【レビュー】「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」上野アーティストプロジェクト2022 東京都美術館で1月6日まで 芸術家の制作意欲を刺激する『源氏物語』

渡邊裕公 《千年之恋〜源氏物語〜》 2016年 作家蔵

「上野アーティストプロジェクト」は、「公募展のふるさと」とも言われる東京都美術館で、歴史の継承と未来への発展を図るために一定のテーマを決めて、現在公募団体で活躍している現代作家を紹介するシリーズです。その第6弾となる今回は、『源氏物語』がテーマです。『源氏物語』は、紫式部が約1000年前の平安時代に書いた全54帖からなる物語。以来多くの人々に愛され、読まれてきました。そして多くの芸術家たちの創作意欲を刺激し、《源氏物語絵巻》をはじめ、数々の芸術作品を生み出してきました。

本展では、絵画、書、染色、ガラス工芸の作家を紹介します。

タイトルの「めぐり逢ひける えには深しな」は、『源氏物語』第14帖「澪標」で光源氏が明石の君に贈った和歌「みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐり逢ひけるえには深しな」に由来します。

会場風景

出品作家

青木寿恵、石踊達哉、高木厚人(臨池会)、鷹野理芳(日本書道美術院)、玉田恭子(日本ガラス工芸協会)、守屋多々志(日本美術院)、渡邊裕公(光風会)

「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」
会場:東京都美術館(上野公園)ギャラリーA・C
会期:11月19日(土)~2023年1月6日(金)
開館時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)夜間開室11月25日(金)、12月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休室日:11月21日(月)、12月5日(月)、19日(月)、29日(木)~2023年1月3日(火)
観覧料金:一般 500円 / 65歳以上 300円 ※学生以下無料
※特別展「展覧会 岡本太郎」(会期:2022年10月18日(火)~12月28日(水))のチケット提示にて、入場無料
※詳細は同美術館の展覧会サイト

カラーボールペンが描き出す細密な世界

渡邊裕公 《千年之恋〜源氏物語〜》(部分)

《千年之恋〜源氏物語〜》をはじめて公式サイトで観たとき、あっさりした印象を受けたのですが、実物を至近距離で観るととんでもなく細密で複雑で濃厚な作品です。太さの違うカラーボールペンを使い分け描いているのだそうです。絵具と違いカラーボールペンは色が混じり合わないため、細い線を幾重にも重ねさらにドットを重ねることによって深い色合いと奥行を出し、独自の世界を醸し出しています。

背景に《源氏物語絵巻》が何枚も重なり合うように描かれています。これだけの枚数を描くのはどれほどの時間が必要だったのだろうと驚きます。そして、それぞれの絵が置かれた位置は何か意味があるのだろうかなどと考え出すと、長い時間見入ってしまいます。横たわる女性のまなざしはとても意志が強そうで印象に残ります。

渡邊裕公作品の展示風景

今回、渡邊裕公氏の作品は7点出展されていますが、《豊国祭礼図屏風》、《風神雷神図屏風》など歴史的絵画を背景として前景に描かれる女性のまなざしがみなとてもいいです。凛として、潔くて、美しい。こんな風に見つめられたら恋に落ちてしまいそうです。

7作品ともサイズがかなり大きいので、これをすべてボールペンで描くと考えると気が遠くなりました。渡邊氏は、1枚の絵が完成する制作過程を「原画の世界への時間旅行(タイムトラベル)」と表現しています。制作風景を拝見してみたいものです。

渡邊裕公氏作品の展示風景

ガラスに歌と雅を封じ込めて

玉田恭子氏の作品は、「かさね硝本」、「源氏封本抄」、「湧紫泉とうしせん」の3種のシリーズに分けることができます。ガラスの中に展開される色の重なり合いが美しく、『源氏物語』の和歌や『紫式部日記』の一節が封じ込められています。十二単衣など装束の重ね着の色彩は、「襲色目かさねのいろめ」と呼ばれ、季節ごとに「紅梅匂」や「雪の下」など趣のある名前がついていますが、玉田氏の作品は色ガラスを何層にも重ねることによってそれを表現しています。

「源氏封本抄」シリーズの展示風景

《紫之にき》は、絵巻の形がモチーフで、墨流しのゆったりとした動きのある色彩に浮かぶように『紫式部日記』の一節が記されています。色の重なり合いの美しさと、文字の浮遊感が味わい深いです。

