レター/アート/プロジェクト「とどく」展 東京都渋谷公園通りギャラリー 様々なコミュニケーションのあり方を模索 12月18日まで

会場の廊下には、やりとりした手紙から切り取った言葉がちりばめられていて、どんなやりとりがあったのか想像をかきたてられます。

わたしからあなたへ、あなたからわたしへ レター/アート/プロジェクト「とどく」展
会場:東京都渋谷公園通りギャラリー(東京都渋谷区)
会期:2022年10月8日(土)~12月18日(日)
開館時間:11時~19時
休館日:月曜日
入場料:無料
※詳しくは同館のホームページへ。

手紙やはがき、ビデオレターなど、ソーシャルメディアではないけれど、直接、顔を合わせることがないメディアを通じて、「今ここにいるわたし」と「今ここにいないあなた」がつながるアートプロジェクトの集大成となる展覧会です。

アートプロジェクトは2020年にスタートし、ゲストディレクター/キュレーターの小川希さんが企画。田中義樹さん、齋藤春佳さん、大木裕之さんの3人のアーティストが参加し、それぞれ児童養護施設の子どもたちや、ろうの学生たち、ピアサポートネットしぶや(生きづらさを抱える子供や若者たちを支援する施設)の利用者と、手紙やビデオメッセ―ジでやりとりしました。今展は約3年にわたって展開されたプロジェクトの総括で、この過程を踏まえたアーティストの作品などを紹介しています。

返事は来る?来ない?不安な「あの」気持ちを表現

田中義樹《ウェイテイング・ゴダー》 2022年
舞台「山羊は手紙を待ちながら」の一場面

児童養護施設の子どもたちと文通した田中義樹さんは、美術作家で漫画家、お笑いコンビの活動もしているマルチなアーティスト。なかなか来ない返事を不安を抱えつつ希望を持って待つ、あの独特の心境を作品化しました。サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を下敷きに、「ゴドー」と「ゴート(山羊の英語訳)」を掛けて、山羊を主人公にしたユーモラスなストーリーを舞台で披露するなどしました。「待ち人はくるのか」。「返事は届くのか」。SNS全盛時代にあって、一見、時代から取り残されたように思える「待つ」という営みが、実はコミュニケ―ションを豊かにすることを改めて思い出させてくれます。

齋藤春佳さんの作品

ろうの学生さんたちと手紙をやりとした齋藤さん。「聞こえる自分」と「聞こえない相手」とのコミュニケーションの中で、相互理解の可能性や限界について考えたことを作品の形に昇華しています。

大木裕之《とどく~ライブインスタレーション ON 渋谷公園通りギャラリー》2022年

「ひきこもり」の当事者や、特に支援者と密接にやりとりした大木さん。「ひきこもり」という現象が彼らだけの問題ではなく、私たちの社会と密接に繋がっているということを、インスタレーションから感じとることができます。

「ひと手間かかる」ことに意味

コロナ禍を経て、SNSやZoomなどへの依存が一層進み、遠方の人たちとも簡単につながることが当たり前になりました。しかし便利なツールをあえて使わずに、ひと手間がかかる手段でコミュニケーションを取ることで、他者をより理解し、深く共感することが可能になるのかもしれません。速さや便利さばかりをつい追求しがちな私たちの生活。そのあり方を見直すきっかけになるかもしれない、意欲的な展示です。

(美術展ナビ編集班 岡部匡志)