【インタビュー】「若い世代がリスペクトしてくれる。岡本太郎には、美術というジャンルの中だけでは収まりきれない人間的な面白さがある」――川崎市岡本太郎美術館の土方明司館長に聞く㊤

土方明司館長(撮影・青山謙太郎)

芸術は爆発だ――川崎市岡本太郎美術館は、アーティスト・岡本太郎を中心に現代美術の作品を所蔵・展示する美術館だ。2022年9月1日から改修工事のため休館しているが、2023年2月1日にいよいよ再開館予定。美術館としてこれから何を目指すのか。21世紀の今、岡本太郎というアーティストはどんな存在感を示しているのか。大阪・東京・名古屋で「展覧会 岡本太郎」が開催中の今、土方明司館長に聞いた。

(聞き手は事業局専門委員 田中聡)

――2022年9月から長期休館中の川崎市岡本太郎美術館。今回の休館の目的はどんなものだったのでしょうか。リニューアル後は、どんなことを予定していますか。

土方 美術館がオープンしたのが1999年。経年劣化も進んできましたからね。バックヤードと水回りを補修することにしたんです。来館者を最初にお迎えする「赤い部屋」も色を塗り直すことにしました。そんなに遠くない将来に、もっと大きな規模の改修工事をしなければいけないでしょう。その時は、半年の休館では済まないと思います。それを見据えての予備的な工事、と思っていただければ幸いです。まあ、今巡回中の「岡本太郎展」はこの美術館の所蔵品がほとんどですから、その期間中は、どうしてもこちらの展示が手薄になってしまう。ちょうどいいタイミングとは言えますね(笑)。2月に再開館した後は、常設展とともに、毎年恒例の「岡本太郎現代芸術賞」展を開催する予定です。太郎スピリットに共感する現代美術のアーティストであれば、ジャンルも年齢も問わない公募展。既視感のない面白い作品が並ぶと思いますよ。

――土方館長は、「3代目」の館長なわけですが、どんな方針で美術館を運営していますか。美術館の現状はどんなものなのでしょうか。

土方 初代館長だった村田慶之輔氏が10年間にわたって展覧会の企画・監修を務められ、そこでひとつのレールができました。現在では年に4回ペースで岡本太郎に関連する企画展を行い、やはり年に4回のペースで常設展の展示替えを行っています。有り難いのは、所蔵品展・常設展に多くのお客さんが来ていただけることです。それも美術愛好者だけでなく幅広い層、特に若いお客さんに来ていただける。公立美術館の役割は二つあると思っているんですよ。一つは、地域の人たちに美術への関心を深めてもらうこと。もうひとつは、「川崎市はこういう施設がある街なんです!」とアピールする「シティー・プロモーション」の要素。その双方で寄与できているんじゃないか、と思っています。

岡本太郎(1911~1996)は、「太陽の塔」などでおなじみの芸術家。漫画家の岡本一平、歌人の岡本かの子の長男として川崎市で生まれた。その縁もあって岡本自身から1991年に352点の作品が市に寄贈されたことがきっかけで美術館建設計画が持ち上がり、岡本没後の1999年、現在地に岡本の作品約1800点などを所蔵する「川崎市岡本太郎美術館」が開館した。

「常設展にも多くのお客さんが足を運んでくれる」と話す土方館長

――確かに「岡本太郎」というアーティストの人気は、21世紀の今も衰えません。むしろ若い世代のリスペクトは深まっているのではないか、とさえ思います。どういうところが人気を集めている、と思われますか。

土方 美術というジャンルに収まりきれない、人間としての面白さがありますよね、岡本太郎という人には。さんざんマスコミに露出して、あえてトリックスター的な振る舞いをする。作家で思想家のジョルジュ・バタイユの神秘主義的な結社に参加していたり、民族学者であるマルセル・モースの影響を受けていたり、本当は知的な人なのに、ペダンチックな所を他人に見せるのが大嫌い。あの独特の大げさな表情や動きも、意図的にやっていたような気がします。そういう人間的な魅力と、作品の魅力が相まって、若い世代にも支持されているのでは、と思います。

――縄文土器に傾倒するなど、神話的、呪術的世界に関心が深かった岡本太郎というアーティストの作品には、人間の潜在意識の奥底にあるイメージの数々が投影されているようにも思います。スイスの心理学者、C・G・ユングのいう元型(アーキタイプ)的なものを感じますね。そういう普遍性が時代を超えて人を惹き付けるのでしょうか。

土方 そうですね。岡本太郎は縄文土器という「日本のルーツ」に深い関心を抱いたわけですが、それをストレートには表現しなかった。それはやはり若い頃パリで過ごし、バタイユやモースのような優れた知性と触れたことが大きかったような気がします。パリで過ごした10年間は、「自分の居場所」を探す時代でもあったのでしょう。そこでさらに西洋のシュルレアリスムや民族学の洗礼を受けたことで、「人間というものは、混沌とした存在なのだ」という根本的な考えが生まれたのかもしれません。そのうえで、日本の土着性を表現していった。そういう過程があったからこそ、岡本の作品は時代を超えた普遍的な価値を持っているのかもしれませんね。

㊦に続く

「生前を知らない若い人たちにもリスペクトされているのが、岡本太郎というアーティスト」と話す土方館長

常設展「岡本太郎とにらめっこ」開催要項
会場:川崎市岡本太郎美術館(神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-5 生田緑地内)
会期:2023年2月1日(水)~4月16日(日)
休館日:毎週月曜と2月24日、3月22日が休館
アクセス:小田急線向ヶ丘遊園駅南口から徒歩17分、同駅南口から溝口駅南口行きの市バスに乗り、生田緑地入口で下車し、徒歩8分
観覧料:2月17日までは一般500円、高校生・大学生、65歳以上300円、中学生以下無料。2月18日~4月16日は企画展「第26回岡本太郎現代芸術賞」とのセット料金で、一般700円、高校生・大学生、65歳以上500円、中学生以下無料
※料金の詳細や最新情報は、公式HP(https://www.taromuseum.jp/)で確認を