【プレビュー】豪傑、仙人、美女、そして伝説や説話……浮世絵の中の中国文化を探る――太田記念美術館で「浮世絵と中国」 1月5日開幕

葛飾北斎「唐土名所之絵」

浮世絵と中国
会場:太田記念美術館(東京都渋谷区神宮前1-10-10)
会期:2023年1月5日(木)~1月29日(日)
休館日:月曜休館。ただし1月9日は開館し、翌日の10日が休館
アクセス:JR山手線原宿駅から徒歩5分、東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅から徒歩3分
観覧料:一般800円、高校生・大学生600円、中学生以下無料
※最新情報は、公式HP(http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/)で確認を。問い合わせはハローダイヤル(050-5541-8600)へ。

江戸時代、中国の文化は武家社会のみならず、庶民の「教養」でもあった。だからこそ、浮世絵には中国の人々が数多く描かれているのである。「三国志」や「水滸伝」の豪傑たち、仙人や古代中国の衣装をまとう女性……、花鳥画には時によって漢詩が添えられ、仙人や豪傑の所業は江戸っ子ならではの諧謔精神でパロディー化される。今回の太田記念美術館の企画展は、そんな「浮世絵」と「中国」の特集だ。

歌川国芳「通俗水滸伝豪傑百八人之一人 浪裡白跳張順」
歌川国芳「通俗三国志 関羽五関破図」

鎖国下にあったと江戸時代とはいえ、日本と中国の関係は深かった。中国の古典文学や故事は教養として定着しており、最新の中国文化も注目の的だった。そんな時代のもと、浮世絵師たちもまた、中国由来のあらゆる画題を手掛け、派生作品を次々と生み出していった。その代表が、武者絵で描かれる「三国志」や「水滸伝」。現代でもゲームや漫画で人気の「三国志」や「水滸伝」だが、実はこれらの物語が初めて翻訳、翻案されたのが江戸時代だった。人気を呼んだのが、歌川国芳の全74 図に及ぶ《通俗水滸伝豪傑百八人之一個(一人)》や《通俗三国志之内》のシリーズ。ここに登場する豪傑や英雄たちは、庶民にも身近な存在になっていったのである。

鈴木春信「林間煖酒焼紅葉」
歌川国貞「玄徳風雪訪孔明 見立」

「黄表紙」や「洒落本」が人気を集めた江戸時代。「やつし」や「見立て」、「うがち」などの技を使って、古典作品や故事、伝説をパロディー化、様々な作品を生み出した。豪傑たちの姿をギャグタッチで描いたり、その姿を町人女性に置き換えたり。キリストや仏陀を現代の若者に置き換えた『聖☆おにいさん』やサラブレッドを女性化した『ウマ娘 プリティーダービー』のような、現代のマンガやゲームにつながる感覚が、江戸時代の浮世絵にもあるのだ。こうした作品が生まれたのも、中国文化が庶民に浸透していたからだといえるだろう。

歌川広重「枇杷に小禽」

有名絵師たちも、中国画題を多数取りあげている。中国古典の世界を日本の情景に置き換えた鈴木春信、葛飾北斎、歌川国芳――、歌川広重は漢詩を添えた花鳥画を手掛け、明治に入って月岡芳年は古典的な中国画題を総括的に描いていった。それぞれの作品から中国文化摂取の変遷にも触れる。

月岡芳年「月百姿 月明林下美人来」
月岡芳年「月百姿 玉兎 孫悟空」

中国からの刺激は技術面にも及ぶ。フルカラー印刷である「多色摺」は中国版画の影響を受けて成立したもの。また西洋の透視図法が中国版画を経由してもたらされると、「浮絵」と称される景観描写が展開する。さらにドイツで誕生した合成染料、プルシアンブルー(ベロ藍)が幕末に多用された背景には、中国から安価に輸入できるようになった状況もあった。北斎や広重の青い空や海は交易がもたらした結果の一端ともいえるのだ。

田村貞信「浮絵中国室内図」