【具体展レビュー】「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」2つの視点で読み解く“具体” 大阪中之島美術館と国立国際美術館で来年1月9日まで

大阪中之島美術館と国立国際美術館の共同企画「すべて未知の世界へ ― GUTAI 分化と統合」が開催されています。2022年は、前衛絵画集団である具体美術協会(具体)が解散して50年の節目の年。本展は「分化」と「統合」という2つのテーマを掲げ、具体がどのような活動をし、何を目指したかを再検証します。
向かい合う2つの美術館による共同企画
通りをはさんで向かい合うように建つ、大阪中之島美術館と国立国際美術館。
複数館で同じ作家などを扱った展覧会が同期間に開催されるという前例はありますが、1つの展覧会を異なる美術館で共同開催するというのは非常に珍しい試みです。

大阪中之島美術館は2022年に開館しましたが、開館準備期間中、両館で「せっかく向かい合っているのだから、何か一緒にできたら」という話になったのだそう。それならば中之島から発信する意味のあるものをということになり、大阪中之島美術館では具体の実質的リーダーであった画家・吉原治良(1905~72年)のコレクションが充実していること、具体の活動拠点「グタイピナコテカ(具体の私設展示場)」がかつて中之島にあったことから、具体を扱う企画が決定したと言います。
2つの視点から読み解く具体

戦後、日本の美術史において重要な動向として挙げられるのが、李禹煥らの作風を指す「もの派」と、1954年に兵庫県の芦屋で結成された「具体美術協会」です。団体名となっている「具体」は、「われわれの精神が自由である証を具体的に提示」するという活動目的が由来。その言葉の通り具体の活動は、オリジナリティを模索し、自由を追究することでした。
本展は「分化」と「統合」という2つのテーマで具体を読み解いており、大阪中之島美術館では「分化」、国立国際美術館では「統合」にそれぞれ注目した内容となっています。分化と統合とは、吉原治良が述べた具体美術宣言に登場する「具体美術に於いては人間精神と物質とが対立したまま、握手している」という言葉に通じます。

具体は作品を制作するにあたり、「誰の真似もしてはいけない」というスローガンを掲げました。即ち具体というグループ内でも、それぞれ全く異なる表現をするよう求められていたのです。しかしひとつの集団ですから、そこには何らかのまとまりがあるはず。全員が別の方向を向きつつ、まとまっている──この複雑な関係こそ、まさに「分化」と「統合」であり、具体という集団そのものを表していると言えます。
「分化」(大阪中之島美術館)で見る具体のオリジナリティ

具体が繰り返し唱えた「オリジナリティ」。そこにはかつて吉原自身が体験した「みずからの作品に認めざるを得ない他人の真似」への苦悩があり、やがてそれは強烈なモダニズム思想へと変化していきました。
大阪中之島美術館で展開される「分化」という視点では、それぞれの作家が求めたオリジナリティを、「空間」「物質」「コンセプト」「場所」の4つのキーワードで俯瞰しています。
具体には「空間」に作用する作品が多く見て取れます。会場には現存する巨大な作品のほかに、音や光、錯視を用いた表現によって、展示室という空間が一瞬にして作品に飲み込まれる様子を体験することができます。

逆に空間から影響を受ける、言わば作家による制御が不能となるのが展示室外での展示です。「場所」の章では、展示空間が干渉することによって生まれる、予測不可の要素を取り入れた作品を紹介します。

人間と物質とが対立したまま握手する「物質主義」
具体と切っても切り離せないのが「物質」との関係です。具体は作品制作のために物質(絵の具など)を人間がコントロールするのではなく、その存在を活かして人間の精神と対話させるような関係を築く「物質主義」を唱えました。

さらに具体は、理屈めいた説明を嫌いました。論理より実行を重んじたことから制作のコンセプトは見過ごされがちですが、決して”ただ奇抜であれば良い”としたわけではありません。本展では作品に至るまでのコンセプトについても、掘り下げて考えています。

