「岡本太郎の作品の力が生んだヒーロー」 人気の「TAROMAN(タローマン)」を制作 映像作家・藤井亮さんに聞く

「まさか展覧会までやることになるとは」と語る藤井亮さん(「展覧会 タローマン」が開催中のNHK放送博物館で)

「展覧会 岡本太郎」にあわせて、深夜の5分番組として登場した「TAROMAN(タローマン)」。岡本太郎の言葉と作品が織りなす独特の世界観の中、タローマンと「奇獣」たちが戦う特撮活劇が評判になり、再三の再放送や展覧会も開催されるなど、今やカルト的な人気を誇ります。「TAROMAN」監督の映像作家、藤井亮さんにお話を伺いました。(聞き手・美術展ナビ編集班 岡部匡志)

藤井亮(ふじい・りょう) 映像作家/クリエイティブディレクター/アートディレクター 1979年、愛知県生まれ。武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン科卒。電通関西、フリーランスを経て、GOSAY studios設立。考え抜かれた『くだならいアイデア』でつくられた遊び心あふれたコンテンツで様々な話題を生み出している。受賞多数。

「太陽の塔が歩いたら」とイメージ

Q そもそも岡本太郎さんの作品との出会いは。

A 私は1979年生まれなので、子どもの頃は作品というよりキャラクターの印象が強く、バラエティ番組に出ている変わったおじさん、というイメージでした。その後、美大(武蔵野美術大学)に進んだので、知識として岡本太郎さんの作品に触れることはあっても、実物の作品を見る機会はあまりありませんでした。凄さを知ったのは20歳代後半になって大阪に転居してからで、「太陽の塔」をリアルでこの目で見て、これはとてつもない人だという事が分かりました。ちょうどそのころ、再評価の流れもありました。

Q 仕事で岡本さんの作品と絡むことになるとは予想していましたか。

A 全くなかったですね。

Q 今回の「TAROMAN」の企画はどういう経緯で始まったのですか。

A NHKの旧知のプロデューサーさんから「岡本太郎の展覧会が開催されるので、PRのミニ番組を作りたい。何かアイデアはないですか?」と打診がありました。「岡本太郎の言葉が伝わるような映像を」というリクエストでした。たぶん、プロデューサーさんは岡本太郎の言葉をタイポグラフィ(デザイン化された文字)化して、それにサウンドロゴ(情報を印象付ける短い音楽や効果音などの音響)をかぶせるようなものをイメージされたと思うのですが、「TAROMAN」という全然違うものを提案したので相当驚いたと思います。

Q もともと藤井さんはユニークな作品作りで知られていますが、あれほど突き抜けたイメージはすぐに出てきたのですか?

A 「岡本太郎の映像」という投げかけで、真っ先に浮かんだのは「太陽の塔が動いていたら面白いだろうな」というイメージだったので、そこからどんどん転がしていって、「TAROMAN」にたどりつきました。

最終の第10話には、奇獣「太陽の塔」も出現

70年代こそ相応しい岡本さんの世界観

Q ウルトラマンやウルトラセブンといった、60年代後半から70年代初めにかけて人気のあった特撮テレビドラマに寄せた作品になっていますが、どういう狙いでしょうか。

A やはり岡本太郎さんが一番元気だったのは1970年の大阪万博の前後だと思いますし、岡本さんのあのとてつもないエネルギーは、あのエネルギーの塊みたいな時代と親和性が高いと感じます。それを現代劇にしてしまうと、ちょっと違うと思いました。やはり70年代の世界観で表現すべきもの、と考えました。

Q タローマンと戦う様々な怪獣(奇獣)が出てきますが、ああしたアイデアもすごいですね。

A まず制作にあたっては、岡本太郎の印象的な言葉からどれを取り上げるかを決めて、選んだ言葉からストーリーを作り、その上でタローマンと戦う奇獣を太郎さんの作品から創造していった、という流れです。

