【BOOKS】『笑顔のつぎ木 東京藝大 クローン文化財』(東京美術)世界中の文化財を精緻に再現 「クローン文化財」の全貌にせまる

古今東西、人間は数多くの優れた文化財を生み出してきました。その文化財を未来に継承すると同時に、多くの人に公開して価値を共有することは容易ではありません。そのうえ火災や戦争、略奪といった人間の営みにより、いくつもの文化財が失われてきました。

しかし、21世紀以降のデジタル技術の飛躍的な進歩によって、現存する文化財や、かつて失われた文化財を寸分違わぬ外観で精密に再現できるようになりました。その事例のひとつが、宮廻正明 、深井隆監修・IKI編著『笑顔のつぎ木 東京藝大 クローン文化財』(東京美術、2022年)で取り上げている東京藝術大学(以下、東京藝大)の「クローン文化財」です。

「クローン文化財」プロジェクトは、2010年夏頃からスタートしました。法隆寺金堂壁画、アフガニスタン・バーミヤン壁画、ゴッホ「ひまわり」など、火事や戦災で消失した文化財が次々とハイクオリティな複製で復活。全国各地の展覧会で人々を驚かせてきました。

クローン文化財の面白いところは、外観こそ本物そっくりを目指しますが、制作工程が元の文化財とまったく異なっている点です。“サイボーグ”のような存在といってもいいでしょう。たとえば、高精細撮影や3Dスキャンで文化財を記録し、3D切削機などで凹凸までもを緻密に再現。最後は手彩色によって入念に調整します。つまり、デジタルとアナログの“いいとこ取り”で生み出されているのです。

また、クローン文化財は“修復”ではないので、遊び心が入った自由度の高い制作も可能。マネ《笛を吹く少年》を3次元に再現したり、法隆寺金堂釈迦三尊像をガラスや透明アクリルで再制作するなど、ユニークな作品も生み出されてきました。見る人の想像力をさらに高めるような、新たな鑑賞体験が期待されます。

本書では、魔法のようなクローン文化財制作の舞台裏が、数多くのカラー写真とともに惜しげもなく開示されています。さらに、制作に関わった東京藝大の教授などによる熱のこもったテキストも収録。クローン文化財のこれまでの歩みを凝縮しているといっても良いかもしれません。

デジタル技術の格段な進歩に驚きつつ、絵画や彫刻が生み出される制作工程をビジュアルで学べる本書。アートファンはもちろん、各分野でのデザイナーやクリエイターが読んでも、多くの刺激をもらえる一冊です。

定価は2,750円。購入は書店か東京美術のサイトから各ネット書店にて。

(ライター・齋藤久嗣)