【京のミュージアム#11】京都市考古資料館 様々な顔を見せる呪物 特別展示「考古資料とマンガで見る呪術-魔界都市京都-」展 11月20日まで

京都市内から出土した呪術に関する遺物が並んだ展示会場

陰陽師人気に代表されるように日本人は今でも「呪術」が好き。最近もNHKの大河ドラマで源頼家を呪詛する場面が出てきました。「呪い」と言うとおどろおどろしい印象ですが、「呪術」には様々な顔があります。地中から出土した約200点の資料で、そんな「呪術」の一面を紹介する展示が京都市考古資料館で開かれています。同市内の京都国際マンガミュージアム(同ミュージアムでの展示は終了)との共同企画で、マンガキャラクターがパネルで展示を紹介するなど、分かりやすく楽しめる企画です。

特別展示 「考古資料とマンガで見る呪術-魔界都市京都-」展
会場:京都市考古資料館(京都市上京区今出川通大宮東入元伊佐町265-1)
会期:2022年7月14日(木)~11月20日(日)
開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(祝日、振替休日の場合は翌日)
アクセス:市バス「今出川大宮」下車すぐ、「堀川今出川」徒歩2分
入館料:無料
詳しくは京都市考古資料館
平安京右京六条三坊から出土した人形代(下)  出土した時の様子(上)=平安前期

資料館に入るといきなり正面に2体の人形代ひとがたしろ。おどろおどろしさでいっぱいの予感がします。井戸から出土したもので、烏帽子をかぶった髯面の男と髷を結った女。それぞれ名前が墨書きされ、男の腹の一部が削り取られていることなどから、呪いに使われたことは間違いないだろうということです。館長の山本雅和さんによると、呪術には他者への悪意が込められたものと、天災や疫病などの災いから逃れよう、また、幸せが来るようにと願うものの2種類あり、実は後者がほとんどなのだそうです。呪術の担い手は、自分の術を公にすると価値が下がってしまうので秘密にしていました。そのため呪術に関する記録は少なく、出土品や貴族の日記などから類推するしかないのだそうです。

長岡京東南境界祭祀遺跡

長岡京の川跡から出土した墨書人面土器=長岡京期

長岡京の南東端にある川跡から出土した人の顔が墨書きされた土器です。怒りや悲しみ、困惑、無表情…様々な表情に見えます。疫病から逃れるため、土器に息を吹き込んでケガレを移し、川に流したものと考えられています。顔の意味は記録が無いので分からないそうですが、いかめしい顔は疫病神でしょうか。自分や家族の顔もあるのでしょう。女性とおぼしき顔もあります。この場所からは約600点もの墨書人面土器が出土しています。長岡京では疫病が発生し、多くの人が亡くなりました。ユーモラスにも見える人面ですが、それぞれに人々の悲痛な願いが込められているのでしょう。

長岡京の川跡から出土した土馬(左)とミニチュア竈・鍋(右)=長岡京期

土馬は土で作った馬です。墨書人面土器と一緒に出土することが多いので、一連の祭祀に使われたようです。土馬は疫病神の乗り物と考えられ、「これに乗って早く遠くへ行ってくれ」という願いが、また足の折れたものも多くこちらは「こっちへ来るな」と願いが込められたと推測されています。竈や鍋はお供えの食事を表現したのでしょう。

陰陽師系の遺物

平安時代の陰陽道は、天体観察や暦作成を含む学問・技術の一つでしたが、占いやまじないで災いや物の怪を避ける術として用いられるようになります。

木製の人形代=平安前期

実物の代わりに木や土に形を写したものを形代かたしろと言います。人形代、馬形代、鳥形代、船形代など色々あります。木製の人形代は薄い板に切り込みを入れて手足を表現し、墨で顔を描いています。髷や乳房を描き女性を表わしたものもあります。時代を経ると立体的になっていくのだそうです。身体についたケガレを移し取る祓いに使われたと考えられています。今でも神社で使われる紙の人形代の“先祖”になるのでしょう。

(上)人形代、(左下)土馬、(右下)絵馬 =平安前期

かつては神にお願いをする時、本物の馬や牛を捧げていました。しかし、仏教が広まり殺生が禁じられるようになると、土馬が代わりを務めるようになります。さらに進むと絵馬になります。今の絵馬と形は違いますが、リアルな馬が描かれています。

