「マリー・クワント展」音声ガイドのピーター・バラカンさんに聞く 60年代ロンドンはどんな時代? 鑑賞者におすすめの映画は?

ピーター・バラカンさん 撮影:堀口宏明

Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷)で来年1月29日(日)まで「マリー・クワント展」が開催されています。ミニスカートをはじめ革新的なファッションを次々と生み出したマリー・クワント(1930年~)。本展では、長年のキャリアのうち、初期の1955年~75年に焦点を当てます。

音声ガイドには、イギリス出身のブロードキャスター(ラジオやテレビの語り手)のピーター・バラカンさん(1951年~)も登場。1960年代のロンドンで青春時代を過ごしたバラカンさんは、当時、マリー・クワントのファッションをはじめ、様々な分野で若者文化が花開くのを体感したといいます。マリー・クワントが駆け抜けた60年代のロンドンは、どんな時代だったのでしょうか。バラカンさんに話を聞きました。

(聞き手 読売新聞美術展ナビ編集班・美間実沙)

60年代ロンドンで過ごした青春 いまだ色あせず

ピーター・バラカンさん 撮影:堀口宏明

――バラカンさんは1951年生まれ。1960年代のロンドンは、まさに青春時代にあたりますね。

60年代のロンドンで、僕は人生でもっとも多感な時期を過ごし、青春を謳歌しました。多感な時期に身についた感覚って、なかなか消えないものだと思います。僕の場合、70歳を超えた今ですら、当時の感覚がとれないですね。カウンター・カルチャー(既存社会の慣習や体制などに対抗する文化)として生まれた若者文化や、ヒッピー・カルチャーにみられる理想主義的な考え方。今はもう、現実離れしていることはわかっていても、どこか捨てられない。それくらい、心の奥底に深く根付いて、色あせない魅力を放っています。

「若者が主人公に」 60年代ロンドンで起きた革命

展示パネルを見るピーター・バラカンさん 撮影:堀口宏明

――今振り返ると、60年代のロンドンはどんな時代だったと言えますか?

音楽やファッション、映画など、各分野に変化をもたらす人が次々と現れました。その流れを主導したのが若者、とくに労働者階級の若者でした。階級社会だったイギリスで、労働者階級の若者がはじめて主人公になったのです。これは革命的なことでした。

たとえば、音楽の世界で開拓者となったのがビートルズ。ソロ歌手が基本だった当時は、「グループ」という発想自体が画期的でした。ビートルズの活躍によって、「次のビートルズ」を狙うレコード会社がビート・グループを次々と売り出し、バンドブームが起こります。振り返ると、ポピュラー音楽史のなかでも、60年代から70年代前半は黄金時代だったと言えるのではないでしょうか。自分の青春時代だからひときわ輝かしく感じられるのかもしれませんが、客観的に見ても、やはり同じことが言えます。名盤中の名盤と言われるレコードの多くは、あの時代に生まれました。

ピーター・バラカンさん 撮影:堀口宏明

――マリー・クワントも、60年代のロンドンで革命を巻き起こしたデザイナーの一人ですね。

マリー・クワントは、僕が中学生の頃にはほぼすべてのメディアに出ているくらい有名なデザイナーでした。とくに、ミニスカートの影響力が強かった。彼女にならい、他のデザイナーもこぞってミニスカートを作ったのです。同級生の女の子はほぼ全員ミニスカートを履いていたと言ってもいいくらい、大流行していましたね。そして、「女性はこういう服を着るべき」という考え方が次第になくなっていきました。女性がパンツを履くようになったのもこの時代。60年代以降、女性たちが好きな服を着て、自由に行動できるようになったのは、マリー・クワントがいたから。彼女が「女性を解放した」と言っても過言ではありません。それほど、彼女がイギリス社会にもたらした影響は大きかったのです。

ピーター・バラカンさん 撮影:堀口宏明

――そもそも、60年代のロンドンで若者文化が爆発的に開花したのはなぜでしょう。

50年代までは社会全体が保守的で、その保守性に対する反発が大きく表現されたのが60年代でした。50年代、戦争で疲れ果てた大人は「とにかく平和で静かな暮らしがしたい」と願うあまり、どんどん保守的になっていきました。一方で、戦後に生まれた子どもたちは、親があまりにも保守的だったため、もっと楽しく暮らしたいと思うようになったのです。

