【レビュー】宇都宮美術館 開館25周年記念 全館コレクション展「これらの時間についての夢」1月15日まで

クレス・オルデンバーグ 《中身に支えられたチューブ》

栃木県宇都宮市の郊外に位置する宇都宮美術館。開館25周年を記念する全館コレクション展「これらの時間についての夢」が2023年1月15日まで開催中です。本展をつらぬくテーマは「時間」。時をめぐるアートの旅を堪能しましょう。

外から始まる展示

展示室まで来訪者を誘うのは長い直線のプロムナード。光をたっぷり取り込む窓越しに見えるのは、クレス・オルデンバーグ 《中身に支えられたチューブ》

本展の1章は展示室手前のプロムナードからスタート。これまでに開催された企画展のポスター142枚が年代別に並ぶ眺めは圧巻です。

百花繚乱たるポスターたち

プロムナードの先に広がるのは、円形構造の吹き抜けが印象的な中央ホール。三方を囲む巨大な窓のおかげで、森の中にたたずむ本館のロケーションがあらわに。

各展示室へ出入りするたびにホールを通過するため、開放感あふれる空間がバッファとなり鑑賞者の心身をリフレッシュしてくれます。緊張と緩和をもたらす独特の構造を楽しんでください。

ホール中央の床では、大巻伸嗣のインスタレーションを展開中。吹き抜けの天井と対をなす造形により目に見えない結界のようなパワーが伝わってくる

懐かしさと情熱に満ちた第1回コレクション展再現展示

本展の目玉となる2章では、1997年に開催した第1回コレクション展を再現展示します。25年前と同じ作品、同じコンディション、同じ構成を再現することは決して容易ではありません。そのため現職のスタッフだけでなく、他館で要職につく当時の学芸員の協力も得たとのこと。

25年前にリアルタイムで鑑賞した私にとっては、まさにタイムスリップの時間でした。マグリットの《大家族》やカンディンスキーの抽象画など、地方の美術館ではなかなかお目にかかれない名作の数々。感動や興奮を超えた誇りのような感情を抱いた当時のことを、まざまざと思い出しました。

左:松本哲男《地から宙(グランド・キャニオン)》

多くの地方美術館がそうであるように、宇都宮美術館でも地域にゆかりのある作品を収集しています。第1回コレクション展でも、米陀寬や川島理一郎、松本哲男といった栃木県出身作家の重要な作品を展示しました。

左:マグリットの《大家族》。コレクションを代表する最重要作品のひとつ

第1回コレクション展の際、鳴り物入りで公開されたのがマグリットでした。予算に余裕のない地方美術館にとって、1点数億円を超える作品を購入することは大変な決断です。当時は地元メディアでも盛んに取り上げられ議論の的となりました。

ヴァーゲンフェルトの《テーブル・ランプMT9 ME1》やリートフェルト《アームチェア「赤と青の椅子」》といった戦前のデザイン作品も本館の重要なコレクション

目に見えない「時間」を体感する

再現展示のあとは、本館のコレクションから「時間」を思索するにふさわしい作品を鑑賞しましょう。

3章「時間に色と形を、月と太陽」では、暦の象徴とも言える月と太陽をモチーフにした作品を紹介。4章「不変へのまなざし」では、山や歴史的建造物といった人間の時間感覚を超えて存在する題材を取り上げています。

続く5章では、本館が収集に力を注ぐシャガール作品がずらり。6章では、バウハウスが開校した1919年を起点に、ドイツと日本の戦時体制下で制作された作品群が並びます。

4章「不変へのまなざし」の展示風景
6章では日独の戦時体制下で制作された作品を展示

トリを務める7章では、展示室をたっぷり使い、白昼夢を想起させる現代アートを紹介。佐藤時啓の写真作品《光-呼吸》シリーズや青木野枝のスチール作品など、時間の生成と変質を思い起こさせる空間です。

7章の展示室に軽やかな印象を与える青木野枝の作品
佐藤時啓の《光-呼吸》シリーズ

未来を刻む3つのインスタレーション

時間をテーマとする本展ですが、過去を懐かしむだけの場ではありません。大巻伸嗣、力石咲、髙橋銑らが手がけるインスタレーションは、見る者に未来への視点をもたらし、時のうつろいへの思考を促す特別展示です。

大巻伸嗣の《Echoes-Infinity》は、岩絵具を使った華やかな作品。外光をたっぷり反射した美麗なデザインに目を奪われがちですが、伝統的な文様やご当地の花鳥をモチーフとする手法に注目を。文化の記憶を守ろうとする作家の強い意志を感じます。

大巻伸嗣《Echoes-Infinity》。岩絵具が醸し出す淡く繊細な美観は眼福そのもの

力石咲《自分でつくって、自分でこわす》は、毛糸の玉と網目が織りなす造形が命の誕生と循環をイメージさせる作品。「編む」という自在性に富んだ技法により、作品の刹那の魅力を生み出しながら、未来への循環も実現しています。

最終日には作品をほどいていく様子を鑑賞できるそう。時間をテーマとする本展にふさわしい即興性に満ちたインスタレーションです。

力石咲《自分でつくって、自分でこわす》

髙橋銑の映像インスタレーション《二羽のウサギ》は、別々の美術館にある同じ作家の屋外彫刻を対比させる作品。各館の保存方針の違いがどのように屋外作品を変化させるかを長回しのビデオで表現します。

屋外彫刻は、天候や鑑賞者の接触による劣化が課題です。「保存」しながら「公開」するという美術館ならではのジレンマを映像化した本作は、アートと時間の関係を見つめ直すトリガーになることでしょう。

髙橋銑《二羽のウサギ》。流れる時間は平等でも、保存環境が異なれば作品の寿命はたやすく変化することを可視化した問題作

自然豊かな立地も宇都宮美術館の魅力

リニューアルしたレストランは、森の中に深く溶け込むロケーションが心地いい

宇都宮美術館は、およそ26ヘクタールにもおよぶ広大な丘陵地「うつのみや文化の森」の一画にあります。

森に囲まれた広大な芝地。憩いの場所としてたくさんの市民に愛されている

四季折々の自然景観と境界線をわけずに佇んでいることこそ、宇都宮美術館の最大の魅力かもしれません。本展で時の流れをたっぷり堪能したあとは、広々とした芝生でゆっくり足を休めるのもおすすめです。(宇都宮在住 ライター・佐藤拓夫)

開館25周年記念 全館コレクション展「これらの時間についての夢」
会場:宇都宮美術館(栃木県宇都宮市長岡町1077)
会期:2022年9月25日(日)~ 2023年1月15日(日)
休館日:月曜日(祝休日は開館)、12月29日(木)~1月3日(火)・1月10日(火)
※ただし1月9日(月・祝)は開館
開館時間:午前9時30分~午後5時 (入館は午後4時30分まで)
入館料:一般1,000円/大学生・高校生800円/中学生・小学生600円
詳しくは美術館公式サイトにて:http://u-moa.jp/