美術館を応援する連載「美術人ナビ」 第5回 京都市京セラ美術館 対談 森村泰昌さん×青木淳さん 非日常体験 地元に提供

リニューアルで生まれ変わった中央ホールの階段に立つ森村泰昌さん(左)と青木淳館長(右)=撮影・青山謙太郎 

地域の文化の担い手として奮闘する美術館を紹介する「美術人ナビ」。第5回は京都市京セラ美術館を取り上げる。同館は、建築家でもある青木淳館長らの構想に基づき、2020年春にリニューアルオープン。開館1周年記念として、京都市立芸術大学出身で、名画の人物や著名人にふんしたセルフポートレート作品などを手がける森村泰昌さんの展覧会を2022年に開催した。アーティストにとって美術館はどんな存在で、美術館の役割はいかにあるべきか。森村さんと青木館長に話を聞いた。

思い出の美術館 エレガントに

青木淳館長

 ――リニューアルオープン後の開館1周年記念展のひとつとして、昨年の3月から6月まで「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」が新館「東山キューブ」で開催されました。

<青木> 「京都にまつわる展示を」というのが当館の方針のひとつです。またリニューアルにともない新設した東山キューブは、面積約1000平方メートル、天井高5メートルの展示室があり、現代美術が展示しやすくなりました。京都で現代美術と言えば、京都市立芸術大学を卒業した森村さん。リニューアル前から「ぜひ」とお願いしていました。

森村泰昌さん

 ――森村さんにとって京都市京セラ美術館はどんな存在ですか?

<森村> 思い出深い美術館です。はじめて訪れたのが1964年の「ミロのヴィーナス特別公開」。まだ子どもでしたが、大陳(今の中央ホール)にミロのヴィーナスが堂々と展示されている様子が印象的でした。その後も京都アンデパンダン展など、様々な展覧会から刺激を受けました。京都市立芸術大学の卒業制作展も京都市美術館(京都市京セラ美術館)で開催。「自分の作品を美術館で展示する」という経験は京都市美術館がはじめてです。当時は、学生や若手作家にとって「遊び場」のような身近な場所でした。

 ――館長であり建築家の青木さん、西澤徹夫さんの構想のもとリニューアルした京都市京セラ美術館。思い出の美術館から印象は変わりましたか?

<森村> エレガントな魅力が引き出されました。中央ホールやガラス・リボンには柔らかさがあり、東山キューブの廊下から見渡せる日本庭園も美しい。あの日本庭園は、今や名所になっていますね。新たな時代の始まりを感じます。

リニューアルで生まれ変わった京都市京セラ美術館=撮影・青山謙太郎

「一生に一回」という気持ちで

 ――生まれ変わった京都市京セラ美術館、なかでも新しい東山キューブで開催されたのが「ワタシの迷宮劇場」です。どんな気持ちで挑みましたか?

<森村> 同じ美術館で展覧会を何度も開催することはまれですから、どの展覧会も「一生に一回」という気持ちで挑みます。常に新鮮ですね。また、美術館ならではの空間や土地柄に合わせて展示を考えることも重要です。美術館は「うつわ」。うつわにどんな料理を盛るかを吟味するのが僕たちの役割です。その点、東山キューブは自由度が高く、簡単には答えをくれない空間だったので、悩みました。そこで悩ましさをいかして、迷路のような展示にしたのです。展示室を仕切らず、五つの出入り口から自由に出入りできるようにしました。

昨年の6月まで開催された「京都市京セラ美術館開館1周年記念展 森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」の展示風景(撮影・三吉史高)
森村泰昌《ワタシの迷宮劇場 M081》2008

 ――京都市京セラ美術館にとって「ワタシの迷宮劇場」はどんな展覧会でしたか?

