【京のミュージアム#14】細見美術館 個性あふれる作品の数々「細見コレクション 江戸時代の絵画」展 2月12日まで

《小鍛冶図屏風》(池田孤邨 2曲1隻 江戸後期)=中央=など江戸絵画の名品が並んだ会場

琳派や伊藤若冲など、江戸時代の様々な絵画を紹介する「細見コレクション 江戸時代の絵画」展が細見美術館(京都市左京区)で開かれています。約250年に及んだ江戸時代は人々の関心が多様化して、絵画の需要や欲求も細分化していきました。これに対し画家も新しい技法を試し、個性的な筆づかいや独自の構図を用いて、人々の心を捉えようとします。展覧会では生き生きとした草花や動物の絵や雅な物語絵、都市のにぎわいや祭礼を描いた屏風など前後期合わせて約50件の作品を紹介。江戸絵画の豊潤な世界を楽しむことができます。また特集展示「細見古香庵 数寄がたり」では細見良(号:古香庵)の蒐集しゅうしゅうした茶の湯釜や茶碗を展示しています。

「細見コレクション 江戸時代の絵画」
特集展示「細見古香庵 数寄がたり」
会場:細見美術館(京都市左京区岡崎最勝寺町6-3)
会期:2022年12月13日(火)~2023年2月12日(日)
※一部展示替えあり
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入館料:一般1300円/学生1000円
アクセス 京都市バス「東山二条・岡崎公園口」下車徒歩3分 「美術館・平安神宮前」下車徒歩5分 地下鉄「東山駅」下車徒歩10分
詳しくは美術館公式サイト

1階第1展示室

ここには新年に似合う草花や花鳥などの作品が展示されています。伊藤若冲や酒井抱一など有名な画家ばかりでなく、あまり名の知られていない画家も含め様々な作品があります。人々の好みや興味、描き方など流行が変化していった江戸時代の絵。「知らない画家を知るきっかけになったら。この人が好きだという作品に出逢ってもらえたら」と担当学芸員の福井麻純さんは言います。

《花鳥図押絵貼屏風》 伊藤若冲 6曲1双のうち左隻(1月15日まで展示) 江戸中期
同上 右隻(1月17日から展示)

若冲40代の作とされる絵。強い墨の濃淡、勢いのある筆遣い。躍動感に溢れています。鶏やカワセミ、オシドリ、蜻蛉といった生き物の特徴が見事に表現されています。40歳で弟に家督を譲り画業に専念できるという喜びがにじみ出ていると、勝手な想像をしてしまいました。

《雪中花鳥図屏風》 2曲1双 江戸前期

金地に雪の白が映えて、新年のこの時期にふさわしい華やかな雰囲気の絵です。画面いっぱいに水辺の風景を描いた構図は桃山時代の障壁画を思わせます。

左:《雪中檜小禽図》 酒井抱一 1幅 江戸後期

尾形光琳を慕い、江戸琳派の祖と言われる酒井抱一の晩年の作です。雪の白さの中のキセキレイとヤブコウジの赤が印象的です。光琳様式に洗練を加えた情趣豊かな作風と言われる抱一ですが、この絵も「折り目正しい」という言葉が浮かんでくる作品です。

《秋冬花鳥図屏風》 大西圭斎 6曲1隻 文政6年(1823)

あまり名の知られていない画家ですが、中国・清の画家沈南蘋しんなんぴんの画法を取り入れていると言われます。松竹梅という吉祥のモチーフを組み合わせ、枝や鳥の表現は非常にリアルで緻密です。中央の鶏が水面に映る自分の姿を見つめています。

《立葵図扇面》 中村芳中 1面 江戸後期

たらし込みを大胆に使った大坂の画家・中村芳中の絵です。芳中も光琳を慕った画家で、この絵でも光琳に倣って真正面と真後ろから見た花を描いています。全体に雅びでおおらかです。同じく光琳に倣った酒井抱一の絵とは対称的な印象です。

地下1階第2展示室

吹き抜けの中庭に面した階段を下って、地下にある展示場。こちらは動物や物語、祭礼など人々の営みに関した作品の展示です。

《水辺家鴨図屏風》 鈴木其一 6曲1隻 江戸後期

金地に水流と鶴を描いた光琳の屏風はよく知られていますが、こちらはアヒルです。全体に横への動きがあり、その中でアヒルが生き生きと描かれています。江戸時代は博物学にも興味が持たれるようになり、嘴や水掻きなども細部まで観察して写実的に描かれているのが面白いところです。真後ろを向いた姿には微笑ましさを感じます。

