【開幕レビュー】<生>への畏敬が満ちた「祈り・藤原新也」 世田谷美術館で1月29日まで 

©Shinya Fujiwara

「祈り・藤原新也」
会場:世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園1-2)
会期:2022年11月26日(土)〜2023年1月29日(日)
休館日:毎週月曜日。年末年始(12月29日~1月3日)
※ただし2023年1月9日(月・祝)は開館、1月10日(火)は休館
開館時間:10:00〜18:00(最終入場時間 17:30)
観覧料:一般:1,200円、65歳以上:1,000円、大高生:800円、中小生:500円
詳しくは同展サイト ※一部の作品を除いて、撮影は可能になっています
藤原新也さん

東京藝術大学在学中に旅したインドを、写真とエッセイを組み合わせて紹介した1972年のデビュー作『インド放浪』以来、当時の若者たちを中心に圧倒的な支持を集めてきた藤原新也さん(1944年~)。その後も、アジアやアメリカなど世界各地のほか、国内にも題材を求め、インパクトのある写真と、鋭い視点から綴る文章で社会をえぐってきました。

今回は、50年以上に及ぶ、これまでの創作活動を、単なる回顧展ではなく、「祈り」というキーワードから、新たに再構成した展覧会となりました。

写真家は撮影という行為を通じて、世界に触れます。そのなかで「こんなに美しいものが世の中にあるのか。こういうものが存在しているは奇跡だ」との想いが藤原さんの中で募り、「それに対しては祈らざるをえない。手を合わせて撮っていることの連続だ」と強く感じるようになり、「祈り」という言葉が紡ぎだされたと言います。

©Shinya Fujiwara

藤原さんは「生命のざわめき、命の発露を撮っているが、今は加速度的に撮りたいものがなくなっている」と危機感を表します。コロナ禍で閑散とした街の写真を見ていると、相次ぐ大地震や気候変動による自然災害なども含め、予想を超えたスピードで失われていく<生>が、これ以上損なわれないようにと祈らずにはいられない気持ちになりました。

©Shinya Fujiwara

こちらは藤原さんの代表作のひとつ。水葬された死者が、ガンジス川の中州に打ち上げられ、それを食べる野犬の群れ。写真の横には、「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ。」という有名な一文が添えられています。藤原さんは「死んでいる人間も生命を発している。怖い、気持ち悪いと感じる人もいるが、この写真は、自分には、ものすごくきれいに感じた。死体を撮るべきかという議論はあるが、自分は事故死は撮りたくない。生命のざわめきを感じられるかという自分の生理的なものを大事にしている」と話します。

©Shinya Fujiwara

藤原さんの父が99歳で大往生する直前、一瞬の笑顔を撮影した作品からは、最も身近な人の「死」を通じて、「生」の尊さや、その人の一生の重さがひしひしと伝わってきます。

©Shinya Fujiwara

こちらはバリ島の奥深い山中で撮影したハスの花です。3㍍四方というかなりの大きさ。藤原さんは「重要な絵を大きくした訳ではない。現場で見たサイズ感を再現した」と話します。暗いうちから待って、早朝の朝露をまとって美しく開花する様子は、藤原さんの目には、このぐらいの迫力で迫っていたのです。小さいサイズのパネルは、藤原さんの目には小さく見えていた対象です。写真のサイズを心に留めて鑑賞すると、藤原さんの撮影時が追体験できるのではないでしょうか。

©Shinya Fujiwara

現在、78歳ですが、今も現場を大事にしています。ここ数年、渋谷のハロウィンにはほぼ毎年、コスプレ姿で参加。若者たちの空間に自ら入ることで、若い人たちが置かれた現状の過酷さなども肌感覚で理解しています。それが、文筆分野での鋭い描写につながっているのでしょう。

藤原さんの絵画作品

写真や文章のほか、絵画や書も展示されています。藤原さんは写真がメインですが、「写真家など、何々家とすれば便利だが、自分を狭めてしまう。いまだに何者か分からない」と、五感を解放する手段として、様々な表現法を使っています。

東京藝術大学時代は油画科で、写真を中心とした生活に入った後は、絵は自由な遊びとして楽しんでいたそうです。

「大地」と書かれた書と、インドで揮毫した時の写真
瀬戸内寂聴さんの写真と、その目の前で「死ぬな生きろ」と書いた書

書はインドの路上で書いたり、30年以上の交流があった瀬戸内寂聴さんに贈った「死ぬな生きろ」が展示されています。「人の人生は一回こっきり。死んだがごとく生きるな」という強いメッセージを込められています。

この展覧会を藤原さんは「祭り」と表現します。写真は規格外に大きく、ライティングも凝っているため、開催できる美術館も限られ、「経済効率がむちゃくちゃ悪く、予算はオーバー」と苦笑いしますが、「ワッと見せていこうという想いは伝わっている気持ちのいい展覧会だと思う」と自信をもって勧めています。『インド放浪』、『東京漂流』、『メメント・モリ』などに触発された世代はもちろん、若い世代にも<藤原新也>を知ってもらう貴重な機会になるはずです。(読売新聞美術展ナビ編集班・若水浩)