【インタビュー】「岡本太郎というアーティストを日本だけでなく海外にももっと知って欲しい。それも美術館の役割だと思っています」――川崎市岡本太郎美術館の土方明司館長に聞く㊦

土方明司館長(撮影・青山謙太郎)

2023年2月から再開館する川崎市岡本太郎美術館。土方明司館長は、練馬区立美術館、平塚市美術館で長く学芸員を務めた後、岡本太郎美術館の「3代目館長」になった。これまでの美術との関わりはどんなものだったのか。これからの美術館は何をすべきなのか。館長自身の美術遍歴や今後の目標などについても聞いた。

(聞き手は事業局専門委員 田中聡)

――さて、少し土方館長ご自身のことについて伺います。館長が美術に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

土方 父が美術館の館長をしていたので、子どもの頃から家に絵描きや彫刻家の方たちが始終出入りしていたんです。明治生まれの父が美術館に行くのは夕方。午後5時以降になって、閉館してからが本格的な「仕事」みたいなものでした。アーティストの方たちや学芸員など父の教え子などがまず美術館でお酒を飲み始める。胸襟を開いたいろいろな企画会議になったようです。「2次会」で必ずウチに来るんです。そこで、またお酒を飲みながら美術談議を続ける。それが日常でしたから、知らず知らずのうちに美術には親しむようになっていました。

土方館長は1960年、東京生まれ。学習院大学の哲学科を卒業後、練馬区立美術館の立ち上げから携わり、その後平塚市美術館で勤務。2021年から岡本太郎美術館の館長を務めている。父・土方定一氏(1904~1980)は、千葉工大教授、神奈川県立近代美術館館長、全国美術館会議会長などを歴任した美術評論家。毎日出版文化賞を受賞した『ブリューゲル』など多数の著書があり、美術史学者の酒井忠康氏、評論家の海野弘氏などの弟子がいる。

――そういう少年時代を送ったことで、すんなり美術を生涯の仕事に選んだわけですか。

土方 いや。思春期のころ、いったん美術からの関心は大きく離れましたね。父も「(美術という世界は)そんなに甘いものじゃない」と言っていましたし。これから自分がどういう方向に進めばいいのか。そういうことを考えていた時期の僕に決定的な影響を与えたのが、父の友人だった高橋巌先生(美学者、シュタイナー研究者、元慶應義塾大学教授)の門下生だった麻原雄さん(美学者)です。家庭教師をしてくださっていたんですが、良き相談役で兄貴分のような存在でした。麻原さんの影響でユングやシュタイナー、ヨーロッパの神秘主義思想に興味を持つようになり、大学の哲学科に進むことを決めました。

――そこで再び美術と向き合うことになるわけですね。練馬区立美術館の学芸員になったきっかけは何だったのですか。

土方 ある方の推薦で九州にある美術館の学芸員になる予定でした。でも、大学の指導教授から「練馬に新しい美術館が出来るので、そこに行ってみないか」という話をいただいたんです。「(情報の多い)東京の美術館からキャリアをスタートさせた方がいいんじゃないか」とのご助言でした。練馬区立美術館の準備室に入って、そこで20年、学芸員生活を送ることになりました。当時はまだ、日本の近代美術に対する視点が定まっていなかったんです。大学の卒論で取りあげようとしたら、「指導できる教授がいない」ということで認められなかった、という話があるぐらいです。そんな時代、近現代の日本美術の企画展を練馬区立美術館の軸に据えたわけです。だから大変だったけれども、面白かったですね。(現代美術家の)真島直子さんに親しくしていただいたことも大きかった。若かった僕のことをおもしろがってくださって、いろいろなアーティストを紹介してくれたし、その頃、現代美術家たちの梁山泊の様相を呈していた、真木画廊や田村画廊などに連れていってもらいました。小山登美夫さんなど若いギャラリストたちと出会ったのもその頃です。

「美術に携わるようになったのは、父のお弟子さんだった麻原雄さんの影響が大きい」と話す土方館長

――2005年には平塚市美術館に移られて、16年間、そこでも学芸員生活を送られるわけですが、36年間にわたる学芸員生活で学んだことはなんでしょう。

土方 専門性と大衆性のバランス、学芸員にとって一番大切なのはそれだ、ということです。専門性はもちろん必要です。でも、そればかりを追い求めて、美術館を訪れる人たちのことを忘れてはいけないんです。美術館は「時代を写す鏡」であり、特に公立美術館は地域とともにあるべきものですから。練馬区立美術館の20年間で学んだのが「展覧会の作り方」や「人脈の作り方」、平塚市美術館では副館長として、「美術館の経営」や「地域と美術館の関係」について学びました。60歳を過ぎて、この岡本太郎美術館に来て、そういう若い頃に学んだことを後輩たちに受け継いでもらいながら、岡本太郎美術館ならではの使命を果たすことができれば、と思っています。

――岡本太郎美術館ならではの使命、というのはどういうことでしょうか。

土方 やはり岡本太郎というアーティストの真の姿、その全貌を世の中に広く伝える、ということです。一般的な知名度は高いけど、美術界としては、国内でさえその地位が確立しきっていないところがあるんです。あまりにも個性的な仕事ぶりだったので、日本の近現代美術史の中にうまく当てはめることができない。逆に言えば、その「枠にはまらないスケールの大きさ」が魅力でもあるんです。21世紀になって、若い世代にも改めてリスペクトされるようになって、ようやくこれから評価が定まってくるような感じがある。……国内でもそうなのですから、国際的にもアーティスト・岡本太郎の本当の力がまだまだ認められているとは言えないと思います。美術館としては、時間がかかるかもしれませんが、何とかその状況を変えていきたいな、と考えています。

(おわり)

「海外の美術好きにも岡本太郎の魅力を伝える。それも当美術館の役割だと思う」と話す土方館長

常設展「岡本太郎とにらめっこ」開催要項
会場:川崎市岡本太郎美術館(神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-5 生田緑地内)
会期:2023年2月1日(水)~4月16日(日)
休館日:毎週月曜と2月24日、3月22日が休館
アクセス:小田急線向ヶ丘遊園駅南口から徒歩17分、同駅南口から溝口駅南口行きの市バスに乗り、生田緑地入口で下車し、徒歩8分
観覧料:2月17日までは一般500円、高校生・大学生、65歳以上300円、中学生以下無料。2月18日~4月16日は企画展「第26回岡本太郎現代芸術賞」とのセット料金で、一般700円、高校生・大学生、65歳以上500円、中学生以下無料
※料金の詳細や最新情報は、公式HP(https://www.taromuseum.jp/)で確認を