【第5回】「ハカセとNARIのときめくアート」神戸にあった幻の美術館が復活!「よみがえる川崎美術館」展(神戸市立博物館)

関西在住のマンガ家NARIさんが西日本を中心に美術館や展覧会を訪れるマンガ「ハカセとNARIのときめくアート」。5回目の今回は、かつて神戸にあった私立美術館「川崎美術館」がゆかりの地・神戸でよみがえった特別展をレポートします。

日本初の私立美術館「川崎美術館」

神戸市立博物館開館40周年記念特別展「よみがえる川崎美術館-川崎正蔵が守り伝えた美への招待-」に行ってきました!


川崎美術館は明治から大正にかけて展覧会が行われた私立の美術館。昭和恐慌の影響で、そのコレクションは散逸しましたが、珠玉のコレクションが再び神戸の地に集うこととなりました。約100年ぶりに川崎美術館をよみがえらせた展覧会となっています。

美術館をつくった川崎正蔵とは?

川崎造船所の創業者である実業家、川崎正蔵が明治23年(1890年)に神戸の自邸に開設した川崎美術館は、日本初の私立美術館と言われています。(なお、現存する最古の私立美術館は、明治35年=1902年に公開を始めた大倉集古館とされています)
川崎造船所といえば、松方コレクションで有名な川崎造船所の社長、松方幸次郎が思い出されますね。川崎正蔵は松方幸次郎の父、松方正義(総理大臣、大蔵大臣などを歴任)と親しかったようですよ。

現在の美術館と異なり、川崎美術館では、招待客だけが入館を許され、年間数日だけの展観(展覧会)でした。新聞記事で展覧会の開催を知った一般の人たちが、幾人も敷地内に侵入したこともあったのだとか。

「優美なり」な美術品を収集


明治期、日本の美術品(古くから伝わる中国の美術品も含む)の多くが、国内での評価が低かったこともあって、今の日本にあれば国宝級の作品であっても海外へ流出していました。川崎正蔵はそうした状況を憂い、自身が「優美なり」とした作品の収集に努めて美術館を開設し、美術の進歩に貢献することで国家の益となることを望みました。

川崎美術館の空間も再現!


川崎美術館の全体の構造は分かっていませんが、円山応挙の襖絵が現存することで部分的に判明しています。今回の展覧会では、襖絵を立体的に展示することで川崎美術館の館内を再現しているので、観客の私たちは観るだけでなく、当時の美術館を体験できるのです。

明治天皇による神戸行幸が明治35年(1902年)に行われました。その際、行在所に5双の屏風を川崎正蔵が用意したことで「名誉の屏風」と称賛されたということです。展覧会ではそのうちの3双が展示されています。

一番のお気に入り《寒山拾得図》

重要文化財の伝 顔輝《寒山拾得図》は、寒山と拾得という2人の隠者を描いた作品。袂に手を入れているのが寒山で、箒を持っているのが拾得です。
森鴎外の短編に「寒山拾得」があります。それを読みつつ、この作品を見ると、訪ねて来た唐代の官吏、閭丘胤りょきゅういんに対して不躾ぶしつけに哄笑する様を描いているようにも思えます。鑑賞者は閭丘胤になった気持ちになれますね。鴎外の短編にも描かれているように、俗世にまみれた私たちは、2人の隠者に笑われる存在なのかもしれません。

《寒山拾得図》は織田信長が安土城で保管していたことでも知られています。本展の図録によると、森蘭丸が観ていたところ、寒山と拾得がしゃべり出して驚いたなんて話もあるそうですよ。
11月15日からは川崎美術館コレクションの白眉、国宝の《宮女図(伝桓野王図)》が登場しますので、こちらも要チェックですね!
*《円窓九美人図》は11月6日まで《寒山拾得図》は11月13日までの展示です。
(アート探訪インスタグラマー、マンガ家・NARI)

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よみがえる川崎美術館 ―川崎正蔵が守り伝えた美への招待―
会期:2022年10月15日(土)~12月4日(日)
※会期中、一部の作品は展示替えがあります
会場:神戸市立博物館(神戸市中央区京町24番地)
開館時間:9時30分~17時30分(金曜と土曜は19時30分まで)
※入場は閉館の30分前まで
観覧料:一般1,600円 大学生800円 高校生以下無料
休館日:月曜日
アクセス:JR「三ノ宮」駅、阪急・阪神「神戸三宮」駅から南西へ徒歩約10分
詳しくは同館の展覧会公式サイトへ。