【開幕】「特別展 追悼 森英恵」 故郷の美術館で「HANAE MORI」の偉大な足跡を回顧 島根県立石見美術館で1月29日まで

(左)イブニング・ドレス「花の黒いドレス」1981年 (右)イブニング・ドレス「花の白いドレス」

今年8月、96歳で亡くなった森英恵さんを偲ぶ「特別展 追悼 森英恵」が島根県立石見美術館で始まりました。開幕した12月22日に取材に伺いました。海外に進出した日本のファッションデザイナーの先駆けで、幅広いジャンルで活躍した森さん。先達としての苦難の道のり、そして緻密でセンスあふれる作品の数々に改めて感銘を覚えます。

森さんの逝去を受けて急きょ、計画された同展。展示は30数点とコンパクトですが、彼女の歩みを振り返る上で重要な作品を見ることができます。森さんは島根県吉賀町出身。その縁で島根県立石見美術館は2005年の開館前から森さんから様々なアドバイスを受けるなど交流があり、代表作のひとつ、《ジャンプスーツ、カフタン「菊のパジャマドレス」》(1966年)など優れたコレクションを所蔵しています。

生前の森さんと展覧会開催などを通じて交流のあった同美術館の南目美輝学芸課長は「地元を大切にする方で、価値ある作品を寄贈してもらっていたので、こうして追悼の展覧会を年内に開くことができました。日本のファッション界のパイオニアとして世界で活躍した森さんですが、若い人の声にも耳を傾け、受け止めてくれる素晴らしい人柄。ご自身の経験からか、働く女性を熱心に応援してくださったのも印象深いです」と振り返ります。

ジャンプスーツ、カフタン「菊のパジャマドレス」1966年 ホームパーティーの場で女主人が羽織ってもてなすような場面に相応しい優雅な作品。「VOGUE」で見開きで掲載されるなどアメリカで人気を集め、海外進出の基盤となりました。

展示の前半はアメリカ時代、そしてパリのオートクチュールの作品を中心に紹介します。東西文化の融合をはかったことが高く評価された森さん。日本の素材や技法も深く研究して取り入れました。「当時、海外で日本の製品は『安かろう、悪かろう』と受け止められがちでした。そうした現状を変えるためにも、優れた日本の伝統を正しく伝えたいと考え、実践したのが森さんでした」と主任学芸員の廣田理紗さん。

展示の冒頭は1960年代、アメリカ進出に伴って制作されたドレスが並びます。この時期、すでにオートクチュール並みに高い完成度の作品が生み出されていました。西陣織など日本の伝統の技巧も取り入れています。
カフタン、ドレス「蝶のカフタン」1976年 春夏

森さんの代名詞ともいえる蝶が華やかに舞います。

こちらは1980年代以降の作品。オートクチュール組合のメンバーとしてパリで活躍しました
イブニング・ドレス「北斎の版画のように、山の風景を染めた絹のドレス」1996年
イブニング・ドレス「浮世絵のジャケットとリボンで編んだスカート」2001年 秋冬
イブニング・ドレス、カフタン「黄金色の鶴のドレスとカフタン」2004年 秋冬

ドレスだけでなく、スーツやジャケットの精緻な作りにも感嘆です。

カクテル・スーツ「プリーツをあしらったウールのスーツ」2001年 春夏

「プリーツの加工が超絶技巧で見とれてしまいます。森さんの優れたデザインセンスと、スタッフの高い技量が相まって可能になった逸品です」と主任学芸員の廣田さん。

表側のデザインもとてもかわいいです
ジャケット、タイトスカート 1989年 秋冬

「黒一色ですが、絹サテンとウールの生地を網代編みと呼ばれる手法であしらい、独特のニュアンスを出しています」(廣田主任学芸員)

展示の後半は既製服などを紹介します。文筆でも冴えたセンスを見せました。キャリア前半に精力的に取り組んだのは映画の衣装です。邦画全盛期にスターたちを一層輝かせました。貴重なオートクチュールコレクションの記録映像も見られます。

デイ・ドレス 1960年代後半
デイ・ドレス 1960年代後半

「ディスカバー・ジャパン」が持て囃され、「アンノン族」が日本各地を訪ね歩いたころ。森さんの既製服はそうした若い女性たちに愛好されました。こちらもよくみると日本の伝統的なデザインを取り入れ、モダンなテイストと巧みに融合しています。

森さんは作品発表の傍ら、『装苑』などの雑誌にたくさんの文章を発表しています。『森英恵流行通信』はファッションの動向を的確に発信。簡潔で明解な文体で、書く才能も一流でした。

(左)ビーズで麻の葉柄を刺繍したワンピースドレス(映画『二人の世界』衣装)、(右)熨斗(のし)柄を染めたワンピースドレス(映画『地球40度線 赤道を駆ける男』衣装)

キャリア前半の1950年代から約10年間、数百本の映画で衣装を担当しました。浅丘ルリ子、吉永小百合など大スターの衣装を提供。時間に追われる仕事ながら、ストーリーや演出、登場人物のキャラクターなどに合わせてきめ細かくデザインを考え、高く評価されました。が、当時は映画製作における衣装の重要性が認識されておらず、森さんの名前がクレジットされることはほとんどありませんでした。島根県立石見美術館による地道な調査研究を通じて、こうした知られざる森さんの功績にも光が当たるようになりました。

「ハナエモリ 2004-05 秋冬 オートクチュールコレクション」の貴重な映像。これを見るだけでも来場する価値があります。

会場の島根県立石見美術館を含む複合施設「グラントワ」は、内藤廣さんの代表作として知られます。本当に素晴らしい建築でオススメです。足を伸ばしてみてはいかがでしょう?

1970年代半ば、ニューヨークのショー会場でのスナップ。
28万枚もの石州瓦が壁面や屋根に施され、見る者をひきつける島根県芸術文化センター「グラントワ」

特別展「追悼 森英恵」 島根県立石見美術館で1月29日(日)まで。縁の深かった故郷の美術館で、世界の「HANAE MORI」を偲びます。概要は下記の記事もご覧ください。(美術展ナビ編集班 岡部匡志)

特別展 追悼 森英恵

  • 会期

    2022年12月22日(木)2023年1月29日(日) 
  • 会場

  • 観覧料金

    一般300(240)円/大学生200(160)円/高校生以下無料

    ※()内は20名以上の団体料金

    ※各種障がい者手帳、被爆者健康手帳をお持ちの方、およびその介助者(1名まで)は入場無料

  • 主催

    島根県立石見美術館、しまね文化振興財団
  • 休館日

    毎週火曜日、年末年始(12月29日~1月3日)

  • 開館時間

    09:30〜18:00 展示室の入室は17:30まで
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