美術館を応援する連載「美術人ナビ」 第4回 愛媛県美術館(松山市)  四国の色彩、世界のデザインに 石本藤雄さんと語る

名城・松山城を望む愛媛県美術館の前で談笑する石本藤雄さんと杉山はるかさん(撮影・青山謙太郎)

地域の文化の担い手として奮闘する美術館を紹介する「美術人ナビ」の4回目は愛媛県美術館(松山市)にスポットです。地元出身で、フィンランドの世界的デザインハウス「マリメッコ」のデザイナーを務めた石本藤雄さん(81)が帰郷して活動中。同館では2度にわたり石本さんの展覧会が開かれ、コレクションを充実させるなど、優れた才能を輩出するこの地のデザインの系譜を確かなものにしています。石本さんと学芸員の杉山はるかさんにお話を伺いました。

愛媛県美術館

〈マリメッコ〉1951年に創業。織物などのテキスタイルメーカー。北欧を代表するファッションブランドで日本でも高い人気を誇る。

◆作品に感じる風土 愛媛の人に響いた

――石本さんがフィンランドから帰郷したのが2年前。それに先立ち、2013年と18年に石本さんの個展が愛媛県美術館などで開催されました。

<石本> 東京でフィンランドのデザインを熱心に紹介している施設があり、まず12年に東京で開催され、それが愛媛にも巡回しました。

石本藤雄さん

<杉山> 石本さんの生まれ故郷で、松山市の隣にある砥部(とべ)町をはじめとする地元の人たちが主体となり、充実した展覧会になりました。「今度は愛媛からも発信したい」と熱望して18年に再度開催し、京都や東京でも開催され、注目されました。地元出身のアーティストでこれほど盛り上がる例はなかなかないです。

2018年に開催された「石本藤雄ーマリメッコの花から陶の実へー」から。(photo:GABOMI)

――どういう点が愛媛の人に響いたのでしょう。

<杉山> 石本さんはマリメッコのテキスタイルデザイナーとして活躍し、「和のデザインと北欧のデザインを融合させた」と高く評価されました。後年は北欧を代表する陶磁器メーカー「アラビア」の作家として陶芸制作にも取り組みました。
世界的に人気のフィンランドデザインを長く支えた石本さんの仕事への憧れと、作品にこの地の風土が育んだものを感じるのかもしれません。

杉山はるかさん

◆大切な着想の源泉 故郷の豊かな自然

――石本さんの創作にとって郷里はどのような存在でしょう。

<石本> 大切なインスピレーションの源泉のひとつです。砥部町は製陶が盛んで、戦前はアジア各地に輸出するほどでした。私が生まれ育った家も、地面を掘れば陶片が出るようなところでした。アートに関心を持ったのはそうした経験や環境の影響があるでしょう。
四国の豊かな自然の中で育ち、子どものころは庭にあったヤマモモの木に登り、赤い実を食べるような暮らしでした。そうして目にした花や木の実の色彩やイメージが、その後のファブリックや陶作品のモチーフになっています。

2018年の「石本藤雄展ーマリメッコの花から陶の実へー」から。(photo:GABOMI)

◆受け継がれるデザインの系譜

――もともと愛媛は優れたデザインの担い手を輩出しています。

<杉山> 日本のモダンデザインのパイオニアと言われる杉浦非水(1876~1965年)、版画家で挿画などでも活躍した畦地梅太郎(1902~1999年)、星新一のSF小説の挿絵で名高い真鍋博(1932~2000年)など日本を代表する作家が出ています。当館のコレクションの重要な柱で、他の美術館から貸してほしいとたびたび依頼が来る存在です。

杉浦非水《三越呉服店 春の新柄陳列会》1914年(大正3年) 愛媛県美術館蔵

<石本> 芸大受験のために上京した折、郷土が生んだ偉大な先輩ということで、杉浦さんの自宅を訪ねてお話ししたことがあります。都心の立派なお屋敷にお住まいでした。今から考えると不思議な縁です。

――帰国後も創作意欲は旺盛ですね。

<石本> 故郷で目にする様々な風物を生かし、焼き物作りに専念しています。
<杉山> 石本さんが杉浦非水らの系譜を継いでくださるような形になり、当館としてもありがたい限り。今後も石本さんたちの作品を大事に紹介していきます。
(聞き手・美術展ナビ編集班 岡部匡志)

◇石本藤雄(いしもと・ふじお) 1941年、愛媛県生まれ。東京芸大美術学部卒。70年、フィンランドに移住。74年、「マリメッコ」のテキスタイルデザイナーに。89年、陶磁器ブランド「アラビア」で陶芸制作にも取り組む。2011年、旭日小綬章。
◇杉山はるか(すぎやま・はるか)1979年、静岡県生まれ。京都大学文学部卒。同大学大学院文学研究科修了。2004年から愛媛県美術館に学芸員として勤務。「石本藤雄展―マリメッコの花から陶の実へ―」など担当。

◆「みる・つくる・まなぶ」楽しむ 武智公博館長

愛媛県美術館は、「みる」「つくる」「まなぶ」を楽しんでいただく参加創造型美術館として1998年に開館し、今年25周年を迎えます。
郷土出身の杉浦非水、畦地梅太郎、真鍋博をはじめ、モネ、セザンヌ等の海外作家を含む所蔵品のコレクション展を開催するとともに、様々な企画展で国内外の優れた作品を幅広く紹介しています。また「県民アトリエ」で版画、木工、写真などの創作活動をお手伝いするほか、ワークショップ等による教育普及活動を積極的に展開しています。
シンボルである3本のクスノキがそびえる中庭や、松山城の姿を望む展望ロビーを含め、見どころ満載の当館が、より多くの方々に親しんでいただけるよう努めて参ります。開館25周年の節目の年で、現代日本を代表するアーティストの大規模個展「大竹伸朗展」(5月3日開幕)などが予定されています。

愛媛県美術館の公式サイト(https://www.ehime-art.jp/

◆愛媛県美術館開館25周年記念 大竹伸朗展(5月3日~7月2日)

現代日本を代表するアーティストで、愛媛・宇和島を制作拠点とする大竹伸朗の16年ぶりの大回顧展。40年以上におよぶ創作活動を振り返ります。現在、東京国立近代美術館で開催中(2月5日まで)で、愛媛県美術館、富山県美術館と巡回展が予定されています。

大竹伸朗 ⒸShinro Ohtake,photo by Shoko
《残景 0》2022年 Photo:岡野圭

(※)美術館連絡協議会

1982年、全国の公立美術館が連携を図り、芸術、文化の向上および発展に資することを目的に設立された。読売新聞社などの呼びかけに賛同した35館で発足、現在は47都道府県の149館が加盟している。
創立40周年の節目を迎えるにあたり、2022年4月に前文化庁長官の宮田亮平氏を会長に迎えた。今後も美術館の発展を通じて、広く市民が芸術に親しむことができるよう、様々な取り組みを進める方針。

美術館連絡協議会のホームページ(https://birenkyo.jp/

(この記事は、2022年10月31日の読売新聞朝刊に掲載された「美術人ナビ」の記事をリライトしたものです)

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