第7話「好かれるヤツほどだめになる」に登場した奇獣「赤い手」「青い手」

Q 膨大な数の作品があるので、どれを選ぶか迷いませんでしたか。

A ほとんど全ての作品が怪獣にしやすかったので、どう扱ったらいいかという事にはあまり迷いませんでした。ただし、もともとの作品の持っている意味合いや文脈と乖離し過ぎないようにしつつ、怪獣としての面白さも追求する、というバランスには気を付けました。

Q 映像からも、岡本太郎さんの世界観を大事にしていることは伝わってきました。

A やはり岡本太郎さんの作品にも見えるし、当時の特撮の怪獣にも見える、ということにはこだわりました。

第9話「なま身の自分に賭ける」に登場した奇獣「午後の日」

グッズや小道具もこだわりの手作り

Q 番組後半で山口一郎さん(サカナクション)が取り出す様々な「タローマングッズ」もユニークでした。あれも藤井さんたちが考えたものですよね。70年代のテイストがちゃんと再現されていました。

A 絵を描いて、デザインを作って、基本的には自分たちで手づくりしました。数がたくさんあるので、外部にお任せしたかったのですが、ああいうものはデザイナーさんに頼んでしまうと、ちゃんと今風のものにしようとしてしまいますし、「70年代風」に作ってくれる業者さんも存在しないので、あの時代のテイストを出そうとすると勢い、自分たちやるしかなくて・・。劇中で出てくる小道具やビルの看板なども手作りだったので、あれが一番大変でした。

山口一郎さんの熱い語りも「TAROMAN」に欠かせない魅力

Q 山口一郎さんのフィーチャーもよかったです。

A やはり誰かに岡本太郎の魅力を語ってもらうパートが必要ということで、太郎さんのファンの方を探したら山口さんに行きつきました。台本も用意したのですが、きちんと自分の言葉で作品の魅力を語ってもらえました。ご本人は「私は芝居なんて、全然できないですよ」と話していたのですが、様々な設定もあったのに、しれっと演じてもらい、すごい役者だと驚きました。

予想外の反響に驚き

Q 放送後はすごい反響ですね。

A 全然、予想していなかったです。5分の深夜番組なので、どれだけ人に見てもらえるものか、どうやって人に見てもらおうか、ということばかり心配していました。

Q コミケやハロウィンなどでも、たくさんの「タローマン」のコスプレイヤーが出現していました。

A 誰かコスプレしてくれたらいいな、とは思っていましたが、予想以上に早く出現してきてびっくりしました。自分の子どもが3歳で、ウルトラマンなどの特撮ヒーローがとても好きなのですが、今のところあの世界と連続したものとして、「タローマン」も違和感なく受け止めているようです(笑)

Q 何がそれほどアピールしたのでしょうか。

A やはり岡本太郎さんの作品の力だと思います。今見ても造形物としての強さがありますし、古くも感じませんし。時代を超えています。70年代の人気作家はたくさんいますが、特撮ヒーローにしてハマるものは岡本さんの作品しか考えられません。

Q 「展覧会 岡本太郎」の印象はいかがでしょう。

A 実物を見たことがあまりなかったので、本物をたくさんみられたのがありがたかったです。あと、本物がことごとく、想像していたものより大きいのです。「これは小さいのかな」と予想していたものも、意外なほど大きくて。スケール感やサイズ感の迫力は、展覧会でないとみられないものだと思います。実物の持つパワーを見られてよかったです。「TAROMAN」で岡本太郎の世界に触れた方も、ぜひ「展覧会 岡本太郎」に足を運んでいただければ嬉しいです。


「展覧会 岡本太郎」の詳細は以下をご覧ください。東京都美術館で12月28日(水)まで。次は愛知県美術館に巡回(来年1月14日から)


「展覧会 タローマン」も開催中。NHK放送博物館(東京・愛宕)で12月4日(日)まで。