【開幕】「Let’s Travel!絵の中を旅しよう!」展 千葉・ホキ美術館で、5月21日まで

「Let’s Travel!絵の中を旅しよう!」展
会場:ホキ美術館(千葉市緑区あすみが丘東3-15)ギャラリー1
会期:2022年11月18日(金)~2023年5月21日(日)
休館日:火曜日、12月30日(金)~1月2日(月)、1月18日(水)
※火曜日が祝日の場合は翌日
開館時間:10時~17時30分(入館は17時まで)。12月29日(木)は16時30分閉館
入館料:一般 1,830円、高校生・大学生・65歳以上1,320円、中学生910円、小学生760円(大人1人につき小学生2人まで無料)
詳しくは同館HP

10月から観光促進策「全国旅行支援」も始まり、全国各地で旅行客のにぎわいが戻っています。しかし、仕事など様々な理由で、まだまだ旅に出られない人も少なくないでしょう。

そんな人は、千葉市のホキ美術館で行われている「Let’s Travel!絵の中を旅しよう!」展を訪れてみてはいかがでしょうか。同館は世界的にも珍しい、写実絵画専門の美術館です。

ご案内いただいた保木博子館長によると「写実絵画は写真に似ていますが、写真だと入ってしまう邪魔なものは省いて、作家の理想の風景、純粋に見たいものを描いています」と、説明してくれました。また、写真だと逆光や陰で暗くなってしまうところもくっきりと描けますし、写真だと焦点を外れたところはボケてしまいますが、絵画だとはっきりと見られます。写真が発明されて200年近くが経ちましたが、写実絵画ならでは魅力は失われていないのです。

大畑稔浩《陸に上がった舟》2010年

展示は水辺の風景から始まります。まずは大畑稔浩としひろさんの作品に心を惹かれました。大畑さんは島根県の出身。保木館長によると、大畑さんは「空は大きくて、広くて、青くないといけないという考えの持ち主」だそうです。《陸に上がった舟》は、役目を終えた古い舟を描いていますが、きれいな空と力強い日差しのためか、寂しさを感じさせません。むしろアーネスト・ヘミングウェイの小説『老人と海』の主人公サンチャゴのように、打たれても立ち上がる老いの中に宿る強い生命力を感じました。

絵の砂浜にはスケッチした場所の砂を、船体には木くずが絵の具を混ぜて使ってあるといいます。それらの<物>によって、現地の空気感などがより強く伝わってきます。

大畑稔浩《仰光ー霞ヶ浦》2008年

こちらの《仰光-霞ヶ浦》も、美しい空の大きさに心が洗われます。

原雅幸《光る海》2010年

《光る海》で描かれた場所は、今では絵の奥の部分に関西国際空港が見えるそうです。しかし、そこを省いて、作家の子どもの頃の記憶と、現在の風景とをミックスして作品にまとめています。写実絵画と言っても、対象をそのまま描くだけではありません。

原雅幸《薄氷の日》2017年

《薄氷の日》は英・エジンバラに在住していた時、子供を送り迎えしていた通学路の風景を描いた作品です。絵の右下のまだ凍っている水面の描写からは、英国の冬の寒さまで伝わります。

中西優多朗《夜の鴨川》2020年

中西優多朗さんは、写実絵画界の若手の新鋭です。16歳のときに応募した第二回ホキ美術館大賞に最年少で入選、その後美大へ進み、三年後の第三回ホキ美術館大賞を受賞しています。モノクロながら、繊細な波間の表現が見事です。

五味文彦《木霊の囁き》2010年

続いて山の中に分け入っていきます。《木霊の囁き》からは、深い山中の草や土の匂いが漂うようです。画面に中央に強い光を当てることで、手前の葉っぱなどが浮き上がり、より立体的に見えます。

羽田裕《夕映 サンタ・キアラ教会》2020年

最後は外国です。羽田裕さんの作品は、レンガなど以外はマスキングしたうえで、仕上げにローラーで白点を描いて、光を表現します。手前は多めに、奥へ進むにしたがって点は少なくなり、最後はなくなります。保木館長は「凹凸のあるレンガだと点とマッチして光がうまく表現できています。この技法は写真だと分からないので、ぜひ現物をみて欲しいです」と話します。

森本草介《初秋の川辺》2006年

森本草介さんは、セピア色に拘る作家です。日本にはセピア色の風景がないと言い、フランスに題材を求めています。現地の食事や気候が合わず、日本食を持参しても、寝込んでしまうことも少なくないそうです。そんな思いまでして探しあてた風景は、黄色から深緑のまでのグラデーションが美しく、トーンも安定しています。

ホキ美術館外観

ホキ美術館は、東京駅から約1時間のJR外房線土気とけ駅からバスで約5分の場所にあります。この企画展が行われているギャラリー1は、先端が30m宙に浮いている特徴的な建物です。歩いても揺れが気にならないよう、制震構造になっています。すぐ近くには、緑豊かな総合公園「千葉市昭和の森」もあります。保木館長は「プチ旅行にぜひおいでください」と呼びかけます。

写実絵画をじっくりと見た後では、空や木々の風景が、いつもよりも鮮明に見える気がしました。(読売新聞美術展ナビ編集班・若水浩)