【レポート】2022年秋にオープンした栃木市立美術館 喜多川歌麿の傑作「雪月花三部作」の高精細複製画や肉筆画も3月5日まで無料公開

2022年11月にオープンした栃木市立美術館

2022年11月3日、蔵の街・栃木県栃木市に待望の栃木市立美術館がオープンしました。4月にオープンした栃木市立文学館と一体のコンセプトは、「みんなで楽しみ・広め・創るミュージアム」。芸術文化を醸成する場として、記念すべき一歩を踏み出しました。(ライター・佐藤拓夫 栃木県在住)

「蔵の街」をイメージしたデザインに注目を

栃木市立美術館では現在、新しい美術館の開館を盛り上げるために行った「キックオフ・プロジェクト」の成果展(2023年3月5日まで、入場無料)を開催しています。企画のメインは、2つの市民参加型ワークショップ。そのほか、同館の重要な収蔵品である喜多川歌麿の代表作の高精細複製画や肉筆画を特別展示しています。

展示内容のレポは少しお待ちを。入館する前に、まず建物の造形に注目しましょう。美術館の外観は「蔵」をモチーフにしています。栃木市が蔵の街であることは、栃木市立文学館の記事でも紹介しました。

栃木市立美術館の正面外観。蔵の造形をモチーフにデザイン

栃木市立美術館の完成前、栃木市には約200年前の江戸時代の文化・天保期に建てられた土蔵を活用した「とちぎ蔵の街美術館」という美術館があり、まさに「蔵の街」栃木市を象徴する存在でした。蔵の街美術館は2021年3月に閉館しましたが、「蔵の街のイメージを大切にする」というコンセプトは新美術館の設計にも受け継がれました。

中心街に残る旧・とちぎ蔵の街美術館の建物(現・栃木市蔵の街市民ギャラリー)。栃木を代表する豪商・善野家の蔵だった

歌麿の傑作たちが一堂に!

栃木市立美術館の通路沿いに居並ぶ3つのホワイトキューブは豪商の屋敷をイメージさせる

栃木市立美術館の展示室Cでは、江戸時代の浮世絵師・喜多川歌麿の作品を展示しています。美人絵の大家である歌麿は、活動がつまびらかにされていない謎の多い作家ですが、実は栃木と歌麿には、江戸中期に流行した「狂歌」を通じてひとかたならぬ関係がありました。

狂歌とは江戸時代の天明年間に大流行した、世俗のことを題材に諧謔かいぎゃくを交えて詠む和歌のこと。優れた狂歌師でもあった歌麿は、同じく狂歌師として活動した栃木の豪商・善野家の当主と歌詠みを通じて懇意になります。善野家からの依頼で制作したと伝わる作品こそが、《深川の雪》《品川の月》《吉原の花》からなる歌麿の大傑作「雪月花三部作」なのです。

喜多川歌麿《品川の月》と《吉原の花》の高精細複製画。展示室では《深川の雪》を含む三部作の高精細複製画を鑑賞できる

雪月花三部作は、栃木市旭町の定願寺で1879年に開かれた展覧会に出品された記録が残っています。ただその後は所在が散り散りになり、一時は行方不明にもなっていました。

現在《深川の雪》は箱根の岡田美術館に、《品川の月》はワシントンD.C.のフリーア美術館に、そして《吉原の花》はコネチカット州のワズワース・アセーニアム美術館に収蔵されています。このうち《品川の月》は、フリーア美術館の創設者が館外への持ち出しを遺言で禁止したため、私たちが現在日本で鑑賞できるのは複製画だけです。

美術館の開館にあたり、雪月花三部作の高精細複製画を3年ぶりに展示。オリジナルを忠実に再現した複製画で、絢爛豪華な江戸の美を体感してください。

花魁たちの華やかな宴の展開される歌麿《吉原の花》(高精細復元)

