【レビュー】「こわくて、たのしいスイスの絵本」アサヒビール大山崎山荘美術館で12月25日まで メルヘンのなかにひそむ怖さとは?

「こわくて、たのしいスイスの絵本」 |
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会場:アサヒビール大山崎山荘美術館 (京都府大山崎町銭原5-3) |
会期:2022年9月17日(土)〜12月25日(日) |
休館日:月曜日 ただし11月21日、28日は開館 |
アクセス:JR京都線山崎駅 阪急電鉄京都戦大山崎駅徒歩約10分 駅より無料バス運行(高齢の方優先) |
入館料:一般900円 大高生500円 中学生以下無料 |
詳しくは(https://www.asahibeer-oyamazaki.com/)へ。 |

京都と大阪のあいだに位置する天王山のふもと。山間の自然豊かな場所にあるアサヒビール大山崎山荘美術館は、大正から昭和初期にかけて活躍した実業家、加賀正太郎の別荘としておよそ100年前に建てられた英国風の建物です。

その後、取り壊しの危機に瀕しながらもこの山荘の保存を望む人々の願い声もあり、文化財保護のためアサヒビールが美術館として公開することになりました。大山崎町と京都府の協力のもと復元し1996年にアサヒビール大山崎山荘美術館となり今に至ります。
「こわくて、たのしいスイスの絵本」展
アサヒビール大山崎山荘美術館で、企画展「こわくて、たのしいスイスの絵本」が開催中です。その不思議で魅力的なタイトルに惹かれ早速行ってきました。
なぜスイスの絵本なのかと疑問に思う方も多いのではないでしょうか。実は加賀正太郎はスイスの名峰ユングフラウに日本人として初めて登頂を果たした人物でもあります。そのことからスイスに縁のある企画展が開催されることになったのです。
本展ではフェリックス・ホフマン(1911~1975年)、ハンス・フィッシャー(1909~1958年)、エルンスト・クライドルフ(1863~1956年)の3人のスイスの絵本作家の作品が展示されています。
展示されている絵は、子どもの頃に慣れ親しんだものも多く「どこがこわいのか?」と少し疑問に感じます。広報の池田恵子さんは「作品を見て回りながら『怖さとは何か?』について考えていただければ」と話します。
『おおかみと七ひきのこやぎ』

まず、フェリックス・ホフマンのこちらの作品は日本でもおなじみの『おおかみと七ひきのこやぎ』です。留守中に子ヤギを襲って食べたオオカミを捕まえ、ハサミで腹を割き、子どもたちを救い出したお母さんヤギ。そしてオオカミを井戸に沈めてしまいます。

最後のシーンで、眠る子どもたちを見つめるお母さんヤギの後ろ姿には、子どもを守るためなら、手段を選ばないという一種の”恐ろしさ”が漂っているようにも見えました。
『花を棲みかに(春の使い)』

次に、エルンスト・クライドルフの『花を棲みかに(春の使い)』です。これはスミレの花を擬人化して描かれた絵本です。パッと見たところは淡い色使いからほんわかした様子が感じられ、思わず「かわいい」と声をあげてしまいそうになります。
しかし、よく見るとスミレたちはお行儀の良いチョウチョウには機嫌よく接していますが、サボテンにはひどい顔で接しているのです。さらにタイトルはなんと《まま母さん》。ひとの持つ二面性が怖くなる作品です。
『こねこのピッチ』

そして、ハンス・フィッシャーの『こねこのピッチ』です。こちらも日本の子どもたちにおなじみの絵本です。小さなピッチが旅に出る様子を躍動的な筆致で描かれているのが特徴です。こちらはピッチが怖さを克服して自分を探す旅に出る話で、素直に心が和みました。
実際に絵本も読める
実際の絵本を読めるコーナーもあります。どんな話だったか思い出したい場合はここで読めます。
喫茶室で期間限定ケーキも
一通り鑑賞したら、ぜひ喫茶室で企画展に合わせて作られた期間限定のケーキを食べながら一休みしてはいかがでしょうか。企画展に合わせて、ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家をイメージした「チョコといちごのケーキ」と「スイスの伝統菓子エンガディナー」が用意されています。



モネの「睡蓮」も鑑賞できる

企画展のほかにも建築家の安藤忠雄氏が設計した建物「地中の宝石箱」でクロード・モネの『睡蓮』を見ることができます。大山崎の自然、歴史ある洋館とともに絵本の世界を堪能できる企画展「こわくて、たのしいスイスの絵本」で秋の一日を楽しんでみてはいかがでしょうか。(ライター・若林佐恵里)