【レビュー】企画展「ワイルド・ファイヤー:火の自然史」国立科学博物館で来年2月26日まで 知られざる「火」と地球の歴史を体感

「ワイルド・ファイヤー:火の自然史」
会期:2022年11月15日(火)〜2023年2月26日(日)
会場:国立科学博物館(東京・上野公園) 日本館1階 企画展示室(東京都台東区上野公園 7-20)
開館時間:9:00~17:00 ※入館は閉館時刻の30分前まで
観覧料:一般・大学生630円(団体510円)
※常設展示入館料のみで観覧可能
※団体は20名以上
※高校生以下および65歳以上は無料
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)、12月28日(水)~1月1日(日・祝)※ただし1月2日(月・祝)・3日(火)・9日(月・祝)、2月13日(月)は開館
アクセス:JR「上野」駅(公園口)から徒歩5分
詳しくは同館の展覧会HPへ。

野火や山火事と聞くと、自然を破壊し、人間の生活を脅かす負のイメージを抱く方が多いのではないでしょうか。ですが、これらの現象には別の側面があることに気付くとともに、「火」と地球の4億年にわたる歴史を体感できる展覧会がスタートしました。

それが、国立科学博物館(日本館1階)で来年2月26日まで開催されている、山火事や野火をテーマとした企画展「ワイルド・ファイヤー:火の自然史」です。本展は、植物と火事の研究において、世界的な権威であるアンドルー・C・スコット博士の研究成果をベースに、国内各地の博物館の協力のもと実現しました。早速みどころを紹介します。

地球固有の自然現象「ワイルド・ファイヤー」

山火事といえば、まず、火元の不始末による失火などの人災を想像します。しかし、山火事や野火といった「ワイルド・ファイヤー」は、地球上に人類が登場するよりも、何億年も前から起こり続けてきました。

では、人間が火をつけないのだとしたら、ワイルド・ファイヤーはどのようにして発生するのでしょうか。

解説パネルによると、火が発生するには「燃料」と「酸素」、「着火現象」の三要素が必要です。まず、火事が起きるとき、燃えるものは植物です。そこに一定の濃度で酸素が供給され、木々の摩擦や雷、火山活動といった着火現象が加わったとき、ワイルド・ファイヤーが発生します。

統計によると、今この瞬間も、世界各地のどこかで毎秒約100回の落雷があるとのこと。つまり、山火事は避けようのない「自然現象」の一部と言えます。ちなみに日本国内では、ワイルド・ファイヤーは失火も含めると毎年1000件程度発生しているそうです。

会場では、人工衛星で地表上の火事を捉えたタイムラプスデータなどを、動画やパネルで説明。これを見ると、ワイルド・ファイヤーの発生には、人間活動よりも地球の気候条件が大きく関係していることが直感的にわかります。

アメリカの地球観測衛星に搭載された可視・赤外域の放射計「MODIS」の観測データ

「火」を巧みに利用する生き物も

とくに乾燥しやすい地域など、自然現象として頻繁に起こるワイルド・ファイヤーは、そこに住む動物や植物にとっては“天災”以外の何者でもないように思えます。しかし、実は、火から身を守ってやりすごしたり、火を活用したりする動植物もいるのです。本展ではこうした“火と生きる動植物”も紹介しています。

左:オオバユーカリ幹円盤 右:センペルセコイア幹円盤 いずれの幹も、分厚い表皮に守られていることがわかる。

たとえば、世界でもっとも背が高いセンペルセコイアや、コアラが好きなユーカリの木などは、非常に厚い樹皮をもっていることで知られ、野火や山火事に対して高い防御力を誇っています。

種を放出したバンクシアの果実

また、北米大陸に自生するジャックパインや、オーストラリアのバンクシアやブラシノキといったマツの仲間は、火にあぶられることではじめて実が開き、種子が放出されます。子孫を増やすために、火の力を借りているわけですね。

さらに、ナガヒラタタマムシという昆虫は、火事が起きた時に煙を感知できるセンサーを体内に備え、ワイルド・ファイヤーで焼けた木にいち早く近づいて、そこで繁殖を行うのです。たくましく生き抜く、生命の多様性が感じられました。

山火事の副産物「チャコール」が明らかにする地球の歴史

手前:カナダの州立恐竜公園の白亜紀層から見つかったチャコール 奥:アルバートサウルス(下顎骨)

