【開幕】「板谷波山の陶芸―近代陶芸の巨匠、その麗しき作品と生涯」泉屋博古館東京で12月18日まで 至高の技が生み出す美の世界を堪能

生誕150年記念 板谷波山の陶芸―近代陶芸の巨匠、その麗しき作品と生涯― |
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会期:2022年11月3日(木・祝)~12月18日(日) |
会場:泉屋博古館東京 (東京都港区六本木1丁目5番地1号) |
開館時間:午前11時 ~ 午後6時 ※金曜日は午後7時まで開館(入館は閉館の30分前まで) |
観覧料:一般1,200円 高大生800円 中学生以下無料 |
休館日:月曜日 |
アクセス:東京メトロ南北線「六本木一丁目」駅下車、屋外エスカレーターで徒歩3分 |
詳しくは同館の展覧会HPへ。 |
11月3日(木)からに12月18日(日)まで泉屋博古館東京(東京・六本木)で「板谷波山の陶芸―近代陶芸の巨匠、その麗しき作品と生涯」が開催されています。《葆光彩磁珍果文花瓶》(重文)など約130点の名品を展示。開幕前の内覧会を取材しました。
芸術と窯業 二刀流の陶芸家

茨城県下館の富裕町人の家に生まれた板谷波山(1872年~1963年)。文人趣味、茶道の嗜みもあった父・増太郎の影響で、幼い頃からやきものへの関心を抱いてきました。岡倉天心のもと、東京美術学校(現・東京藝大)で芸術家としての基礎を築き、卒業後は、石川県工業学校で窯業科などの教師として働き始めます。窯業材料の研究、ロクロ成形や窯焼成など、土にまみれる7年間を経て、1903年(明治36年)、東京・田端で陶芸家として歩み始めました。つまり波山は、芸術家としての訓練を受けたうえに、窯業の知識や技術を吸収した「二刀流の陶芸家」といえます。
写実的な彫刻表現

波山独自の表現の土台となるのは、東京美術学校で習得した彫刻技術です。第Ⅰ章「波山」へのみちのりでは、卒業制作の木彫作品《元禄美人》など、陶芸家「波山」を名乗る以前の作品を展示。感情を読み取れそうなほど、リアルに表情が彫り込まれています。

波山ならではの彫刻表現に着目すると、より味わい深いです。写実的な「彫りの技」が、紋様にリズムを与え、草花に生命感を吹き込んでいるよう。深く掘られた部分に釉薬が溜まったり、カーブに沿って釉薬が光ったりと、作品のうえでゆらめく釉薬も美しいものです。


真骨頂「葆光彩磁」
波山芸術の真骨頂ともいえるのが、「葆光彩磁」。波山が独自に生み出した技法で、薄絹をかぶせたようなマット釉が特徴です。内側から光がほんのりと漏れるみたいに、幻想的な雰囲気を醸し出しています。



極貧のなか妥協なき美を追求
展示室に並ぶ作品は優雅で、見る者を癒すようなぬくもりが感じられます。一方で波山自身は、60歳を過ぎるまで借金まみれの生活でした。個人でレンガで窯を築き、素地を自ら作るなど、業界の常識を打ち破ったものの、失敗と常に格闘し続けました。少しでも気に入らない作品は叩き割ったといいます。その陶片からは、波山が試行錯誤した痕跡がうかがえました。

波山が残した作品は多くありません。それは、一切の妥協を許さず、失敗を山積みしながら作品を生み出したからとも言えるでしょう。貴重な名品が集う「板谷波山の陶芸」は泉屋博古館東京で11月3日(木)から12月18日(日)まで開催されます。
(読売新聞美術展ナビ編集班・美間実沙)