【開幕レビュー】特別展「春日大社 若宮国宝展―祈りの王朝文化―」奈良国立博物館で1月22日まで

国宝「若宮御料古神宝類 銀鶴及磯形」平安時代(12世紀)春日大社蔵

式年造替記念特別展「春日大社 若宮国宝展―祈りの王朝文化―」
会場:奈良国立博物館 東・西新館
会期:2022年12月10日(土)~2023年1月22日(日)
開館時間:9時30分~17時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし1月2日[月・休]、1月9日[月・祝]は開館)
年末年始(12月28日~1月1日)、1月10日(火)
料金:一般1600円、高大生1400円、小中生700円
詳しくは奈良博の展覧会公式サイト

奈良国立博物館(奈良市)で、春日大社の摂社「若宮」をクローズアップした特別展「春日大社 若宮国宝展―祈りの王朝文化―」が2023年1月22日まで開催中です。春日若宮は、20年に一度、社殿の修復をおこない神宝や調度品などを新調する「式年造替しきねんぞうたい」を今年の秋に完了したばかり。それを記念する特別展です。
(春日大社の若宮の式年造替について詳しくは下の記事をご覧ください)


本展の注目作品は、貴族の日記や文学には登場するものの、実物は正倉院と春日大社にしか残っていない、平安時代の貴族たちが催しものの場を飾るのに用いた「造り物」です。「平安の正倉院」と称されるほど、平安時代の貴重な文化財が数多く現存する春日大社。なかでも春日大社の若宮には、この「造り物」を含む創建当初の根本宝物である国宝「若宮御料古神宝類わかみやごりょうこしんぽうるい」19件が残っており、今回、一挙に公開されています。

春日大社5番目の神は水の神

若宮は、春日大社本社本殿の4柱のうち、第三殿の天児屋根命あめのこやねのみこと、第四殿の比売神ひめがみとの間に生まれた5番目の神である「御子神みこがみ様(天押雲根命あめのおしくもねのみこと)」。
長保5年(1103年)3月3日巳刻みのこく(現在の午前10時頃)に本社本殿の第四殿の大床に、小さなヘビのような姿で顕現したと伝わります。
春日大社国宝殿の松村和歌子学芸員は「子どもの神様で水神であることは出現の様子や神名からもうかがい知ることができます」と説明します。
平安後期の長承4年(1135年)に、長雨による飢饉や疫病が流行した際、その若々しい力にすがろうと創建されて以来、ヘビすなわち水を司る龍神(水神)であることから「水徳の神」「五穀豊穣の神」として広く信仰されてきました。若宮は御蓋山みかさやま(春日山)を背後に平城京に向かって西向きに建っています。「御蓋山や春日山は春日大社の創建以前から、在地の信仰の対象として大切にされてきました。その理由は(平城京の)水源地であることです」と松村さんは言います。

国宝「若宮御料古神宝類」水晶玉、銀琴 平安時代(12世紀)春日大社蔵

龍と宝珠を想起させる水晶玉と神の言葉を伝える神秘的な楽器である琴が展示されています。子どもの神様らしく、玩具のように可愛らしい古神宝です。

一度限りの「造り物」

奈良国立博物館の内藤航研究員は「国宝である若宮の古神宝もすばらしいのですが、その復元新調品の煌びやかな世界にも注目してもらえれば」と本展の見どころを説明します。
原宝物である国宝「若宮御料古神宝類 金鶴きんつるおよび銀樹枝ぎんじゅし銀樹枝ぎんじゅし」、「木造彩色磯形残欠」と、今年の造替で復元新調された「金鶴州浜台きんつるすはまだい」を見比べてみましょう。

