた雪は、屋外に置かれたオブジェの上にも積もり、いつもと違う顔を見せていました。

一時期よりは「おうち時間」は減りましたが、コロナ禍によって、部屋で過ごすことの何が変わり、何が変わらなかったのかを、改めて考えてみる良い機会になりそうです。(美術展ナビ編集班・若水浩)