日本の現代アートをリードする森美術館 開館20周年記念で「ワールド・クラスルーム」、「私たちのエコロジー」の2本の展覧会を開催 現代社会でアートが担う役割考える

2023年に開館20周年を迎える森美術館(東京都港区)。この間、現代アートの領域で、国際性豊かに先進的な取り組みを進めてきた同美術館では、2023年に20周年記念展として2本の展覧会とラーニングプログラムを展開します。以下、概要を紹介します。
森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会 |
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会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階) |
会期:2023年4月19日(水)- 9月24日(日) |
主催:森美術館 |
企画:片岡真実(森美術館館長)、熊倉晴子(森美術館アシスタント・キュレーター)、ほか |
同美術館公式サイト(https://www.mori.art.museum/jp/) |
「世界の教室」としての現代アートを創出
現代アートが世界各地の複数の観点から考えられるようになった1990年代以降、現代アートはもはや学校の授業の「図画工作」や「美術」といった既存の枠組みを遙かに超え、むしろ「国語」「算数」「理科」「社会」など、あらゆる科目に通底する総合的な領域と捉えるべきものとなっています。
それぞれの学問領域の最先端では、研究者が世界の「わからない」を探求し、歴史を掘り起こし、過去から未来に向けて新しい発見や発明を積み重ね、私たちの世界の認識をより豊かなものにしています。現代アーティストが私たちの固定観念をクリエイティブに越えていこうとする姿勢もまた、こうした「わからない」の探求に繋がっています。そして、現代美術館はまさにそうした未知の世界に出会い、学ぶための「世界の教室」とも言えます。

こうした観点に立ち、本展では学校で習う教科を現代アートの入り口として、これまでに見たことのない、あるいは知らなかった世界に多様な観点から出会う試みです。展覧会のセクションは「国語」「社会」「算数」「理科」「音楽」「体育」などに分かれていますが、実際に展示されるそれぞれの作品は複数の科目や領域に通じています。同展には国際色豊かな50組を超えるアーティストが参加。学びの場、「世界の教室」が創り出されます。

◆出展アーティスト(※アーティスト名のアルファベット順)
アイ・ウェイウェイ(艾 未未)、青山悟、ヨーゼフ・ボイス、サム・フォールズ、藤井光、シルパ・グプタ、畠山直哉、スーザン・ヒラー、ジャカルタ・ウェイステッド・アーティスト、風間サチコ、菊地智子、ヤコブ・キルケゴール、ジョセフ・コスース、ディン・Q・レ、李禹煥(リ・ウファン)、パーク・マッカーサー、ミヤギフトシ、宮島達男、宮永愛子、森村泰昌、奈良美智、パンクロック・スゥラップ、ソピアップ・ピッチ、アラヤ―・ラートチャムルンスック、ヴァンディー・ラッタナ、ハラーイル・サルキシアン、笹本晃、瀬戸桃子、杉本博司、田島美加、ロデル・タパヤ、ツァイ・チャウエイ(蔡佳葳)梅津庸一、ワン・チンソン(王慶松)、ヤン・ヘギュ、イー・イラン、米田知子、ほか
森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー |
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会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階) |
会期:2023年10月18日(水)- 2024年3月31日(日) |
主催:森美術館 |
企画:マーティン・ゲルマン(森美術館アジャンクト・キュレーター)、椿玲子(森美術館キュレーター)、德山拓一(森美術館アソシエイト・キュレーター) |
同美術館公式サイト(https://www.mori.art.museum/jp/) |
「人間中心主義」を脱し、新しい関係性を構築するアート
産業革命以降人類が地球に与えた影響は、それ以前の数万年単位の地質学的変化に匹敵すると言われています。環境危機は喫緊の問題であり、現在、国際的なアートシーンにおいても重要なテーマとして多くの展覧会が開催されています。
今日の環境危機を引き起こした人間中心主義を脱し、私たち人間と他のすべての存在との新たな関係性を構築する、持続可能な未来の可能性は残されているのでしょうか。本展では「エコロジー」を調和や循環として広く捉え、人間同士のコミュニティ、人間をも含む生態系、人間が認知できない世界の在り様も包含する新しい「循環」の在り方についても考えます。タイトルの「私たちのエコロジー」は、私たちとは誰か、地球環境が誰のものなのか、という問いも投げかけています。

展示では、歴史的な作品から本展のための新作まで多様な作品を紹介します。地球温暖化と経済格差への抗議として、アグネス・ディーンズが資本主義を象徴するニューヨークのマンハッタンに小麦畑を出現させた1982年の作品は、今日の世界を見つめ直す機会を提供してくれます。また高度経済成長の裏で環境汚染が問題となった1950~70年代の日本で制作・発表されたアートを再検証し、現在の環境問題を日本という立ち位置からも見つめ直します。さらに、森美術館をひとつの環境と捉え、可能な限り輸送を減らし、資源を再生利用するなど、エコロジカルな展覧会制作を試みます。
本展では現代アートとアーティストたちがどのように環境問題に関わってきたか、関わることができるのかを考察しつつ、地球全体の持続可能な未来の残された可能性を探求しようとするものです。
森美術館では3月26日まで「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」を開催中です。こちらも注目です。
(美術展ナビ編集班 岡部匡志)