歌麿の肉筆画も展示

また「キックオフ・プロジェクト成果展」の期間中、歌麿の数少ない肉筆画も特別展示しておりこちらも必見です。現在は《鐘馗図》《三福神の相撲図》の2点を展示。2023年1月11日から《女達磨図》に展示替えします。

喜多川歌麿《鐘馗図》寛政3~5年(1791~93)頃 紙本墨画 栃木市立美術館蔵
喜多川歌麿《三福神の相撲図》寛政3~5年(1791~93)頃 紙本墨画淡彩 栃木市立美術館蔵

映像作品《1トンになる タムラサトル》

歌麿作品の展示を紹介してきましたが、今回の新オープンにおけるメイン企画は、次の2つのキックオフ・プロジェクトです。

最も広い展示室Aでは《1トンになる タムラサトル》を展示中。栃木県小山市出身で栃木高校を卒業した現代美術家タムラサトルが手がけた作品で、参加者が1つの秤の上に乗り、合計1トンぴったりになるよう挑戦する即興的なプログラムです。

「1トン」を計測する120cm四方の台秤。落ちないよう注意深く秤に乗る地元高校のラグビー選手たち

制作過程を撮影した映像には、人間だけでぴったり1トンにするのはなかなか難しく、小道具なども使いながら試行錯誤していくにぎやかな様子が映し出されていました。

「1トン」という数字そのものは無機的です。しかし、参加者の中に生じる朗らかな一体感とちょっとしたユーモアを眺めていると、制作過程全体が一つの有機的なアートであることがわかります。作品のクレジットはタムラ氏自身ですが、市民との共同制作とも評価できるでしょう。

《1トンになる タムラサトル》には、栃木市を構成する全6地域(栃木、大平、藤岡、都賀、西方、岩舟)の住民が参加した

かつて栃木市の特産物だった藍を使ったワークショップ《とちぎを藍で染める》

展示室Bでは、キックオフ・プロジェクトの2つ目となる連続ワークショップの成果展「とちぎを藍で染める」を展示中です。ワークショップに参加する市民が種から育てた藍の葉を使った たたき染めや生葉染めといった伝統的な手法で染めた作品を展示しています。

単に藍染めの作品を公開するだけなら「市民参加型ワークショップ」の実態はほとんど見えなかったでしょう。制作過程をわかりやすいパネルにすることで、藍の歴史や文化を街全体で共有し、継承していく心意気が具体性を伴って可視化されていました。

《1トンになる タムラサトル》もそうですが、本館のコンセプト「みんなで楽しみ・広め・創るミュージアム」にふさわしいプロジェクトと言えるでしょう。

《とちぎを藍で染める》展示風景
48の異なる藍の色でうちわを染めた《藍四十八色》。藍染めの無限のバリエーションが一目でわかる
藍染めで染めたTシャツや鯉のぼりを展示するインスタレーション

2023年4月からの開館記念展では郷土ゆかりの作家の代表作を紹介

郷土出身作家の作品を収集・保存・公開することは地方美術館の使命と言っていいでしょう。栃木市立美術館も、先に挙げた喜多川歌麿に代表される栃木市ゆかりの作家たちの名作を数多く収蔵しており、そのコレクション数は2000点以上にのぼります。

2023年4月15日から開催する「開館記念展 明日につなぐ物語」では、市ゆかりの作家の代表作をたっぷり鑑賞できますので乞うご期待。明治から昭和にかけて活躍した、橋本邦助、田中一村、清水登之、刑部人の絵画、鈴木賢二の版画、二代飯塚鳳齋の竹工芸など、とちぎ蔵の街美術館時代から丹念に収集してきた名作の数々で「アートの春」を新しい美術館で堪能しましょう。

栃木市立美術館
住所:栃木県栃木市入舟町7-26
開館時間:午前9時30分~午後5時00分(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、火曜日休館)、祝日の翌日(土曜・日曜・祝日の場合は開館)、12月29日〜1月3日
観覧料:2023年3月5日(日)まで無料
詳しくは館のホームページ:https://www.city.tochigi.lg.jp/site/museum-tcam/