「統合」(国立国際美術館)で見る「ばらばらにまとまった」自由

それでは具体が追究したオリジナリティに触れたところで、今度は彼らがグループとしてどう「統合」していたのかに迫りましょう。国立国際美術館が会場となる統合編では、ばらばらな表現をしていた彼らが「集団として共有していた理念とは何か」を全3章で検証します。
第1章「握手の仕方」では、具体美術がどのような手段を用いて「物質」と「精神」を同化しない表現を行ったか、その代表的な作品を見ながら読み解いていきます。
分化編の「物質」で触れたように、具体は精神と物質の支配と被支配の関係性を突き崩してこそ、自由を得られるのではないかと考えてきました。

画家が物質を容易にコントロールできないよう、被支配側である物質に従来の画材以外の物(ガラスや土)を混入させたり、敢えて絵筆以外のもので描くなど支配側(作家)を不器用にならざるを得ない条件に置いたりと、様々な方法が試されたのです。
伝統的な絵画の役割を「からっぽ」が解放する
これらを踏まえて具体の作品を見ると、抽象的な表現が多いこともうなずけます。しかし通常、絵画というものは、どのような表現であれ、基本的に何かを伝えるという役割を内包しています。ところが具体の場合は必ずしもそうではなく、分化編で見たように、意味のないもの・物質を見せるためのものとして絵画を提示しました。
一見何かを訴えているようでいて、実は何の意味もない──彼らは、絵画が持つ伝統的な役割からの解放にも挑んだのです。

こうした試みは時として「内容がない」と言われることがあります。しかし、事実そう評された山崎つる子は「からっぽ」という言葉に対し、既に何か意味が固定されているものではなく、後に何者にもなりえるのだという肯定的な解釈を持っていました。

さて、具体はもともと画家集団でしたが、このように絵画における固定観念からの脱却を繰り返すうち、平面から三次元、つまり現実の生活へとつながる作品に着手するようになります。
村上三郎の作品は、絵画を絵画たらしめる「額縁」という存在のみを置くことで、あらゆる風景を絵画にし、作品が現実に拡張する効果を図りました。
このように長く絵画が縛られてきた意味、またはフォーマットからの自由の果てに、現実との関係を受け入れながら構築を試みたことこそ、具体の果たした功績ではないでしょうか。

具体の代表的な作品が揃う2会場
あまりにも斬新であるがゆえに、なかなか踏み込みにくい具体の活動。しかしこうして分化と統合というキーワードで読み解くことで、彼らの活動が何を目指していたのかを理解することができます。
具体の代表的な作品がここまで揃うのは、極めて貴重な機会です。戦後日本の美術史において重要であり、世界的にも注目をされている「具体」。本展はこの集団が活動した18年を中之島の地で再考する、絶好の機会となっています。
(ライター・虹)
大阪中之島美術館 国立国際美術館 共同企画 すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合 |
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会場:大阪中之島美術館 5 階展示室 、国立国際美術館 地下2 階展示室 |
会期:2022年10月22日(土) ~ 2023年1月9日(月・祝) |
開場時間:10:00-17:00 *国立国際美術館は金・土20:00まで(入場は閉場の30分前まで) |
休館日:月曜日(ただし、1月9日[月・祝]は両館開館/1月2日[月・休]は大阪中之島美術館のみ開館) *大阪中之島美術館は12月31日(土)、1月1日(日・祝)休館 *国立国際美術館は12月28日(水) – 1月3日(火)休館 |
入館料: 2館共通券 2,500円 大阪中之島美術館 一般1,400円/大学生1,100円 国立国際美術館 一般1,200円/大学生700円 |
詳しくは各館公式ホームページへ 大阪中之島美術館:https://nakka-art.jp/exhibition-post/gutai-2022/ 国立国際美術館:https://www.nmao.go.jp/events/event/gutai_2022_nakanoshima/ |
インターナショナル スカイ フェスティバルの再現
関連イベントとして、大阪中之島美術館では11月15日(火)~ 20日(日)の期間中、具体の空中展覧会「インターナショナル スカイ フェスティバル」が再現されます。
「インターナショナル スカイ フェスティバル」は、具体が1960 年に大阪・なんば髙島屋の屋上で実施したもので、具体の会員や海外の作家による下絵を拡大して描き、アドバルーンに吊って空中に展示しました。当時の発表内容とは異なりますが、大阪中之島美術館の屋上より、7球のアドバルーンが掲揚され、大空での展覧会を体感することができます。(1960年の発表当時の内容とは異なります。荒天の場合は日程変更)