鳥羽離宮跡から出土した呪符(左)と物忌札(右) =平安後期

呪符は文言や五芒星・九字などの記号、飾り文字などを書いて呪術の成就を願うものです。不思議な文字や記号です。記号などの意味や効き目は秘密だったので、今では意味など分からないものが多いそうです。呪術者が唱える決め台詞に「急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう」というのがあります。これは「律令(法律)のように速やかに効果を現せ」という意味。呪文の中では特に厄除けの効果がある言葉として使われたそうです。そう言えば祇園祭で入手したお札にも書かれていました。物忌札は災いから身を守るために、家に閉じ籠もる表示です。写真の物忌札は鳥羽離宮から出土したものですが、一方が尖っているので、門前の地面に刺して立てたのではないかと言うことです。

密教系の遺物

平安時代前期に中国からもたらされた密教が天台宗、真言宗で体系化されていくと、護摩を焚き真言を唱えて仏に祈る加持祈祷が呪術的な役割を担うようになって来ます。

五鈷鈴や五鈷杵、独鈷杵、錫杖など密教系の遺物

五鈷杵ごこしょ独鈷杵とっこしょは古代インドの武器が原型で、仏教では煩悩を打ち払い悟りを開く法具となりました。錫杖しゃくじょうは僧侶が持つ霊力を持った杖です。金属製の頭部は歩くとシャンシャンと音がします。弘法大師が錫杖で地面を突いたら水や温泉が出た、という言い伝えが各地にあります。展示されている法具は、寺が焼けたりするなどして土に埋まってしまったものです。

その他のまじないに使われた遺物

陰陽師系や密教系以外にも神道、風水思想、修験道、民間信仰に基づいて作られた呪物がたくさんあります。

伏見城城下町の墓地から出土した土人形=江戸時代

墓地にある子どもを埋葬した木棺から出土した、鳥と魚の土人形があります。よく見ると嘴や尾びれの一部が欠けています。山本館長は「子どもが生前に遊んでいた玩具を、あの世でも楽しめるようにと親が副葬品として埋めたのでしょう」と言います。土地に供物を埋葬する呪術を「鎮祭」と言います。供物を皿や壺などに入れて土に埋め、祈願の儀式を行います。新しい建物の繁栄を祈るものですが、居住者に呪いをかけることもあったそうです。

地鎮のために埋められた鋤や鍬(下)=平安前期

「呪術」というと、陰陽師や呪いなど興味本位で見てしまいがちです。でも遺物を見ていくと、一つ一つに当時の人々の祈りや願いや怨みやといった、心の底からの思いが染みこんでいるのだと感じる展示でした。

考古遺跡発掘がわかる解説マンガ

実際に遺跡発掘現場で働いたことのあるエッセイストでマンガ家の今井しょうこさんが描く、解説マンガの展示もあります。体験しないと分からない実際の発掘の現場。なるほどという場面がいっぱいです。

◆京都市考古博物館

京都市内の発掘調査で発見された考古資料を展示公開するために、昭和5411月に開館。旧石器時代から現代までの約1000点にのぼる出土品を、各時代の遺跡写真パネルとともに展示している。発掘調査や研究活動の成果を系統的に展示する特別展示や、発掘調査の成果を速やかに公開する速報展示コーナーもある。

★ ちょっと一休み ★

考古資料館から東へ徒歩23分。老舗和菓子店「鶴屋吉信」直営の「tubara cafe」。和菓子になじみのない若い人にも楽しんでもらおうと、ちょっと洋風な店にちょっと若者向けの和菓子。目玉はあんをもち粉の入った焼皮で包んだ「生つばら」。作りたての生菓子でこのカフェ限定。あんは抹茶などの定番と栗などの季節限定の5種類。「生つばら」2個と紅茶やハーブティー、ジュース、コーヒーなど飲み物とのセットになる。筆者が頼んだのは栗と抹茶の「生つばら」にコーヒー(1342円)。ふわっとしながらもちっりの皮とあんが絶妙。クリーミーな抹茶と甘い栗を堪能しました。火・水曜定休。営業時間は午前1130分~午後530(ラストオーダー5)

(ライター・秋山公哉)