【街のアート】お正月にぴったりな片岡球子の《めでたき富士》 藤沢市役所分庁舎

《めでたき富士》

みなさん、あけましておめでとうございます。今年も美術展ナビをよろしくお願いします。

新年に合わせて、連載「街のアート」では、見るだけで1年が幸せに過ごせそうな作品を取り上げてみました。片岡球子が原画を描いた《めでたき富士》という作品です。陶板のレリーフで、縦3㍍40、横7㍍の大作です。公益財団法人日本交通文化協会が企画し、陶板製作はクレアーレ熱海ゆがわら工房が担当しました。作品は、藤沢駅北口を出て線路沿いを大船方面に3分ほど歩いた藤沢市役所分庁舎1階にあります。

《めでたき富士》

片岡球子(1905~2008)は大胆な構図と鮮やかな色彩を使った「富士山」をテーマにした作品を多く残した日本画家です。1970年から、103歳で亡くなる2008年までを藤沢市で過ごしました。その縁もあって、この作品は1983年6月に藤沢市役所新館1階ロビーに設置され、2020年1月からリニューアルされた分庁舎に移されました。

《めでたき富士》富士山と太陽部分

初夢に見ると縁起がいいものとして「一富士二鷹三茄子なすび」と言われます。そのなかで富士が一番めでたいとされる理由は、「富士(ふじ)」を「不死(ふし)」や「無事(ぶじ)」と掛けているほか、山の形から末広がりにつながるなどの説があるようです。片岡球子の富士は、心躍るような鮮やかな赤富士に、大きな太陽の金の輪も華やかで、運気も上がりそうです。

《めでたき富士》の松部分
《めでたき富士》の竹部分
《めでたき富士》の梅部分

さらに、右上から左下にかけて、「松竹梅」も描き込まれています。中国では古くから、冬の寒さに耐えて緑を保つ松と竹、寒中に花を咲かせる梅は「歳寒三友さいかんさんゆう」と呼ばれ、厳しい環境でも節度を守り、一貫した志を持つ理想の人に例えられ、讃えられてきました。日本では、樹齢が長い松は長寿、伸びが早い竹は成長、たくさんの実をならせる梅は子孫繁栄につながると、めでたいことの象徴となっています。目にも鮮やかな色使いに気持ちも高まります。

作品には立体感があります

陶板の造形は、ベルギー生まれのパブリックアート作家で、クレアーレ熱海ゆがわら工房所長だったルイ・フランセン(1928~2010)が、工房スタッフと共に制作しました。原画の持ち味を生かしながら、立体感を持たせたことで、力強さや華やかさが加わっています。

スケッチはマジックペンで

相澤實さんと片岡球子から贈られた版画

生前の片岡球子と交流のあった写真家が、藤沢の隣駅の辻堂にいらっしゃると聞いて、お話を伺いに行きました。相澤實さん(78)は1979年、茅ヶ崎市にアイザワ写真館をオープン。そして1980年、展覧会の図録用に平山郁夫を撮影したことをきっかけに画家、陶芸家、作家ら文化人を撮りはじめるようになり、日本藝術院会員を中心に肖像写真を長く手がけています。

片岡球子とも仕事で出会いましたが、家が近かったこともあり、色々な頼まれごとを受けていたといいます。「桜の季節になると、桜が描きたいからと連絡があったりしました。私が近所を探して、お迎えしてスケッチ場所にお連れしたりすると、御礼に版画を用意してくださったりしました。牡丹が季節外れになったと相談された時は、福島の知人に連絡して送ってもらって届けたこともありました」と振り返ります。裏側から色々と支えてきましたが、「偉い先生と付き合うというよりは、困っている人がいたので助けたという感覚でした」と相澤さんは懐かしみます。

スケッチは、濃い鉛筆などではなく、太くて短いマジックペンで描いていたそうです。あの力強いタッチがマジックペンの下絵から生まれていたと聞いて、とても腑に落ちました。

相澤さんが撮影した片岡さんの写真

こちらの肖像写真は、相澤さんが何度も片岡邸を訪れて撮影したものです。ご自身が落ち着く場所なので、どれも表情が柔らかく、ベストな背景まで考え尽くされ、相澤さんの技術も光っています。

そごう美術館では「面構」展も

2023年1月1日から、横浜・そごう美術館では片岡球子が歴史上の人物を描いた「面構つらがまえ 片岡球子展 たちむかう絵画」が開かれます。こちらは「富士」と並ぶライフワークですので、《めでたき富士》とともに鑑賞すれば、上村松園、小倉遊亀ゆきと並び称される片岡球子への理解も深まるのではないでしょうか。(読売新聞美術展ナビ編集班・若水浩)


※相澤さんが撮影した写真が図録などに使われています。

「美術展ナビ」の人気連載、河野沙也子さんの「漫画で紹介、先輩画家」でも片岡球子を取り上げています。

◆藤沢市役所分庁舎
開庁時間は8301700 ※土日、祝、年末年始(12/281/3)を除く