【プレビュー】「ジョルジュ・ルオー ― かたち、色、ハーモニー ―」パナソニック汐留美術館で4月8日から 開館20周年記念で傑作が集う

19世紀末から20世紀前半のフランスで活躍し、最も革新的な画家のひとりとして知られるジョルジュ・ルオーの回顧展がパナソニック汐留美術館で4月8日から6月25日まで開催されます。
パリのポンピドゥー・センターから、ルオーの傑作13点が来日するほか、手紙やルオーの詩など、本邦初公開作品を含む約70点を通して、ルオーの装飾的な造形の魅力に迫ります。
開館20周年記念展 ジョルジュ・ルオー - かたち、色、ハーモニー - |
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会場:パナソニック汐留美術館(東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階) |
会期:2023年4月8日(土)~6月25日(日) |
開館時間:午前10時より午後6時まで(入館は午後5時30分まで) ※5月12日(金)、6月2日(金)、6月23日(金)、6月24日(土)は午後8時まで開館(入館は午後7時30分まで) |
休館日:水曜日(ただし5月3日(祝)、6月21日(水)は開館) |
入館料:一般:1,200円、65歳以上:1,100円、大学生・高校生:700円、中学生以下:無料 |
アクセス:JR新橋駅より徒歩約8分など |
問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)へ 詳しくは美術館のサイト(https://panasonic.co.jp/ew/museum/)で |
国立美術学校時代の作品―古典絵画の研究とサロンへの挑戦
パリの下町で生まれ育ったルオーは19歳の時にパリ国立美術学校に入学、ギュスターヴ・モロー(1826~1898年)のアトリエに入門しました。生徒の個性を何よりも尊重したモローが教える教室にはほかに、アンリ・マティス(1869~1954年)、アルベール・マルケ(1875 ~1947年)らが所属し、古典絵画の研究に励みながらも、自由で革新的な教育を受けました。
この時期に描いた、ルオー最初期の貴重なデッサンや習作、サロン出品作からスタート。師匠のモローの作品もあわせて鑑賞することで、ルオーが師から受け継いだ作品のマティエール、構図、色彩の表現を見つけることができます。

こちらは24歳の時にルオーが初めて手掛けた自画像です。本作で使われている木炭は、初期のルオーが好んで使った技法です。ルオーは師モローにならって、レンブラントを崇拝しており、作品からはその影響を見ることができます。
裸婦と水浴図― 独自のスタイルを追い求めて
1890年代にポール・セザンヌ(1839~1906年)の作品を目にしたルオーは深い感銘を受け、自身の表現主義的な画風は装飾的な関心へと移行していきました。繰り返し描かれた裸婦や水浴図という重要なモチーフの構図や色彩構成の変化から、ルオーが追い求めた独自の芸術スタイルを考察できます。
ルオーは、セザンヌへのオマージュとして噴水を建造する計画にも参加していました。この計画のために制作した油彩画のほか、ルオーの詩「セザンヌへのオマージュ」(仏文学者で詩人の岩切正一郎氏の翻訳)を紹介します。

サーカスと裁判官―装飾的コンポジションの探求
ルオーはキリスト教主題の作品を多く描いた一方で、サーカスや娼婦など、社会の底辺で生きる人々も描くなど、同時代に生きる人間の本質に迫った作品を多く残しています。
モローやセザンヌの影響を受けたルオーはやがて、「かたちと色の調和」を追い求め、自身の著書の中でも「かたち、色、ハーモニー」という言葉を繰り返し使うようになります。その言葉が示すかのように、ルオー作品における形体と色彩の調和は、自身にとって重要な主題であるサーカスを通して、発展していきました。

たとえば、1910年頃に描かれた《プルチネルラ》などサーカスを描いた初期の作品では、人間の残酷な部分を強調した作品を多く描いています。

一方、1948年に制作された二人の道化師が描かれた《二人組(二兄弟)》では、初期の頃に激しい筆致で描かれた悲劇的で悲惨な姿はなく、優しく穏やかな表情をした道化師が描かれています。
また、ルオーは権威的な地位に身を置く裁判官も繰り返し描きました。
若い頃のルオーは「裁判官」を主題とする作品で法廷の傲慢さを表現してきましたが、晩年の重要作品のひとつである《最期の時を待つ十字架上のキリスト》では、法廷におけるキリスト像の重要性を改めて問うているかのように描かれています。晩年のルオー作品の特徴の一つである作品の周りを囲む白い点による装飾にも注目です。

二つの戦争―人間の苦悩と希望
二つの大戦を経験したルオーは、戦争の残酷さや人間の苦悩を表現した作品を生々しく描きました。


一方で、著名な編集者テリアドが発行していた「世界で最も美しい美術雑誌」とも称される『ヴェルヴ』のために、色彩豊かな作品も制作しています。
戦時期に厳しい検閲を通過して1940年に発行された『ヴェルヴ』第8号は、随所に芸術家たちの反戦の意思を垣間見ることができ、ルオーもこの号に文章と挿絵を寄せました。
旅路の果て― 装飾的コンポジションへの到達
晩年のルオーは、絵具を厚く塗り重ねた独特の表現と光り輝くような色彩で人物像や風景画を多く描きました。特に最後の10年間に、その色彩はますます輝きを増していきました。
ルオー作品には珍しい縦長のキャンヴァスに、独特な配色とリズミカルな構図で、幻想的な風景の中に聖なる人物を描き込む「伝説的風景」と呼ばれる主題の風景画をはじめ、《かわいい魔術使いの女》 や《受難(エッケ・ホモ)》など、最晩年の傑作の数々をとおして、ルオーが最晩年にたどり着いた「かたち、色、ハーモニー」の究極的な表現が明らかとなります。



(読売新聞デジタルコンテンツ部美術展ナビ編集班)