また戦前までは、労働者階級や中産階級の若者は高校を卒業したら就職するのが当然で、青春を謳歌する余裕がなかった。50年代の半ば以降になると、経済が上向きになり、若者も自由に使えるお金を少し持てるようになりました。そのお金の使い道が娯楽。洋服を買ったり、レコードを買ったり、映画を見に行ったり、踊りに行ったりすることです。ちなみに、「ティーンエイジャー」という言葉は50年代半ばに生まれました。つまり、若者が娯楽を知り、「もっと自由になりたい」「束縛されたくない」という潜在的な欲求が50年代後半にかけて高まり、60年代になって表面化したのです。

ピーター・バラカンさん 撮影:堀口宏明

――マリー・クワントのブティック「バザー」がはじめて開店したのも1955年でした。

そうそう。ドキュメンタリー映画『マリー・クワント スウィンギングロンドンの伝説』(※)を見るとわかりますが、バザーが開店した途端に若い女性が殺到しました。「好きな服を着たい」という欲求は、当時からすでにあったのでしょうね。

※Bunkamuraル・シネマにて11月26日(土)より上映中、ほか全国順次ロードショー

「やりたいことをやる」勇気が時代を動かした

ピーター・バラカンさん 撮影:堀口宏明

――本展をみた感想は?

マリー・クワントのファッションが、時代を絶妙に先取りして、引っ張っていったことを実感しました。たとえば60年代初頭に、彼女は紳士服や軍服の生地を取り入れて、カジュアルな女性服を仕立てたんです。当時の人は驚いたはず。それでも彼女は支持された。きっと、彼女が自分自身の感覚を頼りに、やりたいことをどんどんやっていったからでしょう。「やりたいことをやる」のにも、勇気が必要。彼女の姿勢は、今の時代の人々にも刺激を与えると思います。ぜひ日本のみなさんにも見ていただきたいです。

僕は1974年に来日しましたが、そのとき、イギリスと日本の価値観のギャップに驚きました。日本の社会は変わりつつあるけれど、まだまだ若者や女性は縛られています。だからこそ、若者が主人公になる時代がまもなく日本にやってくると思います。

――音声ガイドではどんな話をしましたか。

僕自身の経験をもとに、60年代のロンドンが若者にとってどんな時代だったかを話しています。マリー・クワントのデザインが生まれた背景を知る手がかりにしていただけると嬉しいです。

本展鑑賞者におすすめの映画は?

ピーター・バラカンさん 撮影:堀口宏明

――2021年から音楽映画祭「Peter Barakan’s Music Film Festival」を開催するなど、映画が大好きなバラカンさん。本展をより楽しみたい人におすすめの映画はありますか?

最近、50年代、60年代のイギリスに関連した映画がいくつか日本で公開されています。展示作品が生まれた時代背景を体感できるので、ぜひ見ていただきたいです。

まずは、『マリー・クワント スウィンギングロンドンの伝説』。当時の映像やインタビューなどで、マリー・クワントの人生をたどるドキュメンタリーです。マリー・クワントや彼女をとりまく人々の証言を聞くと、展示作品に対する理解が深まります。

つづいて、『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』は、イギリスの名優であるマイケル・ケインが案内役となって、60年代ロンドンの若者文化を振り返るドキュメンタリーです。マリー・クワントやビートルズ、モデルのツイッギー、写真家のデイヴィッド・ベイリーなど、各分野で革命を起こした人を紹介しています。当時の若者文化がいかに花開いていったかが伝わるはず。

今、全国の映画館で上映されている『ミセス・ハリス、パリへ行く』もおすすめです。50年代後半のロンドンに暮らす労働者階級の女性が、ディオールのドレスに憧れてパリへ行く話です。当時のロンドンの雰囲気や、階級社会がどんなものだったかがわかります。

映画をみるときはぜひ、服、家電、車など、今の日常と異なる部分を探してみてください。当時の生活のにおいを感じ取ることができるでしょう。

ピーター・バラカンさん 撮影:堀口宏明

ピーター・バラカン プロフィール

1951年、ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動し、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)などのラジオ番組を担当。著書に『Taking Stock どうしても手放せない21世紀の愛聴盤』(駒草出版)など。

マリー・クワント展
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂)
会期:11月26日(土)〜2023年1月29日(日)
休館日:1月1日(日・祝)
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
※12月31日(土)は18:00まで(入館は17:30まで)
※状況により、会期・開館時間などが変更になる可能性あり
観覧料:一般 1,700円、大学・高校生 1,000円、中学・小学生 700円
※学生券をお求めの場合は、学生証提示(小学生は除く)
会期中すべての日程で【オンラインによる事前予約】が可能。予約なしでも入場できるが、混雑時には待つ場合がある。予約方法などの詳細は展覧会公式HPへ。