【レビュー】「遊びの美」 根津美術館で2月5日まで 文化としての遊びを満喫し金屏風の競演で新年を寿ぐ

企画展「遊びの美」
会場:根津美術館 (東京都港区南青山6-5-1)
会期:12月17日(土)~2023年2月5日(日)
休館日:毎週月曜日 ただし1月9日(月・祝)は開館、翌10日(火)休館
年末年始(12/26~1/4)休館
アクセス:地下鉄銀座線・半蔵門線・千代田線 表参道駅より徒歩8分
入館料:オンライン日時指定予約制
一般1300円、学生1000円、中学生以下は無料
※当日券(一般1400 円)も販売、ただし混雑状況によっては販売しない場合も
詳しくは(https://www.nezu-muse.or.jp/)へ。

ひとくちに「遊び」といっても平安時代の歌合に蹴鞠、犬追物や狩猟は、重要な教養だったり、コミュニケーションの手段であったり、武芸の鍛錬のためのものであったりしました。やがて江戸時代になると、祭礼や社寺参詣など娯楽や観光を楽しむ庶民も出てきました。

子どもたちは遊具がなくても自分で考えて遊ぶように、人間は本来遊ぶものなのです。遊びによって、人々は楽しみながらより良く生きていく術を身につけ、生活に潤いを与え重要な役割を果たしてきたのです。そしてそこからさまざまな文化が生まれました。文化としての遊びを根津美術館所蔵の絵画や古筆、屏風などの作品を通じて紹介する展覧会です。

それぞれが羽を伸ばす「桜下蹴鞠図屏風」

重要美術品《桜下蹴鞠図屏風》(右隻) 紙本金地着色 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

《桜下蹴鞠図屏風》は、今回のメインビジュアルにもなっています。蹴鞠は、鹿革の鞠を蹴り回数を重ねることを目的とした、公家が屋外で楽しんだ代表的な遊びです。飛鳥井流などの流派が形成されるほど、蹴鞠の技は高められました。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも後鳥羽上皇と北条時房が蹴鞠対決をする印象的なシーンがありました。

右隻を観ると、満開の桜のもと公卿や僧侶8人が蹴鞠に興じている場面が描かれています。8人の視線は上部中央の鞠に集まり、真剣な様子がうかがえます。真剣勝負ながらも各人が凝った装束を身に着け、どこかのどかで大変雅な風情を醸し出しています。

《桜下蹴鞠図屏風》(左隻)

一方左隻に目を向けると垣根の外側で従者たちが待機しています。垣根で主人からは見えない気安さか、みな非常にくつろいでいる様子です。中には大欠伸している者もいますね。主人たちは蹴鞠に興じていますし、従者たちも談笑しながらのんびり息抜きしているように見えます。

《桜下蹴鞠図屏風》は俵屋宗達の周辺で制作されたと考えられています。画を斜めに区切る垣根の線と水際の曲線が琳派らしい構図となっています。華やかに彩られた右隻と色も線も抑えた左隻の対比も印象的です。

また個人的には、桜の花と枝葉の年月を経ることによって醸し出された風情にとても惹かれました。ぜひ実物をお近くで鑑賞してください。

ゆったりと楽しい時間が流れる「舟遊紅葉狩図」

《舟遊紅葉狩図》 住吉広定筆 絹本着色 日本・江戸時代 19世紀 根津美術館蔵

滝のたもとでの紅葉狩りと舟遊びの様子が1対になった《舟遊紅葉狩図》は非常に色鮮やかです。紅葉の赤、松の緑、水面の青がひときわくっきりと彩られています。人々の様子がとても優雅で、衣裳も鮮やか、みな大変ふくよかで、とてもゆったりと楽しい時間が流れている様子が伝わってきます。

そして、表装の天地と柱(外枠)の部分が、鮮やかな青であることが大変印象的です。表装は絵を引き立てるために控えめな色彩のことが多いですが、こちらは水の鮮やかな青と同じ色調の青です。まるで舟遊びをする水面の延長のようにも見え、とても画を引き立てています。表装がまるで作品の一部のようになっていますね。このような表装もあるのかと感心しました。

新年にふさわしい金屏風の競演

展示風景

展示室には《犬追物図屏風》、《曽我物語図屏風》、《洛中洛外図屏風》、《伊勢参宮図屏風》、《邸内遊楽図屏風》など豪華絢爛な屏風が並びます。大変きらびやかで新春にふさわしい展示となっています。

《曽我物語図屏風》 (右隻) 紙本金地着色 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

《曽我物語図屏風》は曽我兄弟が父親の仇討を試みる物語です。右隻は鎌倉幕府初代将軍の源頼朝が富士の裾野で行った巻狩りの場面です。武家の棟染として御家人の支持を得るためには、武芸に秀でることが重要でした。狩りは遊びとしてだけでなく、乗馬や弓矢などの武芸を訓練するためのものでもあり、実力を見せつける機会でもありました。

金雲が広がり、巻狩の場面を演出しています。逃げ惑う獲物の鹿や兎たちと、追いつめる御家人たち躍動感があり歓声が聞こえてきそうです。狩りを助ける犬もかわいらしいです。

《洛中洛外図屏風》 (右隻)紙本金地着色 日本・江戸時代 17世紀 福島静子氏寄贈 根津美術館蔵

《洛中洛外図屏風》は、京都の市街(洛中)と郊外(洛外)の様子を細かく描いています。右隻では祇園祭の山鉾巡業が、左隻には神輿が描かれています。人々が祭りを楽しむ様子が生き生きと表現されています。金雲が効果的に街を覆っています。

左《曽我物語図屏風》(部分)、右《洛中洛外図屏風》

ここで《曽我物語図屏風》と《洛中洛外図屏風》の金雲に注目してみましょう。金雲は「源氏雲」と呼ばれることもありますが、大和絵の技法で金箔を雲や霞の形に貼ったもののことで、場面の切り替えや省略のために用いられました。《曽我物語図屏風》の金雲は松笠菱、《洛中洛外図屏風》は雲型にそれぞれ型押しされています。松笠菱は鋭く鋭利な、雲は曲線で柔らかな印象を与えています。また両者とも平面的に貼っただけより輝きと立体感と重厚感がプラスされています。

きらびやかでゆったりした気分を満喫でき、新年にふさわしい展覧会と言えます。正門から隈研吾さん設計の本館へのアプローチ、根津家私邸時代の面影を残す1万7,000㎡の庭園などフォトスポットも盛りだくさんです。(ライター・akemi)
*展示室内は通常撮影禁止です。許可を得て撮影しました。


【ライター・akemi
きものでミュージアムめぐりがライフワークのきもの好きライター。
きもの文化検定1級。Instagramできものコーディネートや展覧会情報を発信中。コラム『きものでミュージアム』連載中(Webマガジン「きものと」)。

展覧会に合わせたコーディネート。今回は《桜下蹴鞠図屏風》にちなんで桜吹雪のようにも見える小紋と小桜模様の帯で。まだ季節的に桜には早いのですが枝葉のついていない桜は1年中身に着けてもよいとされています。

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