【開幕レビュー】<原点>としての肖像画家 展覧会「ヤマザキマリの世界」、東京造形大学付属美術館で11月26日(土)まで

展覧会「ヤマザキマリの世界」が10月25日(火)、東京造形大学附属美術館とZOKEIギャラリーで開幕しました。

見どころの多い展覧会ですが、肖像画に注目してみました。

今や漫画家、エッセイストとして大活躍されているヤマザキマリさんですが、17歳で高校を中退してイタリア・フィレンツェへ渡った時は、油彩画の技法が確立しはじめた15世紀の北方ルネサンス様式の肖像画を描くのが目的でした。

夢を追いかけて「水道や電気などのライフラインが止まるような、非常に苦しい生活を11年間送った」ものの、なかなか芽が出ませんでした。しかし、その懸命な努力は、28歳から取り組んだ漫画で『テルマエ・ロマエ』をはじめとするヒット作につながり、また世界各地での生活を経験した独自な視点で書かれたエッセイとして実を結びました。

そんなヤマザキマリさんに、<原点>を思い出せてくれたのが、「肖像画を描いてもらうのが夢だった」という歌手の山下達郎さんのオファーでした。数年前から話はあったそうですが、今から1年ほど前、11年ぶりにリリースするアルバム『SOFTLY』のジャケット用に、正式に依頼を受けました。タイトル通りの柔らかな表情が、山下さんの人柄をしのばせます。1984年にイタリアに渡った時、唯一持って行った日本のカセットテープが山下達郎さんの『Big Wave』だったというのも何かの縁でしょう。
その後、山下さんから、落語家の立川志の輔さんと、人形浄瑠璃文楽の人形遣いの桐竹勘十郎さんの分も頼まれ、本展には3点の肖像画を出品しています。「手元にあれば、見れば見るほど気になる」と、内覧会の前日まで描き込んでいたと言います。
これからについて聞かれると、「漫画はもちろん続けますが、肖像画もリクエストがあったら描き続けたい。女の人は注文が難しいので、年季の入った壮齢期の男性を描きたい」と話します。

これからは肖像画家という肩書も増えそうなヤマザキマリさん。そのいくつもの<原点>を見つけることができる展覧会です。(読売新聞美術展ナビ編集班・若水浩)
「ヤマザキマリの世界」 |
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会場:東京造形大学附属美術館、ZOKEIギャラリー(東京造形大学12号館1階)=東京都八王子市宇津貫町1556、電話042-637-8111 |
会期:東京造形大学附属美術館 2022年10月25日(火)~11月26日(土) ZOKEIギャラリー 2022年10月25日(火)~11月18日(金) |
休館日:日曜日(10月30日、11月6日は特別開館)、祝日 |
開館時間:10時~16時30分(11月7日(月)、11月25日(金)は19時まで) ※入館は閉館の30分前まで |
入館料:無料 |
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