国宝「若宮御料古神宝類」金鶴及銀樹枝・銀樹枝、木造彩色磯形残欠 いずれも平安時代(12世紀)春日大社蔵
復元新調された「金鶴洲浜台」 2022年 春日大社蔵

原宝物の「金鶴及銀樹枝・銀樹枝」、「木造彩色磯形残欠」は上の写真のようにバラバラの状態で伝わりました。しかし、X線CTスキャンなどの科学分析などによって、元は一体の姿であったことが明らかになったのです。その情報を基に重要無形文化財保持者(彫金)の桂盛仁さんと春日有職奈良人形師(一刀彫師) 太田佳男さんによって「金鶴州浜台」として復元新調されました。
「「金鶴及銀樹枝・銀樹枝」などは「造り物」と呼ばれ、平安時代に歌会や祝宴などの場で一度限りのものとして制作され、その後は破棄されたものです」と内藤さん。
「すばらしいものを一度かぎりのためにわざわざ作って驚かせる「風流ふりゅう」という平安時代の貴族たちの間で流行した文化のひとつでした。新旧の「造り物」を比較することで、今まで目にすることができなかった平安時代の王朝文化のきらめきを知ることができます」と語ります。

「平安の正倉院」と呼ばれる理由

なぜ、「造り物」が神社では春日若宮だけに残ったのか? その理由について、春日大社国宝殿の松村さんは「春日大社が創建当初に納められたものを御神殿の中で大切に残してきたスタイルの神社だったため、(若宮創建の)12世紀に流行最先端だった「造り物」が若宮の御神宝になったことで、破棄されずに残ったのだと考えられます」と説明します。

藤原摂関家をはじめとする平安貴族が、篤い信仰心から当時最高峰の技を集めた工芸品を本社本殿や若宮へ奉納し、その多くが現存しているため、「平安の正倉院」と呼ばれているのです。

国宝 金地螺鈿毛抜形太刀(きんじらでんけぬきがたたち)平安時代(12世紀) 奈良・春日大社  春日大社本社本殿の第二殿より撤下(てっか)された太刀。 鞘には螺鈿技法を用い、竹林で雀を追いかける猫の姿を表す。奉納者は不明だが、猫好きだったとされる「悪左府」の異名を持つ藤原頼長が関与したとされる
金地螺鈿毛抜形太刀 復元模造 現代 平成30年(2018) 文化庁【通期】文化庁の復元模造事業によって制作された金地螺鈿毛抜形太刀の復元模造品。竹林で雀を追いかける猫の姿がはっきり分かる

平安時代から途切れずに続く「春日若宮おん祭」

これだけ平安時代のものが脈々と残り続けている春日大社。祭礼も例外ではありません。若宮の例祭「春日若宮おん祭」(12月15日~18日)は、平安末期の保延2年(1136年)、関白・藤原忠通が天下安泰、五穀豊穣、万民和楽を願い大和一国を挙げて執り行って以来、一度も途切れることなく続いており、今年で887回目を迎えました。
日本最大の古典芸能祭典として知られている春日若宮おん祭。12月17日には、約8時間も若宮の御旅所(行宮)前の芝の上で、田楽・細男・猿楽(能楽)・舞楽など数々の古典芸能が奉納されますが、芝の上に居て観ることから「芝居」という言葉が生まれたとされています。

「日使装束」装束:現代  飾太刀・平緒:江戸時代(17世紀)春日大社蔵。日使(ひのつかい)は春日若宮おん祭をはじめた関白の代理として12月17日におこなわれる「お渡り式」では行列の第一番を務める。「春日若宮御祭礼絵巻」(部分)(江戸時代・17世紀、春日大社蔵)にはお渡り式の日使の姿が描かれている
「春日若宮御祭礼絵巻」(部分)江戸時代(17世紀)春日大社蔵。お渡り式の日使の姿が描かれている

中世以降、春日信仰は、一般庶民にも広まります。奈良国立博物館の井上洋一館長は「なぜ、平安の正倉院と称されるほどの貴重な文化財やおん祭にみられる芸能文化が今日まで受け継がれてきたのか。大事なのは、人々の信仰心によって支えられ、多くの方々の努力があったことです」と話していました。若宮に関する展示から、今に続く篤い信仰心が伝わってきます。
(ライター・いずみゆか)