《きりぎりす絵巻》 住吉如慶 2巻のうち(117日から違う場面を展示) 江戸前期

擬人化した動物の絵巻は『鳥獣戯画』などにも見られる日本の伝統ですが、これは虫の擬人化です。玉虫姫と蝉の右衛門守の婚礼、失恋して出家したキリギリスとヒグラシを中心に多くの虫が描かれています。物語の基は室町の御伽草子にあるようですが、詳しいことは分からないそうです。キリギリスが十二単を着ても違和感が無いのが不思議です。擬人化という手法が馴染んでいるからでしょうか。

《源氏物語図色紙「初音」》 土佐光吉 1幅 江戸前期

源氏36歳の新春に六条院の女性たちを廻り、最後に明石の君を訪ねた場面です。小振りな人物や細微な描写など、光吉は土佐派のお家芸だった源氏絵を一層精巧な画風にし、以後の源氏絵の規範を築きました。《きりぎりす絵巻》と見比べてみるのも面白いかも知れません。

《ちょうちょう踊り図屏風》 小澤華嶽 6曲1隻 江戸後期

見るほどに楽しくなる絵です。「ちょうちょう踊り」は天保10年(18393月から4月にかけて京都で大流行した仮装踊り。「チョイチョイ踊り」「豊年踊り」とも言うそうです。犬や猫、カエルやカタツムリ、大根や灯籠に扮した人までいます。人々のうねり、手の動き、エネルギーが伝わって来るようです。その中で一人直立しているのは、取り締まりの役人でしょうか。困ったような戸惑ったような表情にも見えます。

《東山四条河原遊楽図屏風》 6曲1隻 江戸前期

四条河原町から東山の一帯。画面右から方広寺大仏殿、清水寺、八坂塔、祇園社、四条河原、歌舞伎小屋、矢場など遊興地として栄えた地です。着飾った老若男女が参詣や花見を楽しむ様子を見ることができます。いくつかある洛中洛外図と比較して、当時の京の様子や風俗を楽しむこともできそうです。

《児島湾真景図》 池大雅  1幅 江戸中期

文人画の大成者である池大雅の、児島湾(岡山県)の風光を描いた絵です。18世紀に中国から入って来た文人画は、形ではなくそこに宿る本質、また作者の心情を表現することが重要とされました。この絵も瀬戸内を旅行した際に見た地を題材にしているのですが、右端に中国人風の人物を描くなど理想化して表現しています。印象派のような点描も、光りの感じなど独特の色彩感覚を感じます。

花鳥草木から動物、祭礼、物語まで題材も技法も実に様々な絵があることを知りました。江戸という時代の文化の豊潤さも実感しました。

特集展示「細見古香庵 数寄がたり」 地下2階第3展示室

細見良(号:古香庵)の蒐集した茶の湯釜や茶碗などの中から、重要文化財を含むいくつか貴重な品々を紹介しています。

重要文化財 《金銅春日神鹿御正体》 1軀 南北朝時代
重要文化財 《芦屋霰地楓鹿図真形釜》 1口 室町時代

 ◆細見美術館

大坂の実業家・細見家3代の蒐集品をもとに平成10年(1998年)に開館。コレクションは縄文から平安・鎌倉時代の仏教・神道美術、室町時代の水墨、茶の湯釜、桃山の茶陶や七宝、琳派や若冲をはじめとする江戸時代の絵画など約1000点に及ぶ。日本美術のほぼすべての分野・時代をカバーし、「日本美術の教科書」とも言われる。重要文化財や重要美術品も多数ある。蒐集当時あまり知られていなかった若冲や、酒井抱一など江戸琳派の作品も充実。京都の町屋のモチーフを取り入れた建物は、地下2階から地上3階まで吹き抜けとなった中庭を持ち、カフェ・レストランや茶室などもある。収蔵品を中心に季節ごとの企画展を開いている。

★ ちょっと一休み ★

美術館の建物の中にある「CAFÉ CUBE」。パスタやピッツァのランチメニューが人気のお店だが、ドリンクやデザートも美味しい。その中で選んだのが美術館とのコラボデザート「若冲セット」(コーヒーか紅茶とのセットで1400円)。
ロールケーキに季節のフルーツを添えて、若冲の絵が描かれた皿に乗って出てくる。絵は「花鳥図押絵貼屏風」から鶏と水鳥、「鼠婚礼図」からの鼠の3種類。スポンジにキャラメルが、皮の部分には塩キャラメルが混ぜ込んである。しっとりした甘さに微かな塩味が効いて、しつこくない。頬張るとしっかり目のスポンジと相まって上品な美味しさだ。皿に描かれた絵の載ったオリジナルポストカード(非売品)も付いてくる。
営業時間は午前1030分~午後5(ラストオーダー430)。ランチタイムは午前1130分~午後230分。定休は月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
(ライター・秋山公哉)