【京のミュージアム#12】美術館「えき」KYOTO ワクワクをゆったりと「柚木沙弥郎 life・LIFE展」 12月25日まで

色鮮やかで愉快になる絵本の原画が並んだ会場

染色家でアーチストの柚木沙弥郎ゆのきさみろう1922-)の絵本原画や人形、染色などが並んだ「柚木沙弥郎 lifeLIFE展」が、美術館「えき」KYOTOで開かれています。今年100歳を迎えた柚木は現役の染色家・アーチストです。制作の範囲は多岐にわたりますが、モットーはいかに日々の暮らしの中から新しいものを見出し、楽しむことができるか展覧会のテーマもlifeLIFE」、「くらし」と「人生」です。約80点の絵本原画が並ぶ「絵のみち」、約30点の色とりどりでダイナミックな布が織りなす「布の森」からなる会場は、文字通りワクワク感に満ちています。

柚木沙弥郎 life・LIFE展
会場:美術館「えき」KYOTO
会期:11月11日(金)~12月25日(日)
休館日:会期中無休
アクセス:京都駅ビル内・ジェイアール京都伊勢丹7階隣接
入館料:一般900円 高・大生700円 小・中学生500円
障がい者手帳をお持ちの方と同伴者1人は200円引き
詳しくは美術館「えき」KYOTO

「絵のみち」

東京に生まれ、洋画家の父のもとで育った柚木は戦後、大原美術館に就職します。そこで「民藝」と出会い、染色家の芹沢銈介に師事することで活動を始めます。絵本を出したのは72歳の時。話が来たときは「ついにきた!」と思ったそうです。最初の絵本『魔法のことば』は「〈子どもの宇宙〉国際図書賞」を受賞しています(『魔法のことば』の展示はありません)。原画はどれも色鮮やかでユーモラスです。

柚木沙弥郎・作『ぎったんこ ばったんこ』より 本城えほんの郷蔵
柚木沙弥郎・作『たかい たかい』より 作者蔵
柚木沙弥郎・作『おふねが ぎっちらこ』より 作者蔵

柚木の表現の特徴は、暮らしの中で必要なものを使いやすく美しく作ることです。絵本も親などが手に取って、繰り返し子どもたちに読み聞かせて欲しいという願いが込められているそうです。実際に会場では子どもを連れたお母さんが、絵を指さしながら乳母車の子に話しかけていました。

山下洋輔・文 柚木沙弥郎・絵 『つきよのおんがくかい』より 本城えほんの郷蔵
まど・みちお・詩 柚木沙弥郎・絵 『せんねん まんねん』より  作者蔵
谷川俊太郎・文  柚木沙弥郎・絵  『そしたら そしたら』より  本城えほんの郷蔵

作家や詩人、音楽家と一緒に作った絵本の原画もあります。ジャズピアニストの山下洋輔の文による『つきよのおんがくかい』は、宮崎県の山の中で「野ウサギ」に聴かせるために開かれた山下洋輔のコンサートを絵本にしたものです。ピアニストのクマは山下がモデルだそうです。まど・みちおの詩集『せんねん まんねん』の原画も柚木の作品です。谷川俊太郎の文による『そしたら そしたら』は、弾むような言葉に合わせた鮮やかな色彩で、躍動感にあふれています。「理解しようと思ったりせず、感じて欲しい」という柚木の言葉が、見ているうちに自然に体に染みてきます。

宮沢賢治・作  柚木沙弥郎・絵  『雨ニモマケズ』より  ミキハウス蔵

宮沢賢治の「雨ニモマケズ」も描いています。賢治の心を伝えるために「4次元的」に描こうと思い立ったそうです。明るい色彩と丸や三角なのどの幾何学的な形が、賢治の真っ直ぐな気持ちを届けてくれるようです。

絵葉書『注文の多い料理店』原画 光原社蔵

賢治の童話集『注文の多い料理店』を出版した光原社や、日本民藝館の展覧会や催しのポスターも制作しました。和紙に型染めで刷ったというポスターは一般の印刷物とは違った風合いがあります。どこかで見たことがあるような、懐かしい思いが湧いて来ました。

好きなもの 元気づけてくれるもの

柚木の膨大な蒐集品を納めたキャビネットの再現

柚木家に入ると、メキシコの人形やエチオピアの動物像、インドの木彫りなど世界各地の民芸品や玩具が目に飛び込んで来るのだそうです。「人間はいつもワクワクしていないとね。好きなもの、自分を元気づけてくれるものは、いつも身の周りに置いておきたい」とは柚木の言葉です。

「布の森」

色彩鮮やかで大胆な模様の染色作品が続く「布の森」

柚木が染色の世界に入ったのは25歳の時です。以来ずっと主に「型染」という技法で着物や帯、暖簾、洋服やカーテンに使われる布地など、様々な布を染めて来ました。この展覧会では1950~1970年ころに多く用いた「注染」という技法による作品から、抽象画のような大胆なデザインの近年の作品まで、約30点の作品を展示しています。

壁を背にするのではなく吊された布は光りが透けて、見る方向によって異なる印象を受けます。また、人が通ることで微かにあるいは軽やかに揺れます。担当学芸員の天木惠子さんは「森の中を探検するイメージで、ゆっくり見てほしい」と話します。

「人が自然やものの本質、そのいきいきとした部分を掴んで表わすのが模様であり、それが美だと思う」(柚木沙弥郎)。「これきれい」母親と一緒に会場に来ていた3歳の男の子の声です。作品からは大地や水、風、暮らしや命など、作者が見つめたものから抽出された息吹が漂っています。

「理解しようとせずに」「ワクワクしていないとね」。その言葉の通り。ゆったりとしながら、ワクワク。大人も子どもも同じ気持ちで見られる展覧会でした。

◆次回展覧会

「溝縁ひろし写真展 昭和の衹園~花街とともに~」
2023年1月2日(月・振替休日-1月29日(日)

京都在住の写真家・溝縁ひろしが昭和48年から撮り始めた「昭和の祇園」(祇園甲部)の作品を中心に、町の風景や芸舞妓の姿など約150点を展示。

美術館「えき」KYOTO

国際化する都市、京都の文化・情報の発信基地となり、文化の創造・交流の一端を担うことを目指して1997年に開館。企画展専門の美術館で、絵画や絵本、写真、工芸、アニメ、ファッション、手芸など古典から現代アートまで、国内外を問わず幅広いジャンルの展覧会を展開している。その回数は年に8回に及ぶ。京都駅の空に向けて広がる大階段からも入場できる。

★ ちょっと一休み ★

京都駅に直結する百貨店ジェイアール京都伊勢丹の3階にある「マールブランシュ ロマンの森カフェ」。この店の一番人気は「はんなり京都 エンガディナー」(480)です。ローストしたたっぷりのクルミとキャラメルを、北海道産発酵バターを使ったクッキーで挟んだお菓子。しっとりとした甘さで、ほのかな塩味がアクセントになっています。お好みに合わせて生クリームを付けてもOK。他にもカヌレやパウンドケーキなど、10種類以上の焼き菓子が楽しめます。筆者はコーヒー(L530円)を頼みましたが、地元京都府和束町のオリジナル「京都紅茶」もあります。緑豊かな店内で、広々とした窓からは駅正面の景色が一望できます。営業時間午前10時~午後8(ラストオーダー午後730)。不定休。

(ライター・秋山公哉)