【インタビュー】「ボクの絵を見て『かわいい』っていう人は多いんですけど、『本当にそうかな』とも思うんですよ」――練馬区立美術館で「平子雄一×練馬区立美術館コレクション」展に臨んでいる平子雄一さん㊦

新作《inheritance, metamorphosis, rebirth》(2022年、作家蔵)の展示風景(撮影・青山謙太郎)

練馬区立美術館で開催中の「平子雄一×練馬区立美術館コレクション  inheritance, metamorphosis, rebirth [遺産、変形、再生]」展。そこで展示されている平子さんの新作は、同美術館収蔵の作品からどんなインスピレーションを得たのか。平子さん自身は、どんな作品を作ろうとしているのか。アーティストとしての現在、過去、未来を聞いた。(聞き手は事業局専門委員 田中聡)

平子雄一さん(撮影・青山謙太郎)

――今回、練馬区立美術館とのコラボ企画に臨んだ平子さんですが、そもそもアートとの出会いは、どんなものだったのでしょうか。ロンドンで美術を学んだということですが、そのきっかけは何だったのでしょうか。

平子 もともと他人とうまくやっていく、というタイプではなかったんですね。仲間と一緒にグループでワイワイやっていくという子どもではなかった。まあ、小学生の時から絵を描くのは好きで、マンガの『ドラゴンボール』などを拡大コピーして、トレーシング・ペーパーで模写する、なんてことをしてたんです。その延長線上で、自分の居場所を見つけるために、アートにのめりこんでいったのかもしれません。高校生になって、上の学校で美術を学ぼうとした時に、疑問に思ったことがあったんです。「アートを作っていくのに、デッサンは必ずやらなきゃいけないものなのか」ということですね。ちょうど美術書を通じてYBAsを知って、現代美術への関心を強めていた時でしたから。調べたら、イギリスの美術学校では「デッサン必須」ではないことが分かった。それで高校3年生の9月に学校を中退して、イギリスに渡ったんです。

YBAsは、「Young British Artists=ヤング・ブリティッシュ・アーティスト」。1990年代に若手として活動していたイギリスの現代美術家の総称で、ダミアン・ハースト、サラ・ルーカス、トレイシー・エミンなどの作家がいる。美術館での展覧会にこだわらず、ロンドン下町の倉庫跡などの「オルタナティブ・スペース」を使った活動を展開。90年代以降の現代美術のひとつの潮流を作った。

――ロンドンの美術学校では、何が学べましたか。

平子 デッサンとか油彩画の具体的な技術とか、そういうものはまったく教えてもらわなかったですね。「なぜ、こういう作品を作るのか」というコンセプトを考え、それを突き詰めて作品を「出力」する。その作業が、うまく行ったかどうかを検証する。そういうことを徹底して教え込まれました。帰国して、サラリーマンをしながら創作活動を始めるんですが、そこで学んだことはすごく役に立っています。感覚的に作品を作ることも重要なのですが、そのプロセスを論理的に考えるという行為を通じて、より作品を深めることができると思いますから。

平子雄一さん(撮影・青山謙太郎)

――平子さんの作品は「自然」や「植物」を扱ったものが多いのですが、そこにはどういう「コンセプト」があるのでしょうか。

平子 「自然」は人間にとって身近なものでもあり、人智の及ばないところもあるものだと思うんです。「神々しい」部分もあれば、「気味が悪い」部分もある。では、その「自然」とは何なのか。その「本来の姿」を検証したい、という思いがあるんです。例えばエコ活動などで守ろうとしている「自然」は本当の「自然」なのか。人間の手が加わっている部分があるのではないか。あるいは、「自然」は人間が「守れる」ような生やさしいものなのか。人間には分からない何かがそこにはあるのではないか――。そんなことを思うんですよ。「植物」は、そんな「自然」の中で、もっともわれわれ「人間」に身近な存在だと思うんです。

――なるほど。平子さんは、現代社会における「自然」と「人間」の関係性を描き続けているわけですね。平子さんの作品には「樹人間」といわれるキャラクターが登場し、それとともにイヌやネコが描かれるのですが、確かにイヌやネコはかわいかったり、不気味だったり、いろいろな表情をしています。とはいえ、そのキャラクターは相対的にいえば「かわいい」と評されることが多いですよね。

平子 でも、「樹人間」なんて子どもに見せると、「怖い」とか「気持ち悪い」とかいう反応が多いんですよ。「自然は守らなければいけないもの」「自然は美しい」という「固定概念」を持っているオトナには「かわいい」と見えるかもしれないけど、そういう刷り込みがまだ行われていない子どもは、違う目で僕の絵を見る。それも面白いな、と思っています。

《inheritance, metamorphosis, rebirth》のアイデアスケッチ

――さて、今回の展覧会の話に戻ります。展示されている新作ですが、10作品を選んだ練馬区立美術館収蔵作品の影響は、どんなふうにあるのでしょうか。

平子 今回の作品は4ブロックに分かれています。直接的に収蔵作品からの影響があるのは、真ん中の2つのパートですね。直接的に収蔵作品のイメージが取り込まれているのが左側のパート、小林猶治郎さんの《鶏頭》などが含まれています。右側は、収蔵作品を見ての僕の想いですかね。「絵画というメディアはこれからもずっと続いていく」という。収蔵作品の作家たちが絵に何を込めてきたか、それを僕も理解できたと思う。そのうえで、自分もさらに新たな作品を作り出さなければいけない。そんなことを思っています。

展示されている野見山暁治《落日》(1959年 練馬区立美術館蔵)

――外側の2ブロックは「自然」がテーマのようですが。

平子 左側は、(収蔵作品に描かれているような)戦前戦後の風景をイメージしています。今ほど人間の手が入っていない。「勝手に生えている」植物のイメージでしょうか。右側は、現代の「人間の手が入っている」自然です。「人間が管理している」自然は、実は「不自然な自然」ではないのか。でも、社会と関わっていくことも、今の「自然」では当たり前のことではないのか。そんなことを考えながら描いています。

――今回のコラボで得たものを今後はどのように生かしていこうと思いますか。また、どこかでこのような企画を行おうという気持ちはありますか。

平子 時代や制作環境が全然ちがう作品を自分なりに解釈して、自分の作品に取り込んでいく。この作業は面白いと思いました。例えば中東など、今まで縁のない自然観や美術観を持っているところと、同様の企画を行うのは面白いと思います。そういう意味でも、新たな刺激を受けた企画でした。(おわり)

新作《inheritance, metamorphosis, rebirth》(2022年、作家蔵)の展示風景
「平子雄一×練馬区立美術館コレクション」展
会場:練馬区立美術館(東京都練馬区貫井1-36-16)
会期:2022年11月18日(金)~2023年2月12日(日)
休館日:月曜休館、ただし1月9日は開館し、10日が休館。12月29日~1月3日は休館
アクセス:西武池袋線(東京メトロ有楽町線・副都心線直通)中村橋駅から徒歩3分
観覧料:一般300円、高校生・大学生及び65~74歳200円、中学生以下及び75歳以上無料など
※料金の詳細や最新情報は、公式HP(https://www.neribun.or.jp/museum.html)で確認を