【BOOKS】長坂真護『サステナブル・キャピタリズム』 アートで社会課題の解決を目指す作家の自伝

アートを通した問題提起を行うだけでなく、その先の問題解決を目指す型破りなアーティストがいます。その名は長坂真護さん。日々奮闘する姿は多くの人々の共感を呼んでいます。そんな長坂さんのこれまでの歩みをまとめた自伝的な書籍が、『サステナブル・キャピタリズム』(日経BP)です。
現在長坂さんが活動拠点を置くガーナのアグボグブロシーは、東京ドーム32個分に相当し、「地球最大の電子廃棄物の墓場」といわれるスラム街。欧米各国など世界中から毎年50万トンもの電子廃棄物が集まり、住民は野焼きしたゴミが発する有毒ガスにまみれながら、ゴミを拾って日々の生計を立てています。その現実を目の当たりにした長坂さんは、現地で拾い集めた電子ゴミで作品を制作し、その売上の大半をガーナの人々を救うために使おうと決意しました。
本書では、こうした経緯の一部始終が、作家自身の視点で熱量たっぷりに語られます。ガーナ人との慣れない人間関係に戸惑いながらも、それらを乗り越え、現地の人々を巻き込んで美術館や私設学校の建設、リサイクル工場の設立へと進んでいった紆余曲折は非常に読み応えがあります。
活動をはじめてわずか数年で作品の年間売上高が8億円を突破するなど、活躍を重ねる長坂さん。ちょうど今、上野の森美術館では「長坂真護展 Still A “BLACK” STAR」が11月6日 (日)まで開催されています。この個展にあわせて出版された本書は、長坂さんの名刺代わりの一冊と言えるでしょう。専門用語をなくした平易な語りも特徴です。
作品鑑賞のお供に、環境問題やSDGsに興味がある人に、あるいは、ちょっと行動を起こすための勇気がほしい人などに幅広くオススメしたい一冊です。
価格は1,870円、購入は書店か各ネット書店にて。
(ライター・齋藤久嗣)