【軽井沢の新名所がオープン】猫と少女でいっぱいの空間――軽井沢安東美術館 藤田嗣治を満喫

軽井沢安東美術館の外観

藤田嗣治(レオナール・フジタ、18861968)の作品だけを展示する日本で初めての個人美術館「軽井沢安東美術館」が10月8日にオープンする(開館時間は、4~10月が10:00~17:00、11~3月が10:00–16:00、初日のみ13時から一般公開開始)。アートファンにはいわずもがなだろうが、猫と少女の絵で有名な「エコール・ド・パリ」を代表する世界的な画家がフジタである。ファンシーであり、コケティッシュでもあるその独特の雰囲気は、ハイソな避暑地の軽井沢と相性がよさそう。開館に先立って10月1、2日に行われたプレス内覧会を覗いてきた。(事業局専門委員 田中聡)

軽井沢は秋晴れでした

筆者が訪れた10月2日の軽井沢は、抜けるような青空が広がっていた。東京に比べると、やはり秋の訪れが早いのだろう。美術館のすぐ近くにある軽井沢大賀ホール周辺の植栽には、赤い色が混じり始めている。美術館までの道をちょっとだけ紹介しておこう。JR軽井沢駅北口を出て、線路を右手に見ながら歩き、「アパホテル〈軽井沢駅前〉軽井沢荘」の手前を左折すると国道18号線に出る。その北側に広がっているのが矢ヶ崎公園だ。矢ヶ崎公園をと左手に見ながら最初の交差点を左折すると、そこにあるのが軽井沢大賀ホール。その少しだけ先、道を挟んだ反対側に「軽井沢安東美術館」はある。

近くにある「軽井沢大賀ホール」。植栽には秋の気配も

ぶらぶらしながら歩いても、駅から10分程度。周囲には緑も多く、行程の途中にはしゃれたフレンチレストランもある。いかにも避暑地・軽井沢の風情。あと1か月もすれば、紅葉を目で楽しみながら、さわやかに美術館へと向かうことができそうだ。レンガに覆われた美術館は、2階+屋根裏スペースという作り。吹き抜けになっている庭を囲むように、建物が作られており、1階にはカフェスペースなどもある。

中庭を囲むように建物は立てられている
展示室にはソファなどもある

美術館を創設した安東泰志氏は1958年9月22日、京都市生まれ。東京大学経済学部を卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入社し、ロンドン支店でのコーポレートファイナンス課長、本部での経営企画部・投資銀行企画部の次長等を歴任した後、2002年2月に企業再生・再編ファンドを運営するフェニックス・キャピタル株式会社(現・ニューホライズンキャピタル株式会社)を創業した。これまでに100社以上の日本企業の再生と成長に携わっており、2017~18年には東京都顧問として「国際金融都市・東京」構想の策定等を主導したという。

その安東氏がフジタ作品に出会ったのは、2004年のこと。〈その始まりは“かわいい”だったという。散歩の途中に偶然ギャラリーで出会った1枚の版画。そこに描かれた猫に対して直感的に覚えたシンパシーは、猫の絵、少女の絵、そして猫を抱いた少女の絵を蒐める情熱へと安東氏を駆り立てた〉と美術館の公式図録『藤田嗣治 安東コレクションの輝き』(世界文化社刊)の中で、水野昌美館長は説明している。投資ファンドの経営者として、厳しい金融の世界に身を投じていた安東氏にとって、フジタの絵は「癒やし」だったという。20年弱の間に集めた作品は約180点。「自分の死後、その作品を散逸させたくない」という思いが、美術館建設につながったのだという。

展示風景
展示風景

蒐集作品は、フジタが渡仏する前、1901年の《にわとりとタマゴ》から、最晩年、仏ランス市の「平和の聖母礼拝堂」(通称フジタ礼拝堂)のフラスコ絵を作るために描いたスケッチ《接吻》(1966年)まで、制作時期もテーマも幅広い。フジタの人生の転換点となった「戦争画」や藤田自身が絵画制作とは違った魅力を感じていたという「挿画本」なども、その中には含まれている。「私どもの自宅に皆様をお招きしているような空間にしたかった」と安東氏はいう。その言葉通り、展示室はアトホームな雰囲気で、所々にソファなども置かれている。展示室の壁は、部屋ごとに赤、青、黄などに塗り分けられ、「赤の展示室」は、観覧者の撮影が可能。ちなみにこの部屋には、猫と少女の絵が集中的に収められている。

それにしても、これだけフジタの作品が並ぶとさすがに壮観だ。「日本画のテクニックを油彩画に取り入れた」とはその作品を称してよく言われることだが、猫やイヌ、様々な動物の描き方を見ていると、「なるほどなあ」と実感する。戦時中に戦意高揚につながる絵を描いたことで非難され、日本を離れてフランスに永住したフジタ。その描く少女は単に「かわいい」だけでなく、心のずっと底にある何かを象徴しているように見えたりもする。《聖母像》などの宗教的なモチーフの絵、「乳白色の肌」の裸婦像、どこか哀感を含んだ風景画……フジタの絵を見ていると、それぞれに違う感情が揺さぶられ、様々な想いが頭の中を巡ってくる。

ミュージアムショップに並ぶグッズも、少女の絵を使ったタイル、猫が描かれたプレートなど多彩。“かわいい”という思いから始まったこの美術館、軽井沢の新たな名所になるかもしれない。

ミュージアムショップのグッズも充実
軽井沢安東美術館
所在地:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢東43―10
休館日:水曜日(ただし、水曜日が祝日の場合は開館し、翌日の木曜日が休館)
観覧料:一般2000円、高校生以下1000円、未就学児無料
アクセス:JR軽井沢駅から徒歩8分
※年末年始と2月にメンテナンスのための休館期間あり
※各種割引、開館時間、各種イベントなどの詳細情報は公式サイト(https://www.musee-ando.com/)で確認を
展示風景