<青木> 森村さんの内面を掘り下げるとともに、見る人に「ワタシとは何か」を問いかける展覧会でした。お客さんも時間をかけて鑑賞してくださいました。他者の内面をのぞきながら自分と向き合う体験は、日常では得がたいもの。こういう展覧会こそ当館にとって大切です。

京都の人々に大切な経験を

 ――今後、京都市京セラ美術館はどんな役割を担っていくのでしょうか。

<青木> 地元の人々の生活と地続きでありながら、日常とは異なる体験を提供するのが当館の役割です。当館は多様な展覧会を同時に開催する「るつぼ」のような場所。とくに、京都の人々にとって大切な経験となる展覧会はこれからも欠かせません。

<森村> 展覧会は時代を反映・予測するものです。展覧会ではじめて発表された作品が何年か後に重要な作品になったとしたら、その展覧会が新たな価値観を未来に提示したといえます。自分がかかわった展覧会や美術館がそういう役割を果たしたことが、振り返ったときにわかればうれしいですね。

森村泰昌さん(左)と青木淳館長(右)=撮影・青山謙太郎

◇森村泰昌(もりむら・やすまさ)
1951年、大阪市生まれ。京都市立芸術大学卒。1985年、ゴッホに扮したセルフポートレート作品でデビュー。以来、名画の登場人物や著名人に扮した写真や映像作品を制作し、国内外で発表。2018年、大阪市にモリムラ@ミュージアムが開館。

◇青木淳(あおき・じゅん)
1956年、神奈川県生まれ。東京大学大学院修士課程修了。商業建築から公共建築、個人住宅まで幅広いジャンルで建築家として活動。京都市京セラ美術館のリニューアルも手がけ、2019年4月に同館の館長に就任。

(聞き手・読売新聞美術展ナビ編集班 美間実沙)

京都市京セラ美術館の沿革

京都市京セラ美術館

1933年(昭和8年)、「大礼記念京都美術館」として京都・岡崎の地に開館。現存する日本の公立美術館のなかでもっとも古い建築である。第2次世界大戦後、「京都市美術館」と改称。近代以降の京都の美術のコレクション(日本画、洋画、彫刻、版画、工芸、書)を幅広く収蔵し、とくに近代日本画を代表する上村松園ら京都画壇の作品が充実している。2020年5月にリニューアルオープン。建築家の青木淳、西澤徹夫の構想のもと、竣工しゅんこう当時の建築様式や外観を生かしつつ、現代的な機構を加えた。

現代美術の展示に対応した「東山キューブ」、京都ゆかりの新進作家を紹介する「ザ・トライアングル」も新設。京セラ株式会社と締結したネーミングライツ契約に基づき、通称を「京都市京セラ美術館」に。

上村松園《待月》1926年(大正15年)京都市美術館蔵

今後の企画展

TAKT PROJECTglow ⇄ grow: globe2019年 Photo: Takumi Ota(参考作品)

特別展「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」が東山キューブで3月9日に開幕する。本展では、人間や地球の歴史を意識しながらアート・デザイン分野で活動する気鋭の20作家の新作などを紹介。過去と未来、自然と人工、情報環境と実社会など、さまざまな関係性をつないで再解釈する作品や活動から浮かび上がる「跳躍するエネルギー」は、激動の時代を生き抜くヒントになるだろう。企画・監修を務めるのは、デザインを軸にリサーチと思索を重ねてきた川上典李子さん(武蔵野美術大学客員教授)ら。

(※)美術館連絡協議会

1982年、全国の公立美術館が連携を図り、芸術、文化の向上および発展に資することを目的に設立された。読売新聞社などの呼びかけに賛同した35館で発足、現在は47都道府県の149館が加盟している。
創立40周年の節目を迎えるにあたり、2022年4月に前文化庁長官の宮田亮平氏を会長に迎えた。今後も美術館の発展を通じて、広く市民が芸術に親しむことができるよう、様々な取り組みを進める方針。

美術館連絡協議会のホームページ(https://birenkyo.jp/

(この記事は、2022年12月26日の読売新聞朝刊に掲載された「美術人ナビ」の記事をリライトしたものです)

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