【京のミュージアム#13】そこに何を見るか 何必館・京都現代美術館「エリオット・アーウィットの世界 Elliott Erwitt展」2月26日まで

「エンパイア・ステート・ビル、ニューヨーク」1955年 何必館・京都現代美術館蔵(以下いずれも同美術館提供)

フォトジャーナリストとして、何気ない日常の一瞬を捉える写真家として世界的な人気を誇るニューヨーク在住の写真家、エリオット・アーウィットの写真展が京都市の何必館かひつかん・京都現代美術館で開かれています。世界の歴史的瞬間から街角やそこに住む人々、子どもや恋人、そして彼のライフワークとも言うべき犬たちの一瞬を切り取った写真の数々。約60点のオリジナルプリントを「一瞬の劇場」「小さな隣人」「時代の証言者」「子供の情景」の4つのテーマに分けて展示しています。

「エリオット・アーウィットの世界 Elliott Erwitt展」
会場:何必館・京都現代美術館
会期:10月15日(土)~2023年2月26日(日)(※1月29日閉幕予定から好評につき会期延長)
休館日:月曜(1月9日は開館)、12月26日~1月6日
入館料:一般1,000円、学生800円
アクセス:京阪祇園四条駅より徒歩3分 阪急河原町駅より徒歩5分、京都市バス「祇園」下車徒歩2分
開館時間:午前10時~午後6時00分(入館は午後5時30分まで)
詳しくは(http://www.kahitsukan.or.jp/)へ
1階展示室

エリオット・アーウィットは1928年、ロシア人の両親のもとにパリで生まれました。第二次大戦の戦火を逃れて渡米、写真家として活動を始め、25歳で写真家集団マグナムの一員になります。以後、同集団第2世代の代表的写真家として高く評価されてきました。

「一瞬の劇場」

エリオットはケネディ、ジョンソン、ニクソンの歴代米大統領の時代、「大統領執務室にフリーで入れるカメラマン」と言われたそうです。1959年のモスクワでソ連共産党第一書記・フルシチョフの胸元に突き付けたニクソンの人差し指、ジョン・F・ケネディの葬儀でのジャクリーン夫人の表情と前に立つ弟のロバート・ケネディなどなど。歴史の一場面を捉えた写真は、報道カメラマンとしてのニュースを嗅ぎ取る研ぎ澄まされた神経を感じさせます。

エッフェル塔をバックに、傘を差したまま両足を大きく広げてジャンプする人。その横で抱き合う恋人と共にシルエットになった一枚は、一瞬に込められた物語を写し出しているようです。エリオットは報道カメラマンでもありながら、「私はプロの写真家ですが、趣味もアマチュアの写真家でいることです」と言っています。社会的な出来事を記録する写真だけでなく、彼の関心は家族や恋人、海辺、街路、美術館、犬などの心温まる日常風景にもありました。

2階展示室
「マリリン・モンロー、ニューヨーク」 1956年 何必館・京都現代美術館蔵

地下鉄の通気口からの風にスカートが煽られたマリリン・モンローの写真。有名な写真ですが、これもエリオットが撮ったものです。ソファに腰を下ろしているのでしょうか、穏やかでチャーミングな表情を見せるモンローの写真もあります。葉巻を手に寛いだ表情のチェ・ゲバラなど、時代を代表する人物との距離感を感じさせない写真です。

エリオットの写真の魅力は、一瞬を捉える直感力と画面の構成力にあります。館長の梶川芳友さんはそれを「写真家のセンス」だと言います。本人は「いい写真には、バランス、形式、内容が必要だ。しかし、非常にいい写真には、言い表せない魔法も欠かせない」と書いています。マンハッタンの霧の中に浮かぶエンパイア・ステートビルと手前の凜とした美しさを見せる女性の写真は、まさにそうした作品でしょう。いつまで見ていても見飽きることがありません。

3階展示室

「小さな隣人」

エリオットは大の犬好きだったそうです。世界中で撮った犬の写真は1000枚を超えると言います。どの写真も犬への愛情が感じられ、ユーモラスでもあります。

「パリ、フランス」 1989年 何必館・京都現代美術館蔵

「時代の証言者」

梶川さんは「写真は読むもの」とも言います。その写真に何が織り込まれているか。どこまで理解できるか。見る方の知識や考える力が試されます。エリオットの写真には、それだけのものが写し込まれていると言います。アメリカの基地で銃を肩に行軍中の黒人兵が舌を出した写真、手製の拳銃を作っているパキスタンで撮った写真、カストロの写真…。気になる写真ばかりです。2階展示室にある、横に並んだ二つの洗面台の写真もその一つです。左は箱形で白いきれいな洗面台で、右は壁に付けられたもので蛇口の栓も見えません。そこに黒人がかがんでいます。左の洗面台の上には「WHITE」、右には「COLORED」と書かれています。1950年に米国のノース・カロライナで撮られた写真です。

 

5階展示室

「子供の情景」

「コロラド、アメリカ」1955年 何必館・京都現代美術館蔵

子供だからと言って、可愛いばかりの写真ではありません。車の窓にあるのは弾痕でしょうか。こちらを見ている子供の目とぴったり重なっています。一瞬を捉えた技術も注目に値しますが、この構図自体が何かを訴えてきそうです。1953年にニューヨークで撮られた写真も不思議なインパクトがあります。幼い女の子がトンネンルの中を見ています。トンネルは短くて奥に出口が見えます。その薄暗がりの中で同じ年頃の女の子が両手で頬を押さえて、こちらを見ているのです。その横を中折れ帽を被った男があちら向きに歩いていきます。何か恐ろしい物語が潜んでいそうな写真です。一転して1955年のフランス・プロヴァンスの写真は微笑ましい写真です。自転車に二人乗りした祖父と孫の後ろ姿を撮ったものです。お揃いのベレー帽を被り荷台には長い2本のフランスパンがくくりつけられています。振り向いた子供の表情がいたずらっぽく見えます。

どの写真も見応えがあります。見る度に新しい発見がありそうです。何度でも見たくなる展覧会でした。

◆何必館・京都現代美術館

1981年設立の私立美術館。京都の花街である祇園の中心に建つ。館長の梶川芳友さんが、村上華岳の「太子樹下禅那」という絵に出会って美術に関わることを志し、後に自ら設計して建てた。「何必」とは「何ぞ、必ずしも」と、定説を疑う自由な精神を持ち続けたという願いから付けられたという。

何必館5階 光庭

最上階の5階には茶室と坪庭が配され、天井のない上部から差し込んだ光が、庭の山紅葉と石を照らして静寂な空間を作る。日本画家の村上華岳、洋画家の山口薫、陶芸を初めとしてあらゆる美術工芸の分野で活躍した北大路魯山人の作品を中心に、近現代の絵画、工芸、写真など幅広く収蔵。年4回ほどの企画展を開催している。

(ライター・秋山公哉)