【開幕】「TENNOZ ART FESTIVAL 2022」水辺にアートが映える街、天王洲アイル(東京・品川区)

東京・品川区の臨海部にある天王洲アイルの魅力を、アートとの相乗効果でより高めようというイベント「TENNOZ ART FESTIVAL 2022」が、10月10日(月・祝)から始まりました。2019年から行われ、今年が4回目です。開幕に合わせて行われた「天王洲の街を巡るアートツアー」に参加して、今回から展示された新作を見て回りました。
前日からの雨も心配されましたが、さすがは文化の日と並んで「晴れの特異日」と言われる10月10日。時々、日差しも顔をのぞかせました。気温もそれほど上がらずに、街の散策には最適でした。
出発地は、同日にオープンした「アイルしながわ」です。旧・東品川清掃作業所を活用し、パラスポーツやアート活動などの拠点となる品川区の施設です。

「アイルしながわ」の内側にはいくつもの巨大壁面アートが描かれました。日比谷泰一郎さん(1987~)の《Crowds #Tennoz-Isle》は、天王洲の人々がゆったりと過ごす時間を、抽象画として構成した作品です。伝統的な「波」の表現方法と、現代的な画風が共存しているところにも興味を惹かれます。この絵の前では、車いすバスケットボールの体験イベントが行われていました。

佐藤周作さん(1985~)の《purification》は、「浄化」という意味です。水牛が街を駆け抜けることで、心が澄んでいく様子を表しました。水牛をテーマにしたのは、天王洲という地名が海中から牛頭天王のお面が引き上げられたことに由来するという言い伝えにちなんでいます。背景のエメラルドグリーンの天王洲のビル群の「静」と、疾走する水牛の「動」とのコントラストも見事です。

加集陽さん(2000~)と市川凜さん(2000~)による「宇宙船地球号」の《smile cruise》は、年齢や人種、車いすなど多様な人々を、同じ船に乗る仲間のように描きました。見る人が「みんなが笑顔になれるような未来」を想像できるようにとの願いが込められています。

「アイルしながわ」を出て、運河方面に向かうと、10個の植栽プランターをキャンバス代わりにした作品が現れてきます。津田宙さん(2004年~)と木下未琴さん(2004年~)による「MISO」の《Planter aquarium》です。


天王洲アイル駅方面から離れるにしたがって、絵は深海から浅瀬に変化していきます。近くには保育園もあるので、子供たちの通園も楽しくなりそうですね。

運河沿いを歩くと、コンテナをアートで包んだようなような作品に出合いました。 山田美優さん(1994~)の《wrapping》です。漂い浮遊している現代人を雲のような、島のような、綿あめのような形で描いています。

さらに運河沿いを進むと、日比淳史さん(1965~)の《間合いの地》が見えます。鉄が朽ちる姿の作品をテーマに発表を続けています。文明の不安定さを、見るものに投げかけます。ライトアップされる夜は、表情が大きく変わりそうです。

天王洲ファーストタワーの前には、屋外ダストボックスにネコを描いたフカザワ ユリコさん(1978~)の《金色のネコ》が、少しずつ離れて5点置いてあります。フカザワ ユリコさんは「素通りしがちなダストボックスに、アートで気づきや楽しみを生み出せれば」と考えたそうです。今年は、この作品が公募のなかで、最優秀賞に輝きました。


「5つ全部見つけるといいことがあるかも」と、フカザワ ユリコさん。残りはみなさんで見つけてみましょう。


最後は屋内に戻ります。第一ホテル東京シーフォートの2階のガラスに、漆で金魚が描かれています。江藤雄造さん(1982~)の《金魚が泳ぐホテル》です。同ホテルは来年3月末に閉館が決まっていますが、それまで金魚は描き足していくそうです。
天王洲は、運河に囲まれた倉庫地帯でしたが、1980年代から大規模な都市開発が始まり、「島」を意味する「アイル」の呼び名が付けらました。今はオフィスビルのほか、おしゃれなレストランやカフェも並びます。
「TENNOZ ART FESTIVAL 2022」は今年12月31日(土)までですが、作品は期間後も展示され、展示内容により期間は異なるそうです。前回から続けて展示されている大型壁面アートや街中の立体アートなども、こちらの公式サイトで探すことができます。秋の1日に、アートを楽しみながら、運河沿いの街の散策はいかがでしょうか?(読売新聞美術展ナビ編集班・若水浩)
◆アイルしながわ