【レビュー】光と建築に呼応、表情を変える作品の魅力 流麻二果と野田正明の個展 岡山・高梁市成羽美術館

「流麻二果 その光に色を見る」「野田正明 50年の軌跡 ーニューヨークから世界へー」
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会期
2022年9月17日(土)〜12月18日(日) -
会場
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観覧料金
一般・シニア1,000円 学生(小・中・高・大学生)500円(団体20名以上は2割引)
※高梁市内在住の小・中学生入館無料(学校休業日のみ)
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休館日
毎週月曜日
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開館時間
09:30〜17:00 (入館は16時30分まで) - カレンダーへ登録
岡山県中西部に位置し、中国山地に囲まれた静かな山あいの街、高梁市。安藤忠雄氏の設計で知られる高梁市成羽美術館で、流麻二果さん、野田正明さんという注目の現代アーティスト2氏の個展が同時開催されています。

自然の光が生み出す様々な作品の表情
「色彩の画家」として知られる流麻二果さんは1975年生まれ。美術館やギャラリーでの作品発表にとどまらず、建築空間での色彩設計やインスタレーションなど、多彩な仕事で国際的に活躍しています。今展では2021年から22年にかけて制作した最新作がずらりと並び、無数の色が織りなす流さんならではの作品世界をたっぷりと味わえます。ファンには堪えられないでしょう。

同館の展示室は外光を取り入れることができる開口部があります。普段は作品を保護するため開けることは滅多にないのですが、今回は流さんの強い希望で、外の光を入れて展示しています。
取材に伺ったのは雨の日で、しっとりと柔らかい外の光が流さんの作品を優しく包むようでした。担当学芸員の吉尾梨加さんは「天気によって作品の印象がおおきく変わります。高梁は山あいの土地なので雪が降ることも珍しくありません。そうした時はどういう表情を見せてくれるのでしょうね」と話していました。
流さんはこの展覧会に寄せたコメントで「私は自然光のもとで絵を描く。色を見つけるには、人工の強い光ではなく、柔らかく隅々まで照らしてくれる太陽の光が必要だからだ」と述べています。まさに流さんの色彩あふれる作品を鑑賞するのに適した美術館と言えると思います。
先人の女性作家に思いをはせる
流さんの展示では『女性作家の色の跡』というコーナーも必見です。

ここ数年、流さんが熱意を持って取り組んでいるシリーズです。男性優位の日本の美術史の中で、取り上げられる機会の少なかった近現代の女性作家の作品にスポット。当該作の色彩を追体験するように、その絵で使われた色を薄く塗り重ねていく新作を並べて展示し、過去の女性作家たちの歩みに関心を持ってもらおうという試みです。
上記の佐々木香巌(1870頃‐1934)は日本画家。京都府画学校(後に京都市画学校)に入学し、京都洋画壇の先駆けである田村宗立の媒酌で洋画家の吉富朝次郎と結婚したことが分かっていますが、作家としての経歴は不明。他にも藤川栄子『黄色い裸婦』、海見久子『変身』、山下紅畝『けし』など興味深い作品が並びます。流さんの作品とあわせて見ることで、現代に繋がる問題提起を感じ取ることができます。

これほどの作家が「女性」という理由で日の目を見なかったのか、という残念過ぎる思いもついて回ります。流さんは「制作や発表の機会を削がれてきた過去の女性作家の作品を、現代に生きる私が追体験した作品を通して、鑑賞者の想像を過去の問いへの繋げ、誰にとっても選択肢の多い生き方ができる未来に繋げていきたい」とこのシリーズの狙いについて述べています。
迫力の造形、野田正明展
現代美術家、野田正明さんの個展も美術館の環境と相まって迫力たっぷりです。野田さんは1949年、広島県生まれ。1977年にニューヨークに単身渡米し、ジェフ・クーンズとの出会い、ナム・ジュン・パイクとのコラボレーションなど、現代アートの巨匠たちと深く交流しました。絵画や版画でアメリカやフランス、ギリシャ、中国などで個展を開催。30代からは彫刻を手掛け、ニューヨーク、中国、モンゴル、日本など各地に彫刻モニュメントを設置するなど国際的に活躍しています。
1970年代初めの版画をはじめ、ドローイング、新作の彫刻と計24点で作家の歩みを振り返ります。やはり外光の入るスペースに置かれた造形物は力強く、印象に残る作品ばかりです。今展について、野田さんは「成羽美術館・安藤忠雄建築との競合は、新たな次元を切り開く試金石として大きな期待を寄せています」とコメントしています。



1994年に開館した高梁市成羽美術館。安藤建築を代表する作品のひとつです。周囲の自然の環境や大名屋敷跡の石垣を大胆に取り込み、様々な表情を見せてくれます。美術鑑賞とあわせて、こちらもじっくり味わいたいです。
岡山では現代アートの祭典「岡山芸術交流2022」が開催中(11月27日まで)。同美術館は岡山市内からは電車とバスを乗り継いで一時間ほどで来られます。秋の遠出にいかがでしょう。
(美術展ナビ編集班 岡部匡志)