【レビュー】現代へと「琳派」をつなぐ、近代のマルチタレント――パナソニック汐留美術館で「つながる琳派スピリット 神坂雪佳」展 12月18日まで

「琳派を描く―雪佳の絵画作品」の展示風景

「つながる琳派スピリット 神坂雪佳」展
会場:パナソニック汐留美術館(東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階)
会期:2022年10月29日(土)~12月18日(日)
休館日:水曜休館、ただし11月23日は開館
アクセス:JR新橋駅「烏森口」「汐留口」「銀座口」より徒歩約8分、東京メトロ銀座線新橋駅「2番出口」より徒歩約6分、都営浅草線新橋駅「JR新橋駅・汐留方面改札」より徒歩約6分、ゆりかもめ新橋駅より徒歩約6分、都営大江戸線汐留駅「3・4番出口」より徒歩約5分
観覧料:一般1000円、65歳以上900円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料
混雑緩和のため、土曜・日曜・祝日は日時指定予約推奨(平日は予約不要)
※最新情報は公式サイト(https://panasonic.co.jp/ew/museum/)で確認を。
※前期(~11月29日)、後期(12月1日~)で一部展示替えあり

神坂雪佳(1866-1942)は、明治から昭和にかけて工芸品の図案から絵画まで、幅広い活躍をみせた「マルチ・アーティスト」である。1866(慶応2)年に京都で生まれた雪佳は、四条派の日本画家・鈴木瑞彦に師事した後、岸光景のもとで工芸図案を学び、1890(明治23)年に初めての図案集『別好京染 都乃面影』を刊行した。世界的にアール・ヌーヴォーが全盛だった1901(明治34)年には、英国・グラスゴー万国博覧会視察などのため渡欧、日本の伝統的な装飾美の魅力を再認識。その後は、装飾芸術の先達としての琳派研究に励んだという。今回の展覧会は、琳派コレクションで知られる京都・細見美術館監修のもと、“近代琳派”といわれる雪佳の代表作など、約80点を紹介するものだ。

「あこがれの琳派」の展示風景

展覧会は、「あこがれの琳派」「美しい図案集-図案家・雪佳の著作」「生活を彩る-雪佳デザインの広がり」「琳派を描く-雪佳の絵画作品」の4章構成。最初の「あこがれの琳派」は、本阿弥光悦、俵屋宗達に始まる「琳派」の歴史をおさらいするものだ。江戸初期に活躍した光悦、宗達の約100年後に活躍したのが、尾形光琳、乾山の兄弟。さらに約100年後には大坂では中村光中、江戸では酒井抱一や鈴木其一らが活躍した。〈明快な色遣いや簡潔なフォルム、巧みな構図(略)知的な印象をもたらす優雅なものとして愛された〉と展覧会の図録の中で、細身美術館の福井麻純・主任研究員は「琳派」の魅力について書く。なるほど。ここで展示されている作品を見ていると、その感じがよく分かる。

「あこがれの琳派」の展示風景
神坂雪佳 『滑稽図案』より「美人草」 紙本木版多色摺 1903(明治36)年刊 芸艸堂蔵

次の章は、「美しい図案集-図案家・雪佳の著作」。図案家として京都の工芸界で活躍するようになった雪佳だが、人生の前半の時期、「図案集」を多数刊行している。この時代、「図案集」は今で言う「イラスト集」としても楽しまれていたようで、『ちく佐』(1900-05年刊)や『百々世草』(1909-10年刊)などを見ても、何かのデザインというよりも、絵そのものとして鑑賞できる作品が数多い。代表作の『百々世草』に収録されている「狗児」、『滑稽図案』の「美人草」。すっきりとした構成画面からにじみ出るかわいらしさとそこはかとないユーモア。『百々世草』の「八つ橋」はエルメス社の季刊誌の表紙になった。その作品は洋の東西を問わない、時代を超えた魅力がある。

神坂雪佳 『百々世草』より「狗児」 紙本木版多色摺 1909-10(明治42-43)年刊 細見美術館蔵
神坂雪佳 『百々世草』原画より「八つ橋」 紙本著色 1909(明治42)年頃 芸艸堂蔵

雪佳の図案をもとに作られた工芸品を展示しているのが、次の章「生活を彩る-雪佳デザインの広がり」だ。金蒔絵の箪笥や箱、茶碗など、優雅でシックな作品が並ぶ。下に挙げた煙草箱を作った神坂祐吉は、雪佳の実の弟。兄弟の共作も多かったようだ。雪佳のデザインと実際の工芸品が並んで展示されているのも、鑑賞者には分かりやすい。

神坂雪佳図案 神坂祐吉作 《帰農之図蒔絵巻煙草箱》 木製漆塗、蒔絵、螺鈿 大正末期 細見美術館蔵(後期展示)
「生活を彩るー雪佳デザインの広がり」の展示風景。雪佳のデザインと実際に作られた器が同時に鑑賞できる。

そして最後のコーナーが、「琳派を描く-雪佳の絵画作品」だ。《十二ヶ月草花図》の連作を見ても、その描写力の高さ、画面作りの上手さがよく分かる。少年時代に四条派の技術を学んだ経験が大きいのだろうか。《杜若図屏風》は「いかにも琳派」という作品。展示されている絵画作品には、どれも親しみやすいものばかりである。

「琳派を描く―雪佳の絵画作品」の展示風景。《十二ヶ月草花図》(大正末期~昭和初期、細見美術館蔵)が並んでいる
神坂雪佳《杜若図屏風》 二曲一双、紙本著金地着色 大正末~昭和初期 個人蔵

奇矯さを追い求めない。どれを見ても、おおらかで品がいい。雪佳の作品を見ていると、何よりも「心の余裕」を感じる。技術や美意識を見せびらかすようなことをしない「オトナの美学」がある。まあ、琳派は昔から大名や大商人を顧客にしてきたわけだから、それも当然なのかもしれないが。ゆったりとした日常を彩っていただろう優雅な作品の数々。何事も世知辛い世の中だけに、その魅力が身に染みてくるのである。

(事業局専門委員 田中聡)

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