【プレビュー】「重要文化財の秘密」東京国立近代美術館で3月17日から 高橋由一「鮭」 岸田劉生「麗子微笑」 鏑木清方「築地明石町」などすべてが重文

東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」 |
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会場:東京国立近代美術館 |
2023年3月17日(金)~5月14日(日) |
休館日:月曜日(3月27日、5月1日、5月8日は開館) |
開館時間:午前9時30分~午後5時、金曜・土曜は午後8時まで(入館は閉館30分前まで) |
観覧料:一般1,800円、大学生1,200円、高校生700円 |
アクセス:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口から徒歩3分 |
詳しくは展覧会公式サイトで:https://jubun2023.jp/ 公式ツイッター@jubun_2023 |
すべてが重文は史上初
東京国立近代美術館で70周年を記念する「重要文化財の秘密」が3月17日から5月14日まで開催されます。展示品すべてが重要文化財は史上初とのこと。
国宝でなく、重文?と疑問符が浮かんだ方もいらっしゃるでしょう。実は、明治時代以降の絵画・彫刻・工芸で、重要文化財には68件が指定されていますが、国宝に指定されているのはいまだ0件なのです。そして本展では、68件のうち51点の重要文化財が展示されます。近代の作家の回顧展は全国で継続的に行われていることからも、これほど多くの重要文化財が一度に集う展覧会は非常にまれと、大谷省吾副館長は記者発表会で力を込めていました。
「問題作」が「傑作」になるまで
重要文化財に指定されている近代絵画などの中には、制作当時の美術の常識を破る「問題作」であったり、当時の人々からはあまり高く評価されなかったりしたものも多くありました。傑作(重要文化財)と認められるまでの物語も本展の見どころです。
狩野芳崖《悲母観音》

1955年(昭和30年)、狩野芳崖(1828-88年)の《悲母観音》(1888年)などが明治以降の作品として初めて重要文化財に指定されました。この絵に描かれた赤子は1882年に生まれた初孫といわれていますが、一方で芳崖は制作中に愛妻を亡くしており、自身の絶筆ともなりました。一見すると伝統的な仏画ですが、制作の動機には明治に生きた画家の周囲で起きた生と死のドラマがありました。
高橋由一《鮭》

油絵で最初の重要文化財に指定(1967年)されたのが高橋由一の《鮭》です。従来の日本の技法や材料では困難だった本物そっくりの描写が可能になったことへの素直な感動が表されています。
岸田劉生《麗子微笑》

岸田劉生は娘の麗子を数多く描いています。数え8歳の姿を描いた本作は最も有名な「麗子像」です。劉生は、ほかにも重要文化財の作品に《道路と土手と塀(切通之写生)》(東京国立近代美術館蔵)があり本展で展示されます。
菱田春草《黒き猫》

1910年(明治43年)に菱田春草が描いた《黒き猫》。春草はこの年、初めて文展の審査委員を委託され、屏風の大作に挑みましたが、納得がいかずにそれを破棄。急きょ、近所の焼き芋屋の猫を借りてきてわずか5日間で描き上げたのが本作です。
横山大観《生々流転》

本展では、全長40メートルもある横山大観の《生々流転》を、すべて広げた状態で展示します。1923年(大正12年)に描かれてから今年で100年。この作品を披露した展覧会の初日に関東大震災が起きましたが、救い出されました。雄大な自然を描いた作品ですが、この大作を今でも見ることができるのは、まさに自然の脅威をくぐり抜けてきたからなのです。
原田直次郎《騎龍観音》

ドイツで油彩画を学んだ原田は、帰国後、その技術で仏教的なテーマに取り組みました。陰影や遠近法が取り入れられたリアルな描写の本作は、制作時にはとまどいをもって受け止められました。龍のリアルさを表現するため原田は、犬や鶏などを参考にしたそうです。
青木繁《わだつみのいろこの宮》

「古事記」の海幸彦・山幸彦神話に基づく作品。山幸彦が無くした釣り針を探しに海底にある神殿を訪ね、そこで海神の娘の豊玉姫と出会うシーンです。青木は、潜水具で海に実際に潜って海底のイメージをつかむなど綿密な考証を行いましたが、発表当時の展覧会では賛否がわかれ、不本意な結果になりました。時を経て、1969年に「明治浪漫主義」の代表作のひとつとして重要文化財に。
日本の近代美術をどう評価するか その変化を見る
例えば、どの作品が指定されたかを、制作年順ではなく、指定された順にたどっていくと、時代ごとに評価のポイントが少しずつ変わっていくことも見えてくると、大谷副館長は説明していました。
黒田清輝《湖畔》

その例として、黒田清輝の代表作《湖畔》(明治30年=1897年)があげられました。箱根の芦ノ湖畔にたたずむ浴衣姿の夫人を描いたさわやかな油絵です。しかし、重要文化財に指定されたのは意外にも最近の1999年のこと。4年前の1893年に描かれた《舞妓》(東京国立博物館蔵、本展には出展されません)など明治の作品が、明治100年を記念し、1967~68年にまとめて重文指定されていますが、《湖畔》は最終候補まで残ったものの選からもれたそうです。およそ30年で変化した日本の美術の「評価の軸」とは?答えは展覧会の会場でお確かめください。
竹内栖鳳《絵になる最初》

東本願寺から天女の天井画を依頼された竹内栖鳳。モデルの女性で習作を進めていましたが、その女性が急死。代わりに若い女性を呼び寄せたところ、まだ絵のモデルに慣れず、脱衣することを躊躇しました。その様子にインスピレーションを受けた生まれたのが本作です。タイトルを含めて、絵画史にひそむ男性画家と女性モデルとの間の視線の力学に気づかせられるという意味で、現代的な「問題作」と、解説されています。
萬鉄五郎《裸体美人》

東京美術学校(現・東京藝術大学)の卒業制作で、19人中16番目という低評価でしたが、2000年に重要文化財に指定。萬鉄五郎の師匠である黒田清輝と同じ題材を扱いながら、女性モデルと男性作者の視点のヒエラルキーを逆転させていることが近年の研究で明らかになり、ジェンダー論からも注目されている作品です。
上村松園《母子》

上村松園は「美人画の名手」と呼ばれていますが、いわゆる美人画とは一線を画す女性作家ならではの視線が感じられる作品です。
鏑木清方《築地明石町》《新富町》《浜町河岸》
また、昨年11月に、重要文化財に指定答申されたばかりの鏑木清方《築地明石町》《新富町》《浜町河岸》の3部作も3月17日から4月16日まで展示されます。
彫刻・工芸
明治時代以降の美術品は、絵画だけでなく、彫刻や工芸も重要文化財に指定されています。




東京国立近代美術館70周年を記念する「重要文化財の秘密」は東京国立近代美術館で3月17日から5月14日までの開催です。
(読売新聞デジタルコンテンツ部美術展ナビ編集班 岡本公樹)