【レビュー】企画展「銘仙」埼玉県立歴史と民俗の博物館 12/4まで 大正から昭和初期に大流行した映え着物

企画展「銘仙」
会場:埼玉県立歴史と民俗の博物館 特別展示室 (埼玉県さいたま市大宮区高鼻町4-219)
会期:2022年10月15日(土)~12月4日(日)
休館日:月曜日 ※11月14日は開館
アクセス:東武野田線 大宮公園駅下車 徒歩5分
入館料:一般 400円 高校生・学生 200円
詳しくは(https://saitama-rekimin.spec.ed.jp/kikaku_meisen)へ。

1015日より埼玉県立歴史と民俗博物館で企画展「銘仙」が開幕しました。

銘仙は屑糸を使用した平織の絹織物です。華やかな模様銘仙が作られるようになると、手頃な価格も手伝って大正から昭和にかけて大流行しました。そのデザインや色遣いは現在見ても大変魅力的です。

秩父在住の木村和恵氏が埼玉県立歴史と民俗博物館に寄贈した銘仙コレクションと関連資料を中心に、5大産地それぞれの特色や歴史、製法(養蚕から製糸、染織、織)などが展覧されています。

※画像のうち記載がないものは埼玉県立歴史と民俗の博物館蔵

色鮮やかな銘仙の世界に高まる鼓動

展示風景

企画展「銘仙」の受け付けを通り、実演用高機(織機)やパネルが展示されているエリアを抜け、展示室に入るとそこには鮮やかな銘仙の世界が繰り広げられていました。埼玉県立歴史と民俗の博物館を訪れるのはこの時が初めてだったのですが、予想以上に広い展示室にたくさんの色鮮やかで斬新な銘仙の数々!目の前に広がる光景に、否が応でも鼓動が高鳴ります!!

着物 黒地花文様銘仙(手前)銘仙コレクションを寄贈した木村和恵氏が最初に手にした銘仙

担当学芸員の町田さんに案内され展示室を拝見していると、どこかで見た覚えのある銘仙が。伺うと2020年に東京国立博物館で開催された特別展「きもの」で、銘仙が非常に魅力的に展示されている一角がありましたが、そこに展示されていた銘仙の一部はこちらの所蔵品だったのです。「きもの」展には3回行きましたので見覚えがあるはずです。(帰宅後、特別展「きもの」の図録で確認にしたところ、11点がこちらの所蔵品でした。)保存状態も素晴らしい銘仙の着物の数々にしばしうっとりと鑑賞いたしました。

展示風景

銘仙の歴史と5大産地

5大銘仙産地のパネル ちちぶ銘仙館蔵

江戸時代終盤、横浜港が開港すると生糸は重要な輸出品となりました。製品にならない屑糸を主に使用した「太織」が日常着に使用されていました。太織は天然染料を使用した無地や縞の地味な着物ですが、丈夫で実用的な着物でした。やがて化学染料が導入され、明治40年代に確立された「ほぐし織」の技法でカラフルな「模様銘仙」が作られるようになりました。

養蚕に使われた道具
ほぐし織の手順の展示

模様銘仙は、仮織した経糸たていとに複数の型紙を使用して染色(捺染なっせん)し、本織をする際に仮織した緯糸よこいとをほぐしながら本織しました。緯糸は、無地の糸を使うため、絣の模様合わせの必要がなく、大量生産が可能で安価に生産できました。丈夫でファッション性も兼ね備えた銘仙は瞬く間にたくさんの人々に受け入れられていきました。

秩父ほぐし捺染の道具

銘仙は主に、養蚕や織物が盛んに行われていた地域で生産されました。秩父、伊勢崎、足利、桐生、八王子を5大産地と呼びます。それぞれの産地で特徴のある銘仙が作られました。銘仙の技法もほぐし織のほか、併用絣、半併用絣、緯総絣、玉虫織などの技法が開発され、銘仙は一層魅力的なものに発達しました。

実演用高機 ちちぶ銘仙館蔵

華やかな銘仙が作られるようになると、全国の百貨店で販売会が行われ、婦人雑誌では特集が組まれるなど宣伝活動も活発に行われました。産地では有名女優を採用したポスターや絵葉書なども制作し普及に力を入れました。こうして、銘仙は広く流通し、大衆にも手が届くお出かけ着として当時大流行しました。

秩父銘仙とポスター
左:「秩父銘仙」ポスター 島田安彦コレクションアーカイブ蔵
右:「銘仙は秩父」ポスター 埼玉県立歴史と民俗の博物館蔵

さまざまな銘仙の着物

木村和恵氏のコレクションは、当時のファッションの記録だけでなく、当時の生活を知る上でも貴重な資料となっています。子ども用の着物や子どもを背負ったときに着る「ねんねこ」なども含まれ、銘仙が生活に密着した衣類であったことがうかがえます。子ども用の着物も大変カラフルでかわいらしく当時の銘仙のデザインの多彩さ、ファッション性に目を見張ります。

右から:着物(子ども用)薄桃地牡丹文様銘仙、着物(子ども用)朱色地折鶴文様銘仙
展示風景

『「考現学」を提唱した今和次郎が、銀座で1925年(大正14年)5月に街ゆく人の装いを調べたところ、銘仙の着物を身にまとった女性の割合は実に50.5%にのぼり、洋服やほかの着物を超えて最も多くを占めていたという。』(特別展『銘仙』埼玉県立歴史と民俗の博物館図録(令和2年度版)より)

銀座を歩く半分の女性がこのような銘仙を着ていたなんて、想像するだけで心が浮き立ちます。

これほど一世風靡した銘仙も戦後、生産は減少していきます。夜具地や座布団地の生産に活路を見出すものの、それも時代の流れには逆らえませんでした。

しかし最近では復刻銘仙が制作されたり、観光資源として活用したりする動きもあります。少し新しくなった現代の銘仙も展示されており興味深く拝見しました。

一番広い展示ケースの展示風景

これほど規模も大きく一度にたくさんの銘仙を見るのは初めてでした。会場内の一番広い展示ケースの中には、手前に広げた状態で展示された銘仙の後ろに、たたんでポールにかけられているものがたくさんありました。何度これを広げて見たい!と思ったことでしょう!! そして、これはコレクションの一部だというのですから、埼玉県立歴史と民俗の博物館のコレクション、木村和恵氏のコレクションの素晴らしさに舌を巻きました。また別に機会に拝見する機会がありますように。

埼玉県立歴史と民俗の博物館では「国宝太刀・短刀の公開」なども開催中です。たとえ少し遠いとしても、ぜひ足をお運びください。見ごたえ抜群です。

【ライター・akemi】 きものでミュージアムめぐりがライフワークのきもの好きライター。きもの文化検定1級。Instagramできものコーディネートや展覧会情報を発信中。コラム『きものでミュージアム』連載中(Webマガジン「きものと」)

展覧会に合わせたコーディネート。今回はレトロな雰囲気で。アンティーク矢絣の銘仙に昭和後期のひげ紬の帯を合わせました。