美術館を応援する連載「美術人ナビ」 第3回 新潟県立近代美術館 宮田亮平・前文化庁長官と語る「公開・修理・保存の中心に学芸員」

新潟県立近代美術館のエントランスホールに立つ宮田亮平・前文化庁長官(左)と藤田裕彦学芸課長。後方はロダンの《カリアティードとアトラント》

文化振興の拠点である美術館を応援する「美術人ナビ」。3回目の今回は新潟県立近代美術館(長岡市)を紹介します。その施設ならではの独自の取り組みと、美術ファンのすそ野を広げる活動のバランスなど、厳しい社会情勢の中で難しいかじ取りを迫られる美術館。今後の望ましい方向性について前文化庁長官で同館と縁の深い宮田亮平・美術館連絡協議会会長(※)と、同館の藤田裕彦学芸課長に語ってもらいました

1993年7月に開館した新潟県立近代美術館(長岡市)

◆「世界」「日本」「新潟」を常に視野

 ――宮田会長は佐渡島で代々続く工芸家の生まれ。新潟県立近代美術館とも縁が深いそうですね。
 <宮田> 収蔵品の収集委員長を約20年間、務めました。兄の工芸家、三代目宮田藍堂(1926~2007年)も私に先立って収集委員をしていたので、宮田家ぐるみで長くかかわっています。

前文化庁長官の宮田亮平さん

 <藤田> 宮田さんが2016年に東京芸大学長から文化庁長官に就任した際、多忙を理由に大半の公職を離れたのに、当館の仕事だけは「地元だから」と続けてくださいました。長官の分刻みのスケジュールの中でも、収集について報告に伺うと、しっかり時間をとって話を聞いてもらえました。
 ――新潟県立近代美術館のイメージは。
 <宮田> 新潟は佐渡金山の流れもあってもともと工芸が盛んで、その方面のコレクションが充実。私の兄の作品展を開催してもらったこともあり、素晴らしい内容で感動しました。コローやモネなど西洋美術、洋画や日本画も優れた作品がたくさんあります。
 <藤田> 「世界」「日本」「新潟」の三つの美術を軸に据えています。キュレーターとして「この館でなければできないことを」と考えるのは当然で、地域性やコレクションを重視した展覧会や常設展は大切ですが、集客の点では難しいところも。人気のある作家やサブカルチャーの展覧会は観客動員というだけでなく、美術館に足を運んでもらうきっかけとしても重要。どこも財政事情が厳しく、コロナ禍もある中、美術館は難しい判断を迫られていると思います。

学芸課長の藤田裕彦さん

学芸員の仕事 もっと光当たってほしい

 ――宮田会長は東京芸大学長時代から文化財の「修理」「保存」「公開」というサイクルの大切さを訴えてきました。
 <宮田> そのサイクルの中心にあるのが美術館であり、学芸員さんです。公開することで作品の傷みが分かるし、早期の修理でよりよい保存につながる。文化芸術と経済、観光という連携も重要で、地域の発展には不可欠なのですが、意外と地域の人々がそうしたことを知らないのです。学芸員さんがいかに重要な仕事をしているのか、もっと光が当たってほしいし、もっと社会にアピールしてほしいとも思います。
 <藤田> 修理や保存に対する宮田さんの情熱には頭が下がります。当館のコレクションで柴田武次という地元作家の作品があり、経年劣化でかなりさびついていました。それを見た宮田さんは芸大に持ってかえり、作者の制作工程をよく検証し、できうる限り当初の仕上がりに近い修理をしてくれました。「ここまでやるのか」と驚きました。

柴田武次《柴田鍛鉄銀象嵌波濤文香炉(たんてつぎんぞうがんはとうもんこうろ)》昭和10年代(修理前)
数回の技法の後、菜種油を塗って焼き付け、米ぬかで磨き上げる(修理中)
(修理後)

 <宮田> 根っからのもの作り(好きな人間)なので作品を見るとつい夢中に(笑)。でも、そうした修理や保存の過程を若い人や地域の人に見てもらうのもいいですね。リアルカルチャーの現場を知ることで、美術館への見方も変わるかもしれません。

日本文化の素晴らしさを発信

 ――今、美術ファンである人はもちろん大切ですが、「これから美術ファンになるかもしれない人」への働きかけが重要なのですね。
 <藤田> 美術ファンのすそ野を広げたい、と常に考えています。
 <宮田> 美術館には歴史観や存在感、信頼感といったものが求められます。日本の素晴らしさを世界に発信する存在であってほしいです。これからも応援していきます。(聞き手・読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)
 
 ◇宮田亮平(みやた・りょうへい) 1945年、佐渡島生まれ。東京芸術大学大学院修了。イルカがモチーフの「シュプリンゲン」シリーズで知られる。東京芸術大学学長、文化庁長官など歴任。現在、日展理事長、美術館連絡協議会会長。

宮田亮平《シュプリンゲン 21-2》
宮田さんはパブリックアートにも熱心。東京メトロ・末広町駅に設置されている《悠々快泳》

 ◇藤田裕彦(ふじた・ひろひこ) 1964年、新潟県新津市(現新潟市)生まれ。93年から新潟県立近代美術館学芸員、2003年同県立万代島美術館学芸員、09年より現職。「佐々木象堂とモダニズム」展、「会田誠展」など担当。
 
◆万代島美術館と共に発展 遠藤聡館長

新潟県立万代島美術館が開館した2003年時点で両館は、1945年以前を近代美術館、それ以降を万代島美術館が扱うこととして活動を行ってきましたが、現在はそれぞれの館の機能やスタッフの専門分野、そして県民のニーズなどを考慮してバラエティーに富んだ展覧会を開催しています。これからもそれぞれの美術館にご注目ください。
 
 ◆19世紀の西洋美術、工芸も充実 新潟県立近代美術館

 新潟県民会館に併設されていた新潟県美術博物館の施設拡充を求める声を受け、県央に位置する長岡市の緑豊かな信濃川沿岸に1993年、新潟県立近代美術館が発足しました。
 地元の収集家による「大光コレクション」を軸とした近代の流れを見渡せる国内作品のほか、日本の近代美術に関わりの深いバルビゾン派やナビ派など19世紀の西洋美術でも優れた収蔵品を持っています。また、工芸の分野も充実しています。

クロード・モネ《コロンブの平原、霜》1873年
岸田劉生《冬枯れの道路(原宿附近写生)》1916年

 2003年には分館として県立万代島美術館が新潟市に設置され、広く県民に芸術に親しむ機会を提供しています。
 

(※)美術館連絡協議会
1982年、全国の公立美術館が連携を図り、芸術、文化の向上および発展に資することを目的に設立された。読売新聞社などの呼びかけに賛同した35館で発足、現在は47都道府県の149館が加盟している。
創立40周年の節目を迎えるにあたり、2022年4月に前文化庁長官の宮田亮平氏を会長に迎えた。今後も美術館の発展を通じて、広く市民が芸術に親しむことができるよう、様々な取り組みを進める方針。

美術館連絡協議会のホームページ(https://birenkyo.jp/

(この記事は、2022年8月29日の読売新聞朝刊に掲載された「美術人ナビ」の記事をリライトしたものです)

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