【レビュー】動物や風景をバリエーション豊かに描き出す――山種美術館で特別展「没後80年記念 竹内栖鳳」

特別展「没後80年記念 竹内栖鳳」
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会期
2022年10月6日(木)〜12月4日(日) ※前期(~11月6日)、後期(11月8日~)で一部展示替えあり -
会場
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観覧料金
一般1300円、高校・大学生1000円、中学生以下無料ほか。
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休館日
月曜日
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アクセス
JR恵比寿駅西口、東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口から徒歩約10分 - カレンダーへ登録
※詳細情報はホームページ(https://www.yamatane-museum.jp/)で確認を。
「山種美術館」で「竹内栖鳳」といえば、まず美術ファンの頭に浮かぶのが、この《班猫》だろう。グルーミングをしている一匹の猫をリアルに精緻に描いた1枚。栖鳳の代表作のひとつであり、重要文化財である。もちろん「没後80年」と銘打たれた今回の展覧会でも「一押し」。この作品だけは、一般観覧の方々にも「写真撮影可(スマートフォン・タブレット・携帯電話に限る)」だし、絵の隣には、モデルになったネコの写真も展示されている。ツイッターとインスタグラムでは「班猫チャレンジ」と銘打って、毛繕いする猫や《班猫》そっくりの猫の写真を募集中なのである。


その竹内栖鳳(1864~1942)は、戦前の京都画壇を代表する大家である。円山・四条派で最初学んだが、狩野派や水墨画、さらに西洋絵画の技法を取り入れて、日本画の発展に大きく寄与した。「東の大観(横山大観)、西の栖鳳」とまで言われたほどの大きな存在なのである。特に印象的なのが、「その体臭まで描ける」と自ら話していたという動物画。冒頭の《班猫》に加え、トラやツル、様々な動物画が今回の展覧会では展示されている。力強い《松虎》、《双鶴》の優美さ。時に強靱で時にしなやか、何とも言えない存在感が絵から漂ってくる。個人的に好きなのは、ネコやトラ、獅子など「ネコ科の動物」を描いた絵なのですが……。


さてさて。今回の展覧会は「竹内栖鳳」と「栖鳳をめぐる人々」の二章に分かれている。最初の章は、もちろん栖鳳の作品の特集だ。動物画だけでなく、風景画、水墨画など、様々な作品が紹介されている。これもまた個人的な好みで恐縮だが、中でも印象に残ったのが、昭和に入ってからの作品の数々だ。上に挙げた《みゝづく》のように、俳画のような軽さがある絵が多いのである。シンプルだけどムダのない空間構成、そこに描かれる世界からは現実とはまったく違う「悠久の時」が流れているようにも感じられる。リアルで精緻な動物画からそんな晩年の作品まで、今回の展覧会では様々な栖鳳の「顔」を見ることができるのだ。


「栖鳳をめぐる人々」では、栖鳳と同時期に活躍した画家や、教育者としても有名だった栖鳳の薫陶を受けた人々の絵が中心。まず目に付くのは、横山大観、川合玉堂と合作した《松竹梅》の軸だろうか。三者三様、大家が描いた絵はそれぞれに滋味深い。栖鳳の弟子、西村五雲の《白熊》。いかにもこの動物の生命力が溢れ出す力強いタッチである。重要文化財になっている村上華岳の《裸婦図》は、生身の人間と言うよりも菩薩を描いているような神々しさ。今尾景年、山元春挙、小野竹喬――、京都画壇を代表する名手たちの作品が並んでいる。


エントランスロビーの「Cafe椿」では、今回も青山の老舗菓匠「菊家」に特注したオリジナル和菓子が用意されている。冒頭の《班猫》をモチーフにしたトートバッグやクリアファイルなどのミュージアムグッズも多彩。10月22日には、上野動物園元園長の小宮輝之氏によるオンライン講演会「日本画に描かれた動物たち―竹内栖鳳を中心に―」も開かれる予定という。日本画専門の山種美術館らしい趣向の数々。様々な形で楽しめそうな展覧会なのである。
(事業局専門委員 田中聡)
