【レビュー】「柴田是真と能楽 江戸庶民の視座」国立能楽堂で12月23日まで 新発見・初公開の下絵やスケッチも

幕末から明治にかけて蒔絵と絵画の両面で活躍した柴田是真(1807~91年)。新発見の下絵や一般初公開のスケッチ(写生)などを通じて、これまで知られていなかった能楽との関係や作品の制作過程を浮かび上がらせる特別展「柴田是真と能楽 江戸庶民の視座」が12月23日(金)まで、国立能楽堂(東京・千駄ヶ谷)の資料展示室で開かれています。入場無料。

江戸の庶民の家に生まれた是真は、蒔絵と円山派の絵画の両方を究めた稀な作家。まだ無名の頃に、約10歳年上ですでにプロの浮世絵師だった歌川国芳が弟子入りしたほどの「天才」ぶりでした。
江戸時代には、町絵師として庶民のみならず、印籠などの蒔絵で武士層からも人気を集めました。明治維新後も、漆を絵画の塗料として使う独自の「漆絵」を発明し、海外でも人気を博し、明治23年(1890年)には初代帝室技芸員の一人に任命されました。

しかし、展覧会を企画した国立能楽堂の高尾曜・事業推進課主任専門員兼調査資料係長は、「是真は今でも海外のほうが人気が高いのです。戦後日本では1980年に板橋区立美術館で是真展が開かれるまでほとんど忘れられた存在でした」と話します。同時期に活躍した河鍋暁斎(1831~1889年)とともに、戦後の近代美術史において意図的に外されたといいます。
是真の作品は、江戸らしい粋と洒脱さなどから、即興で生み出されたと考えられてきたものもありました。しかし、本展に伴う調査研究で、即興に見えるものも、実は多くのスケッチ(写生)と繰り返し校訂された綿密な下絵のもとで制作されていたことが明らかになりました。
展覧会では、スケッチについて、東京藝術大学が所蔵する是真の写生帖95冊から、10冊の能楽関係の内容を初めて詳細に検証して紹介。また、昨年、200点以上の下絵を含む粉本が新発見され、その一部を初公開しています。

是真の代表作「羽衣福の神図屏風」も、膨大な写生帖の中から、参考にしたスケッチや能装束の見本などが特定されました。参考のスケッチは一つでなく、複数のスケッチを組み合わせて全体の構成を考えていたことも分かりました。

粉本には、現在、所在不明となっている作品の下絵が多数ありました。紙を大事に使っていた是真は、1枚の用紙に、2つの絵を上下逆に描くこともありました。こちらは、能の三番叟が描かれていますが、左上は垂れ下がった柳ではなく、別の絵で、天に向かって伸びる麦が描かれているのです。

下絵といっても、ラフな絵だけではなく、「是真が手元に置いておきたかったのでしょう」(高尾さん)と非常に丁寧に描かれているものが多くあります。

また、狂言の早い動きの瞬間を切り取るような写生や、いまにも動き出しそうな鯉の摺物の原画、空を飛ぶ天人図の画稿など、「写生や下絵だからこそ、是真の筆致の生々しさをより感じ取れるものもあります」と高尾さん。




円山派の写生に基づく写実性に富む絵画、自ら彫刻まで行いイメージする形を追求した漆工の技、随所に見られる江戸らしいデザイン性と洒脱さ、柴田是真の魅力がぎっしりと詰まった展覧会です。(読売新聞デジタルコンテンツ部 岡本公樹)
特別展「柴田是真と能楽 江戸庶民の視座」 |
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会場:国立能楽堂 資料展示室(東京都渋谷区千駄ヶ谷4-18-1) |
期間:2022年10月29日(土)~12月23日(金) |
開室時間:午前11時~午後5時 *12月16日の国立能楽堂主催の夜公演の鑑賞客は開場から休憩終了まで展示を見ることができる |
入場無料 |
詳しくは国立能楽堂の公式サイトへ |
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