ところで、ひとたびワイルド・ファイヤーが起きると、植物は灰になるまで焼き尽くされるわけではありません。数百度の高温で蒸し焼きにされた植物は、「チャコール」(=木炭)として残ります。このチャコールは、地層のなかで何億年にもわたって保存され、いわば地球の進化史の“生き証人”みたいな存在となるのです。

展示では、なぜ何億年も前のチャコールが残っているのかも明らかにされます。その仕組はこうです。まず、山火事が起きて植物がチャコールへと変化すると、元のかたちを残しながら、内部の組織が均一化します。焼け跡には大地を保護するものがないため、雨風の作用が働きやすくなり、土石流などで、海や湖など窪んだ場所へとチャコールが流され、そこに堆積することで「化石」として何億年もかたちが残る、というわけです。

本展後半では、チャコールを手がかりとして判明した地球の発展について、時系列に沿って地質年代順に解説。土石流でチャコールとともに流されて地層に閉じ込められた恐竜の化石や、各時代にチャコール化した被子植物(花を咲かせる植物)の化石など、バラエティに富んだ展示でした。

また、各地質時代で残されたチャコールの量から、時代ごとの酸素濃度が推定されます。展示パネルでは、過去4.5億年の間に、地球上の酸素濃度が約15%~約30%へと大きく変動してきたことが示されています。チャコールひとつで、これほど幅広い研究成果が残っていることに驚かされました。

阿蘇山の火砕流のなかで炭化した「埋木」

ちなみに、日本列島でもワイルド・ファイヤーは頻繁に起きていました。火山大国でもある日本では、火山爆発によるワイルド・ファイヤーも多いようです。約9万年前、阿蘇山の噴火で大規模な火砕流が発生したとき、そこに取り込まれてチャコール化した植物が紹介されていたのは印象的でした。

人類の活動と深く関わるワイルド・ファイヤー

一方、地球上で人類が活発に活動し始めた数万年前以降は、自然現象に加え、人為的に起こされたワイルド・ファイヤーも増えていきました。

クロボクを含む土壌モノリス 個人蔵

たとえば、関東平野の土地を縦に掘ったサンプルをそのままの姿で固定した「土壌モノリス」という標本を見ると、地表から1メートルくらいの地層は「クロボク」と呼ばれ、その下層に比べると明らかに色が濃いことがわかります。これらはかつて野焼きが人為的に行われた証拠でもあるのです。

また、草原に適応した希少種の植物を守る活動として、今でも全国各地で森林化を防ぐための野焼きが定期的に実施されていることを示す写真やマップも展示されていました。「えっ、火を入れると植物が死んでしまうのでは……」と思いましたが、落ち葉などの燃料がない状態で焼くので、地下に埋まっているタネは維持され、春になると再び発芽することができるのだそうです。

野焼きにより保護されている絶滅危惧植物

一方、人為的に起こされたワイルド・ファイヤーの中には、人間にとって害となる事例も散見されます。たとえば、泥炭地での水抜きが原因で起こる大規模火災は、大量の煤煙を空に巻き上げ、周辺地域では呼吸器系疾患で多数の死者が発生。また、本来自然には燃えないはずのアマゾンの熱帯雨林が農地開拓のために焼かれ、生物の多様性が失われつつあります。

また、21世紀に入る頃から、ワイルド・ファイヤーが巨大化していることも懸念点のひとつ。原因は、地球規模での気温の上昇や、季節的な降水量の増加です。燃える燃料が増え、乾季の気温が上昇したことで、山火事での焼失面積が増加してしまうのです。地球温暖化が、人間の生命や暮らしを脅かすワイルド・ファイヤーを増やしてしまっている現状も、最後に示されていました。

火の歴史・役割を学べる貴重な機会

本展に協力したスコット教授は、「(前略)火ほど不可欠で、独特で、長い歴史を持つものはありません。(中略)4億年を超える地球上での火の歴史から学べることはたくさんあります。(後略)この地球上に火なしで生きられる場所はないのですから。」と本展にあたってメッセージを寄せています。

地球の生命の象徴であり、生命の歴史そのものでもある「火」についてじっくりと学べる本展。また、私たち人間の活動が、地球にどのような影響を与えるのかを考え直す機会にもなります。展示室で、「火」が地球全体の悠久の営みのなかで果たしてきた役割に思いを馳せてみてはいかがでしょう。

(ライター・齋藤久嗣)

※国立科学博物館では、来年2月19日(日)まで特別展「毒」が開催中です(オンラインでの日時指定予約が必要)。徹底ガイドはこちら