玉田恭子 《紫之にき》 2019年 作家蔵

《具合わせ「源氏香歌」》と《硝琵琶「降臨」》は、一つのケースに展示されていますが、貝合わせの愛らしい色遣いと硝琵琶の優美さが調和し、玉田版ガラスによる『源氏物語』の世界が表現されています。会場内でひときわ目を引く展示でした。

手前:玉田恭子 《具合わせ「源氏香歌」》 2012年 作家蔵、中央奥:玉田恭子 《硝琵琶「降臨」》 2013年 作家蔵

現代の作家たちの創作意欲を刺激し続ける『源氏物語』

その他にも鷹野理芳氏の絵画的な書の世界、石踊達哉氏の繊細な絵画の数々など、『源氏物語』からインスパイアされた世界が繰り広げられます。『源氏物語』は登場人物も多く様々な情景を描く長い物語ですので、創作意欲を刺激するのかもしれません。それぞれの解釈で制作された作品の数々が展示されています。

鷹野理芳 《生々流転Ⅱ~響~54帖・贈答歌「桐壺の巻から夢深橋の巻」まで》 2022年 作家蔵
左:石踊達哉 《「宿木」の帖より 秋の響》 1997年 講談社蔵、右:石踊達哉 《手習》 1997年 講談社蔵
石踊達哉作品の展示風景

同時開催の「源氏物語と江戸文化」も見どころ満載

現代作家たちの作品を堪能した後は、同時開催の「源氏物語と江戸文化」もぜひご覧ください。江戸時代になると印刷技術の普及により、大衆にも『源氏物語』が普及します。江戸東京博物館のコレクションから、源氏物語にかかわる絵画資料や着物の文様を染めるための型紙や源氏物語を翻案した柳亭種彦著・歌川国貞(初代)画の『偐紫田舎源氏にせむらさきいなかげんじ』などが展示されています。

狩野惟信・栄信画《十二ヶ月月次風俗図》江戸時代 19世紀 東京都江戸東京博物館蔵の展示風景
柳亭種彦著・歌川国貞(初代)画 『偐紫田舎源氏』 文政12年~天保13年 東京都江戸東京博物館蔵

《長板中形型紙 源氏香に菊》は大変細かい彫りが素晴らしく、この型紙を使い本藍で染めた反物はさぞ美しいだろうと想像してうっとりするのでした。また、重要無形文化財保持者・清水幸太郎氏が型付した浴衣も展示されており、じっくり至近距離で細かい型染めを拝見しました。

《長板中形型紙 源氏香に菊》明治~大正時代 20世紀  東京都江戸東京博物館蔵
清水幸太郎/型付 《長板中形浴衣 花丸文に小桜》 昭和32年(1957)頃 東京都江戸東京博物館蔵

千年以上に渡り人々を引き付ける『源氏物語』の魅力

こうして観てくると『源氏物語』がいかにたくさんの人々に愛され、作家たちの作品作りに影響を及ぼし、素晴らしい作品を生み出しているかがわかります。

このほかにも、『源氏物語』に取材した芸術作品はたくさんあります。今年後半、都内で観ることができた作品だけでも、以下の通り。展覧会の中心的展示となっています。

・特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」東京藝術大学大学美術館

《源氏物語図屏風》 伝 狩野永徳 桃山時代 (1617世紀)
《源氏物語画帖》 伝 土佐光則 江戸時代 (17世紀)

・静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展「響きあう名宝 ―曜変・琳派のかがやき―」 静嘉堂美術館

国宝《源氏物語関屋澪標図屏風》 俵屋宗達筆 江戸時代(17世紀)

・「大蒔絵展  漆と金の千年物語」三井記念美術館

国宝《源氏物語絵巻 宿木一、柏木一》平安時代(12世紀)

『源氏物語』は千年もの間、人々に読まれ愛され、様々な芸術作品を生み出してきました。これからもその輝きが失せることはないでしょう。現代の『源氏物語』を観にぜひお出かけください。

(ライター・akemi)

【ライター・akemi】 きものでミュージアムめぐりがライフワークのきもの好きライター。きもの文化検定1級。Instagramできものコーディネートや展覧会情報を発信中。コラム『きものでミュージアム』連載中(Webマガジン「きものと」)

展覧会に合わせたコーディネート。今回は紫式部にちなみ紫色のコーディネートで。帯は蔦柄、「宿木」に登場します。見えませんが、源氏香文様の長襦袢で。